第五十九回北日本放射線腫瘍学研究会 3)『Ⅳ期食道癌への化学放射線療法における高線量の照射の妥当性の検討〜食道癌取扱い規約第10版におけるN4・IVa症例解析〜』

 

3)『Ⅳ期食道癌への化学放射線療法における高線量の照射の妥当性の検討〜食道癌取扱い規約第10版におけるN4・IVa症例解析〜』
米沢市立病院 放射線科
平賀 利匡
山形大学医学部付属病院 放射線治療科
小野 崇・川城 壮平
萩原 靖倫・太田 伊吹
市川 真由美・黒田 勇気
三輪 弥沙子・根本 建二


目 的
 N4領域に転移を認めるIVa期食道癌の治療方針は,食道癌診断・治療ガイドラインにおいて統一した治療方針は定められていない。当院では上記の進行食道癌に対して,高線量の放射線照射を組み合わせた化学放射線療法を実施してきた。上記の進行癌に対する化学放射線療法の治療成績の報告はなく,多くの施設で低線量,または対症療法が行われており,当院の治療に妥当性があるか検討した。


対 象
 対象は山形大学医学部付属病院で2007年7月〜2010年5月に初回治療として50 Gy以上の化学放射線療法を行ったN4領域に転移があるIVa期食道癌7例であった。手術例,重複癌患者は除外した。全例が男性で,年齢は69(62-74)歳,頚部食道が1例,胸部中部食道が3例,胸部下部食道が3例であった。T因子はT2が3例,T3が3例,T4が1例であった。照射野は食道と転移リンパ節をすべて含んだものが6例で,N4リンパ節のみ照射野から外した症例が1例(胸部中部食道癌でN4領域のリンパ節は肝門部。治療効果を見てN4領域の転移リンパ節の照射を検討したが,治療による縮小を認めたため照射しなかった)であった。線量の中央値は60 Gyで,内訳は50.4 Gy/28 frが1例(N4リンパ節のみ照射野から外した),60 Gy/30 frが4例,60 Gy/50 frが2例であった。60 Gy/30 frの照射を行った症例のうち,1例でN4リンパ節に対してboost照射を行わなかった。


症 例 1
 74歳男性で胸部下部食道癌T3N4M0 IVa期,主訴は嚥下困難であった。左鎖骨上窩から縦隔,胃噴門周囲,傍大動脈,右総長骨領域に転移リンパ節を認め,N4と診断された。食道病変や転移リンパ節病変,予防域に対して60 Gy/30 frの照射を実施した。嚥下困難は改善したが,治療後7か月後に縦隔と傍大動脈リンパ節に再発を認めた。2nd lineの化学療法がおこなわれ病変は縮小したが,治療後13か月後に傍大動脈リンパ節や上縦隔のリンパ節に再発を認めた。緩和治療に移行し,治療後21か月で死亡した。食道局所はPRで,嚥下困難は改善した。


症 例 2
 62歳男性で胸部中部食道癌T2N4M0 IVa期,主訴は胃部不快感であった。縦隔から胃噴門周囲,傍大動脈に転移リンパ節を認め,N4と診断された。食道病変や転移リンパ節病変,また予防域に対して50.4 Gy/28 frの照射を行った。治療後2か月後に経過観察のCTを撮影し,放射線肺臓炎を認めた。経過とともに緩徐に病変の拡大を認めた。発熱と呼吸困難が出現し,ステロイドやエラスポールなどの薬物療法や人工呼吸器での呼吸管理による治療が行われた。一時は病状の軽減を認めたが,治療後6ヶ月に呼吸不全で死亡した。放射線肺臓炎Grade 5の症例であった。


結 果
 全症例の生存期間の中央値は10ヶ月であった。
 Grade 3以上の血液毒性は,白血球減少が6/7例(86 %),好中球減少は3/7例(43 %),貧血が4/7例(57 %),血小板減少が1/7例(14 %)であった。Grade 3以上の非血液毒性は,悪心が2/7(29 %),食道炎が1/7(14 %),食道狭窄が1/7(14 %),肺臓炎が1/7(14 %),発熱性好中球減少が1/7例(14 %)であった。
 食道病変の1次効果は内視鏡による評価が行われ,CRが71 %,PRが29 %であった。
 7例中5例で治療前に嚥下困難を自覚しており, T2症例の2例では嚥下困難の自覚はなかった。医師記録・看護記録を参照し,嚥下機能・嚥下困難の改善がみられたものを改善と評価したが,嚥下困難を自覚した全例で治療により症状の改善を認めた。


考 察
 UICCでM1とされる縦隔外のリンパ節転移,またリンパ節以外の他臓器転移を認めた進行食道癌の治療報告は少なく,特に傍大動脈などの遠隔リンパ節転移を有する症例への治療成績の報告はなかった。化学療法単独による治療成績はいくつか報告されていた。Millar Jらはgemcitabine + cisplatin 併用化学療法によるUICC T4/M1 42例の治療成績を報告しており,生存期間中央値は11ヶ月,食道局所の1次効果はRR 45 %(CR 7 %)であった1)。本田らはdoxorubicin + cisplatin + fluorouracil併用化学療法によるUICC M1 41例の治療成績を報告しており,生存期間中央値は10ヶ月,食道局所の1次効果はRR 44 %(CR 5%)であった2)。本報告はこれらの化学療法単独の報告と比較して,生存期間は同様であった。食道局所の1次効果は,放射線療法を組み合わせた成績の方がよく,本報告の食道局所の1次効果はCR 71 %であった。


結 語
 少数例の検討で信頼性は高くはないが,当科の検討では広範なN4リンパ節領域に対する高線量の照射は生存期間の改善に寄与せず,安易に行うべきではないと思われた。


参考文献
1)Millar J, Scullin P, Morrison A, et al. Phase Ⅱ study of gemcitabine and cisplatin in locally advanced/metastatic oesophageal cancer. Br J Cancer 2005;93:1112-1116.
2)Honda M, Miura A, Izumi Y, et al. Doxorubicin, cisplatin and fluorouracil combination therapy for metastatic esophageal squamous cell carcinoma. Dis Esophagus 2010;23:641-645.