はじめに
喉頭癌T1は放射線治療で良好の成績だが,粘膜面に横方向に広がるT2,深部方向に浸潤するT3は成績不良である。そこで,総線量増加のための多分割照射,一回線量増加のための定位照射,抗癌剤同時期併用,分子標的薬同時期併用などの工夫がされてきた。
喉頭癌T2T3の放射線治療の成績を把握し,進行喉頭癌の治療法を検討し,喉頭温存あるいは生存率向上のために進行喉頭癌に対する根治的放射線治療の適応のあり方を探る。
対 象
当院で西暦2000年1月から2013年6月の間に放射線治療を開始の喉頭癌はT2T3それぞれ61例23例であった。このうち術後頸部リンパ節再発3例を除いた根治照射例のT2のうち24例,T3 21例について検討した(表1)。男41例,女5例,55〜88歳で,平均73歳, 観察期間は平均949日,中央482日,組織型で低分化型はT2 6例,T3 4例であった。
照射として,T2では声門上癌に広い照射野44〜46 Gy macro lesion 70 Gy,声門癌 N+に同様の治療,声門癌N0には局所照射70 Gy(11例), 64.8 Gy/27 f(4例),声門下癌には全頸部照射44〜46 Gy,macro lesion 70 Gyを照射した。T3では広い照射野44〜46 Gy,macro lesion 70 Gyを基本としたが,5例に喉頭限局70 Gy,1例に喉頭限局40 Gyを照射し無効と判断して喉頭全摘を行った。他に中断は1例あった。
併用化療はCDDP+5FU+TXTをT2 3例,T3 10例に行った。術前に9例,同時期併用は9例であった。T3では事情が許せば基本的に併用した。T2ではN+声門上など選択的併用であった。同時期併用例は全て広い照射野で開始する症例であった。
表1.
結果と考察
5年粗生存率および原病生存率はそれぞれT2では83%,91%,T3では50%,53%であった(図1図2)。なお,これは原病無病生存と比較すると良く,喉頭全摘等によるサルベージによる改善である(図3)。観察期間内の他癌併発が16例と多く,これが悪性腫瘍無病生存を下げている(図4)。
また,リンパ節の有無で5年原病無病生存みるとN0症例全体では78%,N(+)全体では38%であった(図5)。
亜区域別の5年原病無病生存および原病生存は声門癌で73%,78%,声門上部癌42%,45%と,声門で良好だったが,リンパ節転移の割合を反映していると思われた。
再発形式は,喉頭7例,リンパ4例,喉頭+リンパ節3例,遠隔転移2例であった(表2)。
喉頭再発についてT3とT2ともに70%ほどで再発率に差がなかった(図6)。T3に化療併用が多いことが作用していると考えられる。喉摘など喉頭再発に対する再治療を行った7例のうち3例にリンパ節再発をみた。また,亜区域別に喉頭病変の制御を見ても差は認められなかった(図7)。
リンパ節再発について,N0およびN+の原病無病生存率を示す(図8)。N0からのN再発はT2 3例,T3 1例で,この場合喉頭再発も同時に出現している場合が多い。N+からの再発は5例ともT3からであった。亜区域でみると,やはり声門癌からのリンパ節再発がほかの部位からのそれに比べ少なかった。
化療併用による効果は,喉頭病変制御について照射前化療と僅かの照射で中断せざるを得なかった1例を除いて全例制御された(図9)。腫大リンパ節についても良好の制御であった(図10)。
有害事象は味覚異常,声枯れ,誤嚥,咳,摂食困難,長い食事時間,チューブ栄養など認められたが,評価できる35例中,Gr1 8例,Gr2 3例,Gr3 5例であった。その内CCRT例では評価できる8例中,Gr2 2例,Gr3 2例と,化療例で強く出現している。
図1. 粗生存率
図2. 原病生存率
図3. 原病無病生存率
図4. 悪性腫瘍無病生存率
図5. N0 N+の原病無病生存
表2.
図6. T2およびT3の喉頭制御
図7. 亜区域別 喉頭再発率
図8. N0 N+のリンパ節再発
図9. 化療の有無と喉頭再発
ま と め
T3の喉頭制御率は比較的よく,T3とT2で喉頭温存率はさほど変らなかった。これは化療併用による効果と考えられる。化療併用は喉頭制御においてもリンパ節制御においても有用である可能性が示唆された。とくに化療の同時期併用は成績良好の印象であった。しかし,化療併用例では摂食障害等,有害事象を起こすことが多かった。
Nの制御が生命予後に重要で,喉頭再発の方は喉頭全摘でサルベージされる。しかし,それも後日,リンパ節転移等を生じ易く,必ずしも全例経過良好とはいえない。
T3症例には老齢,PS低下,局所進行などで局所照射だけの対応とせせざるを得ない症例があり,治療成績は不良である。
以上,当院での喉頭癌放射線治療について概観した。内視鏡による肉眼所見による制御の可能性の傾向なども探ってみたが明瞭にできなかった。
図10. N(+)症例の化療の有無とN制御