仙台赤十字病医誌 Vol. 15, No. 1, 3-9, 2006

論説

病理学の昔,今,そして未来
—— 若い病理医へのメッセージ ——

東北大学名誉教授

笹野 伸昭

Historic, Present and Future Review of Pathology
—— A Message to Young Pathologists ——

Professor Emeritus, Tohoku University

Nobuaki SASANO

要旨

日米共に近代病理学の導入先はヨーロッパなかんずくドイツであった。東大の病理学初代教授がドイツ留学の後に就任したほぼ10年前に,ハーバード大学では第2代病理学教授がドイツ留学後に就任した。それから約80年,日本がドイツ病理学一辺倒で歩んで来たのに対し,米国は患者のための病理学で世界をリードするに至った。日本では病理学が基礎医学講座に置かれたことが病理医不足を生んだ根本にある。第二次大戦後の米国式病院病理の普及にも,首都圏を離れた地方では研修に全く不利であった。今日では画像電送や光学機器の進歩によるネットワークが病理医の業務や勉強会に寄与するところ大であるが,地方では病理医不足がなお隘路となっている。世界一の長寿国となり人口減少の危機に瀕している日本における病理医の当座の役割と,将来の歩むべき道について論を進めた。


Key words: ドイツ病理学,米国式病院病理,地域格差,病理診断ネットワーク,人口減少危機対策