仙台赤十字病医誌 Vol. 15, No. 1, 125-129, 2006

症例報告

ヒトインスリン製剤により肝細胞障害をきたしたSPIDDMの1例

仙台赤十字病院 薬剤部,
検査部*
糖尿病代謝科**

堤  栄二  大棒 雄大  佐藤  誠*
小竹 英俊**

A Case of Slowly Progressive Insulin Dependent Diabetes Mellitus
with Liver Injury due to Recombinant Human Insulin

Department of Phrmacy,
*Department of Labolatoy,
**Division of diabetes & metabolism, Japanese Red Cross Sendai Hospital

Eiji TSUTSUMI, Takehiro DAIBO, Makoto SATO*
and Hidetoshi KOTAKE*

要旨

症例は42歳,男性。数年前より健診で高血糖を指摘されていたが放置していた。受診の10カ月前より体重減少が出現し,1カ月前からはさらに7〜8kgの急激な体重減少と口渇・多尿も出現して,当院糖尿病代謝科を受診した。著明な高血糖(食後4時間血糖527mg/dL,HbA1c15.4%)がみられたため,入院となった。入院時検査にて抗GAD抗体陽性(78.4U/mL)であり,SPIDDMと診断し,インスリン治療(ノボリンR→ノボリン30R)を開始した。13日後に肝細胞障害(AST399,ALT573)を認め,併用薬はなく,ノボリン30Rによる薬剤性肝障害を疑った。ノボラピッド30ミックスに変更したところ,肝障害の改善を認め,肝炎ウイルスマーカー,抗核抗体,ヒトインスリン特異IgE抗体などがいずれも陰性であることから,本例の肝障害はヒトインスリンによる肝細胞の直接障害と示唆された。本例はSPIDDMであり,さらにヒトインスリンでおきた肝障害がインスリンアナログで起こらなかった点において希である。


Key words: SPIDDM,ヒトインスリン,肝機能障害