第五十九回北日本放射線腫瘍学研究会 4)『食道癌に対する(化学)放射線治療の役割の再検証 陽子線』

 

4)『食道癌に対する(化学)放射線治療の役割の再検証 陽子線』
南東北がん陽子線治療センター
高田 彰憲
背景・目的
 食道癌は化学放射線療法によって治療成績の向上が得られているが,治療後の再発や,照射に伴う合併症(心機能・肺機能障害)が問題となっている。陽子線治療は腫瘍への線量集中性が優れている為,より高い局所制御率と合併症の軽減が図られる可能性がある。当院での陽子線治療を施行した治療症例をもとに,その有効性を検証した。


対 象
 2009年1月から2012年5月に当院にて陽子線治療を行ったStage Ⅰ〜Ⅳ(UICC2009)の食道がんのうち,遠隔転移がある症例や,重複癌のある症例,食道気管瘻形成症例を除いた78例について報告する。男女比=56:22,年齢中央値65.5歳(範囲:47歳〜89歳),病理組織は2例が腺癌で,その他すべて扁平上皮癌であった。Stage(UICC2009)での内訳はStage ⅠA/ⅠB/ⅡA/ⅡB/ⅢA/ⅢB/ⅢC/Ⅳ=16/5/2/7/21/2/15/10(UICC2009)であった。部位の内訳は78例中18例が頸部食道がんで59例が胸部食道がん,1例が腹部食道がんであった。


治療方法
 75歳以上の高齢者や全身化学療法拒否例以外には化学放射線治療を併用した。FN療法2コースと,X線照射36 Gy/20回,陽子線照射33〜44 GyEの交替療法を採用した(Fig. 1)。標準治療であるFP療法ではなく,FN療法にしたのは,NDPがCDDPと比べより消化器毒性,腎毒性が少ない為である。5-FU/NDP=700/120(〜130)mg/m2を4週毎に2コース行い,全身化学療法2コースの間に食道がんリンパ節予防域も含めた照射野でX線36 Gy/20 frを行った。後半に治療前検査で明らであった病変領域に対して陽子線による局所照射を行った。


結 果
 生存者における治療開始からの観察期間中央値は24か月であった。一次効果はCRが78例中56例(71.8%),PRが20例(25.6%),PDが2例(2.5%)であった。局所制御率は78例中60例(76.9%)であった。Stage Ⅱ/Ⅲ(non T4)における局所制御率は33例中23例(69.7%)であった。再発は78例中29例で,食道局所再発16例,照射野内リンパ節再発2例,照射野外リンパ節再発5例,その他遠隔転移が6例であった。死亡は24例で,原病死が19例,食道出血1例,気管出血1例,十二指腸出血1例,肺炎1例,他病死(大腸がん肝転移,腹膜播種による死亡)1例であった。


Fig.1


治療前内視鏡所見における死亡率の違いに関しては,表在型が21例中1例(4.7%),1型:隆起型が8例中2例(25%),2型:潰瘍限局型が23例中7例(30%),3型:潰瘍浸潤型が13例中6例(46%),4,5型が13例中8例(62%)であった。治療前に通常径内視鏡が通過可能だった症例は58例で,その内10例(17%)が死亡したのに対し,治療前に通常径内視鏡が通過不能だった症例20例中14例(70%)が死亡した。有害事象に関してGrade3(NCI-CTC version2)以上のものでまとめると,血液毒性として,白血球減少が43.6%,好中球減少34.6%,血小板減少25.6%であった。非血液毒性では,食道炎・食道潰瘍が10.2%,食道穿孔2.7%,肺臓炎3.8%,心嚢水貯留が1%であった。生存者観察期間24カ月の時点での全生存率は69.2%であった。


線量分布:陽子線,X線照射の比較
 Fig. 2で示す通り,後半の陽子線照射は基本的に2門で行った。1門ではなく2門で行ったのは皮膚線量を下げる事が目的で,結果重篤な放射線性皮膚炎は認められなかった。陽子線と通常のX線によるBoost照射との比較をDVHで行ってみると(Fig. 3),心臓・肺への線量を下げる事(白矢印がX線,黒矢印が陽子線)が示された。


結 論
 食道がんに対する陽子線治療の一次効果は良好であった。また心臓・肺への線量を下げる事が可能であった。観察期間が不十分な為,晩期障害についての正確な評価はできないが,重篤な晩期障害を抑えられる可能性が示唆された。


Fig.2


Fig.3


胃周囲リンパ節転移のある症例を除いて,すべての症例でPTVへの十分な線量投与が可能であった。特に頸部食道がんでは,従来のX線照射では根治線量投与不可能な症例に関しても,照射が可能であった。治療前内視鏡所見では,陽子線併用化学放射線療法によるリスク評価の判断に寄与する可能性があり,治療前方針決定の参考になると考えられた。今回のプロトコールでは食道や血液毒性が強く出現する可能性があり,至適線量に関しては更なる検証が必要と思われる。