仙台赤十字病医誌 Vol. 11, No. 1, 3-7, 2002

論説

がんのオーダーメイド医療における病理の役割

仙台赤十字病院顧問
東北大学名誉教授

笹野 伸昭

Behavior of Pathology in Personalized Medicine for Cancer

Consultant, Japanese Red Cross Sendai Hospital

Nobuaki SASANO

要旨

 古くから注目されていたヒトの染色体もその上に遺伝子地図が完成したのは近年のことである。更に現在ではいろいろな病気のゲノム解析によって,原因遺伝子ならびに薬剤に対する応答性の個人差を把握することができ,個々の患者に対する医療の個別化に対応できるようになった。
 生活習慣病やアレルギー疾患などは,複数の遺伝的要素と環境要因が複雑に関与しているのに対し,細胞病理学の長い歴史を背景とした「がん」に関するとりくみの知見は内外共に豊かである。特にゲノム創薬の進歩はめざましく,がん分子標的薬剤も開発されているので,それに対応する形態的ゲノム研究のあるべき姿と,病理検査室における遺伝子診断の現状を考察した。
 将来のあるべき姿はともかくとして,目の前のがん患者に対して使われている殺細胞的抗がん剤には正常細胞に対する毒性が強いものが多いので,最近行われているtumor dormancy therapyについて病理の立場から論じた。これはがんの増殖をとめてがんと共存共栄しつつ延命を目ざす治療であるので,がんの自然史なかんずくラテントがんを改めて注目した。そしてそのためにも病理解剖の必要性を強調した。


Key words: 細胞内分泌学,ゲノム創薬,オーダーメイド医療,ラテントがん,病理解剖