第五十九回北日本放射線腫瘍学研究会 2)『食道癌に対する(化学)放射線治療の役割の再検証 Ⅱ/Ⅲ期』

 

2)『食道癌に対する(化学)放射線治療の役割の再検証 Ⅱ/Ⅲ期』
東北大学大学院医学系研究科 放射線腫瘍学分野
梅澤 玲
はじめに
 我が国において食道癌Ⅱ/Ⅲ期の標準治療は,術前化学療法+外科手術である。化学放射線治療(CRT)は,手術不能な場合や患者の希望で施行される事が多い(JCOG9907の術前照射群の5年生存率は55.0%,JCOG9906の5年生存率は36.8%1-2))。しかし,食道癌Ⅱ/Ⅲ期は決してCRTで根治不能という訳ではなく,今後更なる治療成績向上を期待できると考える。食道癌に対するCRTのレジメンはJCOG9906やJCOG0502など複数存在しており,標準治療が確立していない。当院におけるⅡ/Ⅲ期に対するCRTの治療成績を見直し,今後の課題について検討した。


対象と方法
 2000年1月から2011年12月までにCRTを施行し,経過を追跡できたⅡ/Ⅲ期食道癌(T4症例も含む)314症例を対象とした。今回,TNM分類はUICC第6版を用いて検討した。照射単独症例,頸部食道癌症例,重複癌症例,過去に照射歴があり重複する症例は,今回の検討から除外した。
 対象症例年齢の中央値は,67歳(42-85歳)。性別は,男性266例,女性48例。病巣部位はUt 48例,Mt 167例,Lt 99例であった。病期は,Ⅱ期96例,Ⅲ期218例であった。
 放射線治療に関しては,10-15 MVX線を用いた。1回線量1.8-2.0 Gy,1日1回週5回照射を行った。Long-T照射を40 Gyまで施行後,脊髄を外して原発巣とリンパ節転移に対して20-30 Gyまで施行した。全身状態や年齢を考慮して,予防域を含めずに照射野を縮小している症例もあった。総線量は60-70 Gyであった。
 今回用いられたCRTのプロトコールであるが,JCOG9906が154例,JCOG0502が34例,nedaplatin+5-FU併用症例が83例,低用量cisplatin+5-FU併用が24例,nedaplatin+docetaxel併用が6例であった。当院では術前化学放射線治療(Long-T 30 Gy, CDDP 40 mg/m2+5-FU 400 mg/m2 1コース)を施行するようになり,13例存在した。
 全生存率をKaplan-Meier法を用いて計算した。Log-rank検定を用いて,各因子での有意差を検討した。急性期障害に関しては今回評価しておらず,化学療法の施行回数と照射完遂率のみ記載した。晩期障害はCTCAE ver4.0を用いて評価した。CRT後の再発形式についても記載した。


結 果
 観察期間中央値は19ヶ月(2-150ヶ月)であった。全症例での3年生存率・5年生存率は,それぞれ52.8%・45.8%であった(図1)。年代別で比較した結果,2000-2005年での3年生存率,5年全生存率は48.1%,40.1%,2006-2011年の成績はそれぞれ55.1%,53.3%であった(p=0.003)(図2)。


図1.


図2.


病期別に検討した結果,Ⅱ期の3年生存率,5年全生存率はそれぞれ76.6%,65.2%であり,Ⅲ期については41.7%,36.9%であった(図3)。どのプロトコールも95%以上の照射完遂率であったが,9例は非完遂であった。非完遂の理由として,放射線肺臓炎,脳梗塞,治療拒否,高度食道狭窄,骨髄抑制などであった。化学療法2コース施行できなかった症例は41例であり,主な原因としては,骨髄抑制や腎機能低下であった。各プロトコールにおける全生存率と完遂率は(表1,2)の通りである。
 CRT後の初発再発形式は表3の通りである。全症例のうち169例(53.8%)で再発を確認し,そのうち109例(34.7%)が局所再発であった。再発時の加療であるが,48例でsalvage手術が施行され,salvage EMR/ESDは12例で施行された。
 Grade3以上の晩期障害は表4の通りである。Grade5の放射線肺臓炎が2例,心臓障害が1例(心室細動)で確認された。


図3.


表1. 完遂率
protocol 照射完遂率 化学療法2コース施行率
JCOG9906 95.4% 92.2%
JCOG0502 100% 82.4%
CDGP+5-FU 97.5% 81.9%
低用量FP 95.8% 66.7%
CDGP+TXT 100% 100%
術前CRT 100% 100%


表2. プロトコール別5年全生存率
protocol Ⅱ期 Ⅲ期
JCOG9906 72.7%(5年) 40.2%(5年)
JCOG0502 60.0%(3年) 27.2%(3年)
CDGP+5-FU 48.8%(5年) 33.5%(5年)
低用量FP 60.0%(5年) 23.0%(5年)
CDGP+TXT 66.7%(3年) 50.0%(3年)
術前CRT 100%(1年) 91.7%(1年)
全体 65.2%(5年) 36.9%(5年)


表3. 初回再発形式
再発形式 症例数
Locoregional
(食道局所再発症例)
116例
(102例)
Distant 41例
Locoregional+distant
(食道局所再発症例)
12例
(7例)
169例で再発を確認
(109例で食道局所再発)
 


表4. 晩期障害
  grade3 grade4 grade5
Radiation pneumonitis 1 1 2
Pleural effusion 2 0 0
Pericardial effusion 4 0 0
Heart 5 0 1
Skin 0 0 0
Esophagus 3 0 0
Spinal cord 0 0 0


考 察
 当院での食道癌Ⅱ/Ⅲ期に対する放射線治療成績をまとめたが,以前のJROSGの報告と比較すると良好な結果であった3)。今回約1/3の症例は局所再発を認めたものの,当院の成績が良好だった理由の一つとして,当院では局所再発に対してsalvage手術が施行されるケースが多いことが考えられる。しかし,CRT後のsalvage手術は,通常の手術と比べて合併症のリスクが高くなることが知られている4)。他文献でもCRT後の局所再発と遺残症例がやはり目立っており1,5),局所再発を減らすことが,食道癌の治療成績を上げるために,重要な課題であるところは間違いないであろう。
 今回,最も使用されたレジメンはJCOG9906であった。ただし,このプロトコールで懸念される点は,急性毒性軽減目的で照射期間を2週間空けることによる腫瘍再増殖である。放射線腫瘍医の立場としては照射休止期間を設けず加療したいところである。
 当科ではJCOG0502に準じたレジメンで行っており,全国的にこのレジメンが最も汎用されていると思われる。しかし,骨髄抑制が強く,2コース目の化学療法を減量/中止にせざるを得ないケースがあった。当科ではLong-Tを基本としているが,晩期障害も考慮すると予防域は慎重に設定する必要がある。このように放射線治療中の併用化学療法の強度を上げるのは厳しいのが現状である。低用量CDDP+5-FUでの治療成績も報告されているが,成績は同等である6)。Cetuximabなどの分子標的薬の併用も期待したいところであるが,今のところ未知数である。
 今後の治療成績向上の一つとして,CRT後の追加化学療法の強度を上げることが現実的かもしれない。一般的にCDDP+5-FUを2コース施行することが多いと思われる。過去の当院の報告では,JCOG9906後に追加化学療法(CDDP+5-FU)を2コース施行し,Ⅱ/Ⅲ期(T4除く)の5年生存率は65.3%,CR率82.4%であり,手術に劣らぬ結果であった7)。やはり可能であれば,追加化学療法は施行した方がいいと考える。今後の臨床試験にて,確立されたレジメンがでることを期待したい。
 総線量に関しては,議論の分かれるところである。INT0123のランダム化試験で総線量50.4 Gyが64.8 Gyより優れた結果が出たのは周知の事実である5)。今回70 Gy照射した症例も存在したが,調査した限りでは食道に関する晩期障害は目立っていない印象だった。しかし,食道狭窄,潰瘍を考慮すると線量増加に関しては慎重に行う必要がある。ここも臨床試験で有用性を検討すべきである。
 以上,簡易ではあるが,食道癌Ⅱ/Ⅲ期の治療成績を報告した。今後の治療成績が更に良くなると信じて,治療に望んでいきたい。


文 献
1) Kato K, Muro K, Minashi K, et al. Phase Ⅱ study of chemoradiotherapy with 5-fluorouracil and cisplatin for stage Ⅱ-Ⅲ esophageal squamous cell carcinoma: JCOG trial(JCOG9906). Int. J. Radiat Oncol Biol Phys 2011; 81:684-690
2) Ando N, Kato H, Igaki H, et al. A randomized trial comparing postoperative adjuvant chemotherapy with cisplatin and 5-fluorouracil versus preoperative chemotherapy for localized advanced squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus (JCOG9907). Ann Surg Oncol 2012;19:68-74
3) Nishimura Y, Koike R, Ogawa K, et al. Clinical practice and outcome of radiotherapy for esophageal cancer between 1999 and 2003:the Japanese Radiation Oncology Study Group (JROSG) Survey. 2012;17;48-54
4) Tachimori Y, Kanamori N, Uemura N, et al  Salvage esophagectomy after high-dose chemoradiotherapy for esophageal squamous cell carcinoma. J Thoracic Cardiovasc Surg 2009;137:49-54
5) Minsky BD, pajak TF, Ginsberg RJ, et al. INT 0123 (Radiation Therapy Oncology Group 94-05) phase Ⅲ trial of combined-modality therapy for esophageal cancer:high-dose versus standard-dose radiation therapy. J Clin Oncol 2002;20:1167-1174
6) Nishimura Y, Hiraoka M, Koike R, et al. Long-term follow-up of a randomized phase Ⅱ sudy of cisplatin/5-FU concurrent chemotheradiotherapy for esophageal cancer(KROSG0101/JROSG021). Jpn J Clin Oncol 2012;42:207-812
7) Ariga H, Nemoto K, Miyazaki S, et al. Prospective compatison of surgery alone and chemoradiotherapy with selective surgery in resectable squamous cell carcinoma of the esophagus. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2009;75:348-356