仙台赤十字病医誌　Vol. 15, No. 1, 87-91, 2006

症例報告

咽後膿瘍と鑑別を要した石灰沈着性頸長筋腱炎の1例

仙台赤十字病院　耳鼻咽喉科

片桐　克則　　石戸谷雅子　　松谷　幸子

A Case of Calcific Retropharyngeal Tendinitis which Required
a Differential Diagnosis of Retropharyngeal Abscess

Department of Oto-rhino-laryngology, Japanese Red Cross Sendai Hospital

Katsunori KATAGIRI, Masako ISHIDOYA and Sachiko MATSUTANI

要旨

咽後膿瘍は時に致死的な転帰をとるため，咽後部病変の鑑別として第一に念頭に置くべき疾患である。本症例は成人症例で頸部痛，頸部屈曲・回旋困難を訴え，局所所見，MRI所見から当初，咽後膿瘍を疑われた。しかし，炎症所見は軽度であり保存的治療にて早期に軽快したことから，頸部CTを見直したところ環軸関節前方に石灰化がみられ，頸長筋腱の石灰沈着による急性炎症である石灰沈着性頸長筋腱炎と考えられた。石灰沈着性頸長筋腱炎は症状，所見とも咽後膿瘍と類似するが，炎症所見は軽度で経過良好な疾患である。両疾患の鑑別には単純X線写真やMRIだけでは不十分であり，CTによる頸椎前石灰化所見の有無を確認する必要がある。

Key words: calcific retropharyngeal tendinitis, retropharyngeal abscess, retropharyngeal lesion