仙台赤十字病医誌 Vol. 14, No. 1, 3-11, 2005

巻頭言

病院機能評価

仙台赤十字病院長

桃野  哲

大分前から,(財)日本医療機能評価機構による「病院が診療の質を確保して医療サービスをきちんと提供しているか否かの審査(病院機能評価)」が行われており,その審査を受ける病院が多くなっております。全国の赤十字病院では,ほぼ半数の45病院がすでに認定証の交付を受け,仙台市内でも既に多くの病院が認定されております。周囲で多くの病院が認定されており,何時までも認定証無しでは,一般の方からの評価が下がる心配もありましたので,つい最近ですが,私共も病院機能評価の審査を受けました。当院は遅れた受審でしたが,今回の当院での病院機能評価受審を振り返ってみました。
 当院では数年前に,一度受審を検討しましたが,ハード面での課題をクリアーするのは困難と判断して断念しました。病院の建物は1982年の建築で,現在のバリアフリーの観点から見ると全く不十分でした。その改装には多大な資金が必要で,当時の経営状態では,支出する余裕がありませんでした。その後,機能評価受審は話題になりませんでしたが,2002年4月に病院長に就任した小山研二先生が受審を決め,そこから再度スタートしました。
 院内に各種の委員会が立ち上げられて,多くの職種から委員が指名され,会議室が空くことがないほどの会議が開催され,会議,会議で疲れたとの声も聞こえました。各会議では,評価機構から出されている自己評価項目,「何々は的確になされているか」についての議論をし,「出来ている。または,不十分なのでこのように改善する必要がある。」などと結論を出す。そして,「どう改善すればよいか」を議論し,実行して改善に努めて,問題が十分にクリアー出来たかどうかを,また評価する。このような受審にむけた作業が断続的に行なわれました。その中で,院内環境が改善されたことや職員同士の意思の疎通が良くなり,よい人間関係が築き上げられたことが,今となれば大きな収穫です。
 長い時間,仙台赤十字病院という狭い空間のなかで,同じメンバーで仕事をしていて,疑問に思わなかったことが,世間の常識から見ればかけ離れていたことも発見出来ました。受審に備えて院内のあらゆる場所で改修工事が行なわれましたが,騒音が出るにもかかわらず,以前と同様に入院患者様には,予定について全くお知らせ無しで工事をしてお叱りを受けたことなど,世間の常識から外れ,配慮に欠けていたことにも気付かされました。また,「ふれあい箱」などで,前から指摘を受けていたことも,例えば身障者用駐車場の移動整備ですが,外圧(不適当な表現かもしれませんが)である機能評価受審を契機に,思い切ってやることが出来ました。診療録や各種の説明・承諾書の記載の不備にも,踏み込んでいくことが出来て,以前よりは数段良くなり,こちらの面ではかなり進化出来ました。
 各疾患の治療成績が公開されていることも評価の対象になっており,胃癌と大腸癌手術例の5年生存率については,以前本誌に発表しておりましたので,今回は乳癌手術例の5年・10年生存率を調査しました。なかなか大変な作業でしたが,当院の成績は全国のがんセンターなどの治療成績に比べて遜色がなく,私共の治療法に問題が無かったことを再認識出来ました。医学雑誌は今回で14巻になり,診療の案内も第2版が出ておりましたので,欠けていた年報を発行しました。病診連携室は以前からあったものの,活動が十分でありませんでした。そこで,連携の集いや診療所訪問などを積極的に行い,その結果,紹介率は40% 台まで上昇しました。安全な医療を目指して,小山院長により立ち上げられた医療安全管理室は,メンバーの努力で,十分にその機能を発揮できるようになりました。
 ハード面の整備には多くの費用を必要としましたが,病院機能評価を受審して良かったと思います。先ず,受審を契機にいろいろと改良が行われた結果,病院のハード面(バリアフリー化,プライバシー保護など)の改良が出来ました。次に,職員の人間関係が良くなり意識改革も出来て,職員に以前よりも地域の方々にひらかれた病院にしようとする気持ちが出てきたことです。しかし,最大の収穫は,仙台赤十字病院が今回の受審を契機に,「受診される患者の皆様にとってより良い病院になった」こと,そして,さらに良くなる道が拓かれたことです。