第五十九回北日本放射線腫瘍学研究会 主題:『食道癌に対する(化学)放射線治療の役割の再検証』

 

主題:『食道癌に対する(化学)放射線治療の役割の再検証』
司会 山形大学医学部 放射線腫瘍学講座 教授
根本 建二
はじめに
 かつては,食道癌に対する放射線治療はきわめて不良で,根治照射例に限っても5年生存率で10%を超えるのがやっとという状況であった。しかし,最近の放射線治療技術の進歩により,治療成績は飛躍的に改善し,手術と肩をならべる成績も報告されるようになり,もはや手術に放射線療法が取って代わるのではないかという議論がなされた時期もあった。
 一方で,Ⅱ/Ⅲ期癌に対してのランダム化試験で,術前化学療法群が術後化学療法群よりも成績が良好であったこと,同じ病期に対する臨床第Ⅱ相試験の結果が,それらよりも劣っていたことから,切除可能食道癌に対しては術前化学療法+手術がみなし標準治療とされるようになり,化学放射線療法の効果も冷静に見直す時期に来ている。
 今回の研究会では,新潟大学からⅠ期,東北大学からⅡ/Ⅲ期,山形大学からIVA期の治療成績,さらに南東北病院からは陽子線を用いた食道癌の治療成績を出していただき,今現在の視点で,食道癌治療における放射線治療の役割を再考する機会とした。
 Ⅰ期癌対してはESDとCRTの併用療法の成績が示された。今後表在癌の治療でますます用いられることが多くなると予想される内視鏡的治療と放射線の組み合わせであるが,まとまった治療成績の報告がまだ少ない分野なので大変貴重な報告であった。Ⅱ/Ⅲ期の食道癌に対しては,従来から東北大は極めて良好な成績を発表していたが,長期成績でもその成績が裏付けられた。すでに報告があるとおり,食道温存が可能な場合には治療後のQOLは手術より優れていることは明らかで,今後食道温存率をさらに向上させる取り組みが期待される。IVA期に対して,根治線量を入れる意義に関してのコンセンサスがない分野で,文献的にも報告はほとんどなかった。今回山形大学から示された治療成績は不良なもので,低い病巣制御率と強い晩期有害事象が問題であった。照射野の大きさや併用化学療法の強度の限界を検討していく必要性が痛感された。食道癌に対する陽子線治療の成績は,ほとんどが陽子線単独のもので,化学療法と陽子線治療のまとまった成績は出されていなかった。今回示されたデータは,きわめて興味あるもので,高線量の陽子線boostで局所制御率を改善できる可能性が示されたと考える。未だに,50.4 Gy vs. 60 Gyの議論が続いてはいるが,60 Gyを超える線量の治療成績が乏しいことが線量効果関係の解明を困難にしており,症例数を増やして,検討を継続すべきと思われた。
 以上の様に,今回の北日本放射線腫瘍学研究会はいつもにもまして充実した内容で,有意義な議論が多かったと感じている。発表していただいた各施設代表者の先生,参加いただいた多くの先生にこの場をお借りして御礼を申し上げたい。