第六十一回北日本放射線腫瘍学研究会 主題:『T2の声門癌の再発例の症例提示及び解析,及びT3の声門癌の放射線治療』

 

主題:『T2の声門癌の再発例の症例提示及び解析,及びT3の声門癌の放射線治療』
司会 札幌医科大学医学部 放射線医学講座 教授
坂田 耕一

はじめに
 声門癌は,放射線治療にとって,伝統的に重要な根治対象であり,様々な線量分割が行われてきた。化学療法が同時併用される場合もある。また,声門癌は間接喉頭鏡や内視鏡で,比較的容易に視診できる癌であり,照射期間中に,癌の縮小具合を観察でき,正常喉頭咽頭粘膜の粘膜炎も何Gyでどの程度になるかを観察でき,若い放射線腫瘍医にとって,大変良い経験を与えてくれる。
 私は1980年代に放射線腫瘍医(その当時は放射線治療医といいました)の研鑽をしたのであるが,慣れない間接喉頭鏡で,何度も患者さんの咳の直撃を顔面にあびながら,懸命に声門癌の観察を行い,癌が縮小していくのを見て感激したのをよく覚えている。また,教科書に記載されていないことを体験しながら,学んだ。たとえば,赤身の肉のような外見で腫瘤状の癌は放射線治療の効果が良好で,大きくとも,思いがけず放射線治療だけで治ってくれることが多いこと。そういった癌は,喉頭蓋に発生する癌でよくみられること。白色の外観(角化の強い)を持つ腫瘍はVolumeが小さくても照射後,しぶとく残存することがあること。照射前には,癌の浸潤がわからなかった部位が照射後早期に白苔が付着することにより,判明するなど,である。また,こういったことは傾向であり,例外もあり,こういった経験則に全幅の信頼を置くことはできないが,でも今後の放射線治療効果の予測の参考になり,書物によってではなく,このように実体験で修得した知識は,良く身につくものである。
 その当時は,教科書もFletcherの教科書しかなく,もちろんJASTROもなく,教育システムはどの施設でもきちんとしたものがなかった時代で,当時の私を含め放射線治療の若手医師は,患者さんが我々の先生であり,とにかく,多くの患者をみて,放射線治療効果を観察し,それを解釈する経験を積み重ねようと努力していたのである。1980年代の1時期,喉頭咽頭炎を軽減し患者さんの苦痛を軽減することができるということで,1回線量を2 Gyから1.8 Gyに減らすこと(総線量はほぼ同じ)が行われたことがあった。確かに,毎週,観察すると,喉頭咽頭炎は軽減し患者さんも楽そうであったが,癌の縮小具合は1回線量が2 Gyに比べ,今一つ鈍い感じがした。実際,治療成績は低下した。
 現代は,高解像度のCT,MRI,PET-CTなどのハイテク機器を用いた画像診断が使用可能となり,その有用性や重要性は議論の余地がないが,そういった画像でいわば間接的にみる癌の放射線治療に対する反応の他に,喉頭鏡や内視鏡で“生”でみる癌の反応を観察する経験を総合することで,放射線腫瘍医の「癌に対する放射線治療効果」の認識が深まる。
 声門癌は,放射線治療が主役を演じる代表的な癌である。放射線治療で喉頭が温存されて治癒する場合と,喉頭摘出術で治癒した場合で,治療後の患者のQOLが大幅に異なるのは言うまでもないことである。声門癌の放射線治療は完成しているように思われているかもしれないが,そうではない。たしかに,声門癌のT1は照射による局所制御率が80〜95%と良好な治療成績であるが,T2は70〜85%とまだまだ改善の余地があるし,T3は40〜70%で喉頭摘出術となってしまう場合が多い。T2,T3に対しては,現在まで,fractionationの改変,抗癌剤の併用などが行われてきたが,まだ,決定的な治療法が見いだされていないのが現状である。そこで,各施設で声門癌のT2症例(特に,再発例),T3症例の経験を持ち寄り,何か,これらに対する今後の治療法のヒントになればと考え,この主題を企画した。北海道がんセンターの沖本先生からは,声門癌のT2再発およびT3声門癌の治療成績の他,放射線治療期間中なのに禁煙を守れない場合治療成績が劣ること,その原因として,癌の低酸素が関与する可能性があることを述べられた。宮城県立がんセンターの和田先生,新潟県立がんセンターの杉田先生は,各施設における声門癌のT2再発およびT3声門癌の治療成績と解析を発表された。私は,札幌医大の症例から,内視鏡所見と放射線治療効果を中心に,発表した。
 T2,T3の声門癌の治療成績の改善は,線量集中という物理的な観点からだけは困難で,altered fractionationや薬物(抗癌剤,放射線増感剤,分子標的剤など)など生物学的な観点からの寄与が期待される分野である。今回の北日本放射線腫瘍学研究会はJASTROの2週間前であったため,通常より参加者が少なかったが,有意義な議論ができたと思う。発表していただいた各各施設代表者の先生,参加いただいた先生に,この場をお借りして,感謝いたします。