第五十八回北日本放射線腫瘍学研究会 5) 『XiO による電子線治療計画─電子線モンテカルロ』

 

5) 『XiO による電子線治療計画─電子線モンテカルロ』
エレクタ(株)カスタマーサービス部
アプリケーションサポート・フィジックスサポートスタッフ 中林 匡
はじめに
 現行の電子線治療に於いては,線量計算精度の信頼性が不十分と考えられており,治療計画装置の出力結果を直接適用して照射を行う施設は非常に少ない。このような状況を鑑みて,エレクタ社製治療計画装置XiOではより確度の高い線量計算を行うために,電子線モンテカルロ(XiO-EMC)を実装した。本講演では,XiO-EMCの概要,有効性,検証結果,そして臨床応用例を紹介した。


XiO電子線モンテカルロ(XiO-EMC)
 XiO-EMCの線量計算では,VMCと呼ばれるボクセルベースのモンテカルロ法を採用しており,基本的パフォーマンスは,放射線計測や医学物理分野でも幅広く利用されているEGSnrc(電磁カスケードモンテカルロ計算コード)と比較することによって確認されている。
 線量計算は3つのパラメータで制御され,ユーザーは最適な計算条件をカスタマイズできる。3つのパラメータとは,①乱数の初期値(Random Number Generator Seed),②生成する電子数(Max. Number of Histories),③統計ノイズの指標となる平均相対誤差(MRSU, Mean Relative Statistical Uncertainty)である。
 モンテカルロ計算は,電子を一個ずつ発生させて粒子が起こす反応過程を計算し,運動学に基づいて粒子の飛跡をシミュレーションし,最終的にボクセル毎への線量投与を積算していく,という流れになる。
 このプロセスにおいて,発生電子の初期状態(発生エネルギー・角度等)を規定するのが乱数の初期値①である。同一の計算条件に対して独立な計算実験を試行する場合には,この初期値を変化させれば良いことになる。
 一方で,生成電子数②と統計ノイズ③はモンテカルロ計算の終了制御,及び計算精度に関わるパラメータである。即ち,生成電子数としては,統計ノイズが十分収束するだけのイベント数が必要であり,最大1012イベントまで入力可能である。③の統計ノイズの指標となる平均相対誤差MRSUは,N個の計算ポイントkの誤差の総和を与える。即ち,着目する線量値P %より高い線量域Dkで生じた誤差skを査定するもので,


の式で与えられる通り,P % 等線量曲線以上の線量領域における平均誤差を評価している。
 ③の統計ノイズの設定値を満足させるか,あるいは②で設定した発生電子数に達するとモンテカルロ計算は終了する。
 これらのパラメータを調整することによって,線量計算精度を向上させることは可能だが,当然のことながら計算時間は飛躍的に増加する。増加の割合は,電子線が入射する媒質・エネルギー・照射野サイズ,そして計算グリッドサイズに依存するが,平均相対誤差MRSUを2%に設定する場合と,より小さな誤差に収束させる為に,1%に設定する場合とでは計算時間にして4〜5倍程度の差が生じる。従って治療計画に適用するにあたっては,代表的な症例毎にユーザーが条件検討を行い,判断基準を予め設けなければならない。現実的なワークフロー内で,十分な計算精度を担保する為には平均相対誤差を1〜2%程度に設定する必要がある。
 治療計画の実行には,予めXiOのビームモデリングが必要である。治療機の有するエネルギー・アプリケータ仕様が,XiOで所有する仕様に合致していなければならない。XiO-EMCの特長として,ブロックによる不整形照射野の計算が可能であることが挙げられるが,SSDセットアップによる治療計画のみが対象となり,回転照射は仕様外である。


XiO-EMCの検証
 従来の解析的な計算アルゴリズムであるペンシルビームとXiO-EMCとの比較は,斜入射や不整形照射野,あるいは不均質媒質といった様々な条件に対して実測検証を行うことによってなされている。いずれのケースに対しても,XiO-EMCは優れた実測再現性を示しており,有効性が証明されているといえる。一方,臨床例におけるパフォーマンス・スタディも行われている。下左図は乳房温存ブースト照射,下右図は胸骨転移部照射の一例である(使用エネルギー・照射野,計算条件については図枠内参照)。このような症例に対する計算所要時間は,2012年現在,ヘキサコアCPU(12並列)のワークステーションを使用した場合,各々 2分及び4分程度という結果が得られており,実測検証の有効性と併せて,高速な計算ツールであることが示されている。




ま と め
 本講演では,XiO-EMCの基本的な仕様と共に,実測検証による有効性,臨床例における合理性を示した。X線の計算アルゴリズムに於いては,クラークソン法のような実測ベースの計算アルゴリズムを経て,コンボリューション法・スーパーポジション法といったモデルベースのアルゴリズム,更にはモンテカルロ法の導入にまで至っており臨床使用されている。電子線の計算アルゴリズムに対しても,今後モデルベースのペンシルビームアルゴリズムから,より精度の高いモンテカルロ法に移行することによって,次世代の高精度電子線治療の実現が期待される。


謝 辞
 千葉県がんセンター放射線治療部物理室の小島徹先生,東海大学医学部・専門診療系・放射線治療 科学の余語克紀先生からは貴重な検証データをご提供戴きました。この場をお借りして感謝申し上げ ます。