仙台赤十字病医誌 Vol. 17, No. 1, 1-2, 2008

巻頭言

年の漢字に思うこと

仙台赤十字病院長

桃野  哲

要旨

偽装が問題になったお土産は,地元の駅や空港,それ以外にもデパート等に山積で販売されており,今考えると,あのように大量を多くの店舗に並べれば,一部売れ残り賞味期限が切れても不思議は有りません。菓子を実際に食べても,生と解凍・賞味期限偽装の有無で味の差が判りませんでした。また,食べてお腹を壊した人も居らず,冷凍や包装技術が進歩して長期間安全に美味しく食べられるのに,どうして冷凍保存を隠し賞味期限をごまかして表示したのでしょう。偽装や不正が発覚した後で,記者会見に臨んだ各社のトップが,当初,「社員がやったことで知らなかった」と共通して嘘をつき,指示されて止む無くやった現場の社員に罪をなすりつけ,その後,真実が分かるにつれて,どんどん窮地に追い込まれて行きました。
 毒物が混入された中国産冷凍食品の件では,消費者から食べて体調に異変を生じた,変な味がする等と連絡があった後も会社と消費者組合は販売を中止しませんでした。結果的に食品の回収が遅れ,対応が後手に回り被害が拡大しました。老舗の食品会社は,この会社の不良食品への対応を知って,食品の仕事を一緒にするのは無理,出来ないと,進行中の業務提携を中止しました。さすがに,何十年も食に携わって来た会社は違うと感じました。
 これらを見ていて,何か問題が生じた際の初期対応は,早急,正確に,かつ誠意を持って当らなければと学びました。同時に,医療安全に係わる問題では,のんびりしていると被害の拡大を招くことが有るので,軽微な誤りや事故でも全員が早急に体験を共有して,マニュアルやシステムを見直し改善する機会を持つことが大切と感じました。
 厚生労働省は,医療の現場で起きる事故や過誤について,検討・分析する中立的な第三者機関,医療事故調査委員会を作ろうと動いています。この委員会の目的が死因究明・再発防止なので設置は必要だが,一方で責任追及の機能を果たす面があって萎縮医療を招く心配があるので全面的には賛成出来ないとする意見があります。東大医科研の上昌広客員准教授の調査によると,昨年後半から医学雑誌に掲載される治療の副作用や合併症に関する医学論文数が急激に減少し,このうち診療に関連した薬の副作用や合併症についての症例報告はゼロに近付いているそうです。その理由を,医事訴訟が多くなったこと等から,医療従事者が自己防衛のため発表に消極的になっており,設置前から事故調査委員会の影響が出始めていると分析しています。
 私は,本誌の大切な存在意義は,病院が発行する医学雑誌として多くの学会誌が採用しなくなった症例報告,臨床経験・統計等を掲載することだと考えます。これからも,医師,看護師を始めとして当院の職員が投稿した臨床経験を発表する論文が,たくさん掲載されることを望みます。今年も,研修医の症例報告や各部署からの臨床経験等の論文が掲載された仙台赤十字病院医学雑誌第17巻をお届け出来ることになりました。多忙な業務の合間に,論文を投稿してくれた皆様,山田編集長と編集委員諸兄に感謝致します。