第六十一回北日本放射線腫瘍学研究会 4)『T2,T3の声帯癌の放射線治療成績』

 

4)『T2,T3の声帯癌の放射線治療成績』
札幌医科大学 放射線医学講座
坂田 耕一・北川 未央
はじめに
声門癌は,放射線治療が主役を演じる代表的な癌である。放射線治療で喉頭が温存されて治癒する場合と,喉頭摘出術で治癒した場合で,治療後の患者のQOLが大幅に異なる。声門癌の放射線治療は,T1の照射による局所制御率が80〜95%と良好な治療成績であるが,T2は70〜85%とまだまだ改善の余地があるし,T3は40〜70%で喉頭摘出術となってしまうことが多い。今後の声門癌の放射線治療の課題は,T2,T3の治療成績を向上させることである。それに対しては,現在まで,様々なfractionation,抗癌剤の併用などが行われてきたが,まだ,決定的な治療法が見いだされていないのが現状である。そこで,当院での声門癌のT2症例(特に,再発例),T3症例を提示し,解析した。



対象と方法
札幌医大で2010-12年で放射線治療を行った,T2(14名),T3(2名)を対象とした。
放射線治療や同時化学療法は,下記のように施行した。
・線量分割法
(1) 通常分割:70 Gy/35 Fr (2 Gy/Fr),64.8 Gy/27 Fr (2.4 Gy/Fr) (14名)
(2) 加速過分割:58.4 Gy/34 Fr (1.7 Gy/Fr, 2 Fr/day) (2名)
・同時併用化学療法
TS-1:80 or 90 mg/body(1名)
CDDP (90 mg/body) + TS-1(3名)

また,腫瘍体積は,CT画像より算出した。



結果及び考察
2013年9月までのフォローでは,16名中,再発は1名であった。
Fig. 1は,T2声門癌の局所制御に関して,腫瘍の体積と放射線治療期間との関係を図示したものである。再発した1例が,腫瘍体積が大きい部類に入り,かつ,放射線治療期間が長い部類に入っている。追跡期間が充分ではないので,断定的ことはいえない。しかし,腫瘍の体積が大きいことへの対処や照射期間の短縮が,T2,T3声門癌の放射線治療成績の改善のポイントである可能性がある。腫瘍体積が大きいT2,T3声門癌への対策としては抗癌剤の同時併用が考えられる。また,放射線治療期間への対策としては加速過分割照射が考えられる。
声門癌に対する化学放射線治療に用いられる抗癌剤としては,RTOG 91-11の結果がある。CDDPを照射期間中3コース同時併用するもので,照射単独に比べ,喉頭温存率が向上していた1)。低腎機能などでCDDPが使用できない場合には,TS-1の併用は選択肢の一つであるが,その有用性を示すランダマイズトライアルでは行われていない。
加速過分割照射であるが,当科では以前より,55 Gy/32 Frまたは58.4 Gy/34 Fr (1.7 Gy/Fr, 2 Fr/day)のスケジュールを使用してきている。Fig. 2で示すように,通常分割照射に比べ,咽頭喉頭粘膜の炎症が強いが,晩期の有害事象は,通常分割照射と同等である2)。
Fig. 3とFig. 4に,T3症例を提示する。2例とも,傍声帯間隙や甲状軟骨の内側に腫瘍の浸潤がCTで認められ,T3となった症例であった。この2例とも,声帯は固定していなかった。T3でも声帯が固定していない場合は,照射が効果的である可能性がある。Fig. 5は,T2症例であるが,Fig. 3や4に比べ,腫瘍のvolumeが大きいように見える。このように,内視鏡所見のみでは,T分類が決められない場合がある。早期の声門部喉頭癌であれば,喉頭鏡やファイバースコープを用いた臨床所見でT病期診断が可能だが,進行癌や声門上部癌では,CT所見による評価を併用することにより正診率が向上する。
また,Fig. 3, 4で示したT3症例は,いずれも,照射終了直後には,内視鏡上は,明らかな腫瘍が認められず,2013年9月現在,無再発である。Fig. 6のT2症例で示すように,照射終了直後には,腫瘍の残存の疑いがあっても,その後,消失することもあるので,照射終了後の厳重な経過観察は重要である。



Fig. 1. T2声門癌の局所制御の解析


Fig. 2. AHF照射の咽頭粘膜の炎症


Fig. 3. T3症例


Fig. 4. T3症例


Fig. 5.


Fig. 6. 照射直後PR→follow中CR症例




参考文献
 1) Forastiere A, Goepfert H, Maor M, et al. Concurrent chemotherapy and radiotherapy for organ preservation in advanced laryngeal cancer. N. Engl. J. Med., 2003;349(22):2091-2098.
 2) Sakata K, Someya M, Hori M, et al. Hyperfractionated accelerated Radiotherapy for T1, 2 Glottic Carcinoma:
Consideration of time-dose factors. Strahlenther Onkol., 2008;184:364-369.




編 集 後 記

東北大学大学院医学系研究科 放射線腫瘍学分野 教授  神 宮 啓 一


今回は札幌医科大学の坂田耕一先生に当番世話人をしていただいた。先生からいただいたテーマは「T2の声門癌の再発症例の解析およびT3の声門癌の放射線治療」であった。北海道がんセンター,宮城県立がんセンター,新潟県立がんセンターおよび札幌医科大学からそれぞれの自験例や治療成績の発表をいただいた。これまでT2と判断されてきたものの中には,近年の診断画像の発展に伴って声門周囲腔への腫瘍浸潤が描出されるようになり,T3と判断されるようになってきた。従来のT2N0M0の治療成績がもう少し良好なのかもしれない。治療技術のみならず画像診断技術の向上が放射線治療に与える影響が大きくなっているように思われる。今後はさらに遺伝子情報などから治療法が選択される時代になると予想され,我々放射線治療医もまた勉強を進めなければならない。
本原稿を書いている頃,STAP細胞疑惑の報道が過熱していた。この細胞の存在の有無はまだ不明であるが,最近循環器系の薬剤など研究の不正がなにかと話題になっており,研究倫理について改めて問題提起されている。研究のみならず診療においても倫理感を失うことなく誠実に業務を行っていくことが大変重要である。まさしく私の座右の銘である「至誠励業」である。当たり前と思いつつ,つい忘れがちな問題である。iPS細胞を樹立し,ノーベル賞を受賞した山中教授は今回のSTAP細胞の件で30代の研究者はまだ未熟であると言われたそうである。そのため熟練した研究者の指導と援助が重要な時期であるとも言われた。この報道を見た時,30代の研究者である私にとっては背筋が伸びる思いであった。30にして起つ。慢心することなく放射線腫瘍学に励んでいきたい。本研究会が若い世代の研究者や医師の業務に少しでも役立つことを願うばかりである。過去の発表内容(第36回以降)もインターネットで見ることができるようになっているのでぜひ活用いただきたい。
なお,第60回のときに行った膣断端再発子宮頸がんに対するアンケート調査結果は「臨床放射線」に投稿し,2014年4月号に掲載された。この場を借りてアンケートに協力いただいた先生方には再度御礼申し上げる。北日本の放射線治療医の皆様には引き続き本研究会の発展にお力をお貸しいただければ幸いである。
最後に本研究会の運営などにご支援いただいている日本化薬株式会社さんに感謝を申し上げる。