第六十回北日本放射線腫瘍学研究会 1)『膣内照射を用いない治療─北見赤十字病院における方針と治療成績の報告』

 

1)『膣内照射を用いない治療─北見赤十字病院における方針と治療成績の報告』
北見赤十字病院 放射線科
有本 卓郎
 
 子宮頸癌術後膣断端再発は,術後経過観察例から比較的早期でみつかり,かつ多くが再切除困難で,放射線治療の役割が大きい。
 しかしながら,スペーサー/挿入固定組織としての頚管,体部を欠き,腔内照射に困難を生じることが多い。対象症例も多くはなく,散発的個別的で施設,主治医による治療のばらつきが大きい。確たるガイドラインもない,などの問題点がある。
 1)子宮頸癌手術後の膣断端再発で 2)術後病理所見での再発リスクファクターに基づく(予防的)術後放射線治療が行われていない,1)2)を同時に満たす例が初回RTの治療対象となるが,決して多くはない。
 北見赤十字病院では,Liniac-mounted Cone-beam CTが稼働しImage-guided RT (IGRT) が本格的に可能になった2005年から2012年までの7年間に頸癌膣断端再発で初回RTを受けた症例は18症例であった。同7年間に北見赤十字病院で円錐切除(Stage0-Ia) および広汎子宮全摘術 (StageIb-IIb)が行われた症例は603例あり(北見日赤がんデータベースより),18例は,全手術例の約3%にあたる。


対象
 2005-2012年 放射線治療を行った子宮がん術後の膣断端再発例 18例
   RT開始時の年齢;      45-78歳
   手術から再発までの期間;   7-38 mo.
   再発時のrT1-2N0M0 15例, rT3aN0M0 1例, rT2N1+M0 2例**
 なお,CT計測で明らかな腫瘍(−)をrT0, 長径2 cm以下をrT1,2-4 cmをrT2と便宜的に分類した。
 1例では膣入口部再発を伴っていた (rT3aN0M0)。
 **2例ではCT/PET上明らかな骨盤内リンパ節再発(+)を伴っていた。


放射線治療
 すべての例で局所 IGRT/EBRT 60-66 Gy/30-33 fr/BID/3.5-4 wksが行われた。
 腔内照射は行われていない。リンパ節再発のあった2例では別portでSBRT(定位照射)が3カ所に行われた。全骨盤照射は行われていない。
 膣入口部病変,CT上断端scarと判別困難な病巣はクリップマーキングした。
 全例,毎回治療ごとに,CBCTによる位置合わせ,膀胱尿量のコントロール(排尿後1時間でCBCT,不足の場合待機,飲水など,概略の量,形状を合わせる)図1, 2。なお,治療計画CTでは病変病出を優先して必ず造影剤を使用,生じる線量計算誤差は許容した。術後瘢痕との識別上,造影剤使用はやむを得ないと考えている。


図1.


結果
 1) 18例の予後は良好。12-84 mo. 経過観察で局所再発は1例もなかった。Median follo-up 49 mo.
 2) 1例が 72 mo. でNED他因死(6年間通院経過観察),1例が担がん生存中 他は NED観察中である。5年DFS 94.4%。
   1例は後発PAN,多発肺転移を生じ,化療中。
 3) 18例からGrade I以上の直腸膀胱傷害は生じていない (12-84 mo.)Blood on stool, 血尿も観察されない。Median follow-up 49 mo.


要約と考察
 2005-2012年の子宮頸癌膣断端再発例18例をまとめた。
  *術後照射が既に行われていた再照射例は検討から除外した。
  *体がん膣断端再発例のRT一次治療例はむしろ多いが,除外した。
 子宮頸癌膣断端再発例は,0-Ia, Ib-IIb手術群のうち術後病理でリスクファクー (+)群が(術後RTのため)除外され,リスクファクター(−)群が母群で,選択biasがある可能性がある。
 細胞診(+)のみの例はなく,CT/MRI/PETで何らかの腫瘍所見が認められた。
 18例の結果は,全骨盤RTを用いない,局所 “Daily-IGRT” BED2.0 72-76 Gy相当で予後良好だった。全骨盤RTなしで,5年DFS 94.4% 局所,領域再発を認めなかったが,骨盤内リンパ節再発を伴った1例では照射範囲外(PAN,肺)に後発多発転移があった。
 直腸,膀胱傷害については Median 49 mo.で生じていない。
 少ない観察例ではあるが,少なくとも全骨盤照射を要さない(あるいは行っても予後には寄与しない)膣断端再発例が,かなりあると考えられた。
 高精度 IGRT は,腔内照射による治療に比べて
 1) 空間的線量分布,時間的線量分割での自由度が高い。
 2) “Daily” IGRT化で 位置の再現性は良好。
 3) GTV内線量分布の均一性が高く,標準化しやすい。GTV+margin=CTVで医師入力は単純化され,入力variationを最小化できる。最低線量に依存する腫瘍治癒にとって,無駄な高線量域がなく,合理的と考えている。
 4) なにより,患者負担は最小で,線源管理も不要。治療部位の制限がない。
 5) PET/CT ガイド,Hypofractionなど,さらに精度向上,負担軽減の余地がある。分子画像,精度を増したGPS誘導など未来性がある。
 限られた resouceを投入すべき方向性か,と思う。