仙台赤十字病医誌 Vol. 12, No. 1, 3-8, 2003

論説

臨床三次元画像の進歩に対応する診断病理学のあり方

仙台赤十字病院顧問
東北大学名誉教授

笹野 伸昭

Diagnostic Pathology for the Progress of Clinical Three-dimensional Image

Consultant, Japanese Red Cross Sendai HospitalProfessor Emeritus, Touhoku University

Nobuaki SASANO

要旨

ゲノム医学の時代となって病理形態診断学と分子病理学の融合が説かれているかたわら,臨床の場における病理検査には古典的細胞病理学における概念と手法が生きており,マクロからミクロへの一貫した記述が最終診断の基礎となる。画像診断法の著しい進歩により生体内における病巣は,単にそのマクロの形だけでなく,内部や周辺の性状を含めて記述されるようになった。これに対し病理検査に送られてくる細胞や組織は生体内における血流や動きを失っているだけでなく,固定や顕微鏡標本作製の過程に加えられたいろいろな操作による歪みが,生体内におけるマクロの所見との直接的対比を妨げる。特に立体的画像を含め病巣の周辺の変化に対する所見を顕微鏡下に裏付けるには,多数の標本を作製する必要がある。臨床の場における画像診断の進歩のうちで特に注目される内視鏡検査に関し,生検組織の採取を必要としない非侵襲的な腫瘍性病変の検出,診断の開発が進められていることを紹介し,将来は診断病理学の方法論を変えなければならないことを強調した。


Key words: 病理形態診断学,標本作製の歪み,立体画像,内視鏡検査,非侵襲的病理診断