第五十八回北日本放射線腫瘍学研究会 4) 『電子線照射における照射計画』

 

4) 『電子線照射における照射計画』
バリアンメディカルシステムズ
アプリケーショングループ マネージャー 坂口 薫
目 的
 がんの集学的治療において,近年,その重要性が急激に増加しています。また,X線を用いた放射線治療には,定位放射線治療(SRS/SRT),強度変調放射線治療(IMRT/VMAT),画像誘導放射線治療(IGRT)などの最先端医療が臨床に応用されています。その中で,電子線はX線の物理特性と比較して,飛程が短く,表層で全てのエネルギーを与え,深層にエネルギーを与えない特性を利用した比較的表在性の悪性腫瘍の治療に用いられています。そのため,腫瘍の深さに即応した電子線エネルギー(5〜6本のエネルギー)が必要になり,また,半影部が比較的大きくなるため皮膚面近傍に位置するツーブス(アクセサリ)機器等の装備が必要となります。電子線は1門照射が基本で,腫瘍に対する線量分布の集中度(COMFORMITY)の向上が期待出来ません。電子線は体内における物質と電子の相互作用を完全にモデル化することが難しく,X線と同等の線量分布精度と演算速度を許容する治療計画装置と,更なる照射装置の開発が期待されます。そこで,現在の装備機器の現状を踏まえた上で,電子線治療における臨床使用の現況と将来の展望を報告します。


表1. 臨床に使用されているテクニック 
 
Clinical Technique Clinac Eclipse
Intact breast 乳房温存+ ブースト X 線/E 線,〈FIX〉 ✓⇒ IMRT
Chest wall Electron 乳房全摘後胸 E 線,〈FIX〉 ✓⇒ VMAT
Parotid/Nose/Eye( orbit): 唾液腺,鼻,目(眼) E 線,〈FIX〉 ✓⇒IMRT
Cranio-Spiral irradiation : 頭& 脊髄 X 線/E 線,〈FIX〉 ✓⇒ IMRT
Total scalp/limb irradiation : 全頭皮/ 全肢 E 線,〈FIX〉 ✓⇒ VMAT
Bolus, Field abutment : ボーラス,繋ぎ目 E 線,〈FIX〉
Total skin electron therapy : 全身皮膚 E 線,〈HDTSe〉
Electron Arc therapy : 振子(回転) E 線,〈ARC〉
Intra-operative therapy( IORT): 術中 E 線,〈FIX〉
 


 上記の表1は,AAPM TG-25, JULY 2009:“RECOMMENDATION FOR CLINICAL ELECTRON BEAM DOSIMETRY”の臨床的及び技術的TECHNIQUEにおける潟oリアンメディカルシステムズ(VARIAN社)のCLINAC(照射側)とPLANNING(計画側)の装備機器における実施の有無を“✓”と“✘”印で表記しました。そこで,電子線照射は表在性腫瘍に対して治療効果が大きく多用されています。そして,治療計画においてもPENCIL BEAM法やMONTE CARLO法アルゴリズムの開発により,線量分布計算精度や演算速度が飛躍的に改善し,術者の負担が無く施行することが出来るように成りました。最近,少し深い位置の腫瘍ではIMRTやVMATを用いて施行することが可能になり,これらを使用する施設が増加して来ました。また,胸壁に沿った円弧状の線量分布を形成する回転(振子)照射(ELECTRON ARC),LONG SSDのTBI(ELECTRON)において短時間で照射することが可能な高線量率全身照射(HDTSE),病巣を露出して直接腫瘍に照射する術中照射(IORT)などの特殊治療(SPECIAL PROCEDURE MODE)は依然威力を発揮しております。これらが電子線治療技術の現況と推測します。


将来の展望: MERT
 VARIAN社がスイスのBERN UNIVERSITY,MICHAEL FIX氏との電子線治療技術における研究開発として,MODULATED ELECTRON RADIOTHERAPY (MERT)を,WORK IN PROGRESSとして実施しています。


図1.


 この変調電子線放射線治療(MERT)におけるVARIAN社の機器構成は,既存のCLINAC(FIX)とMILLENNUUM MLC(STEP&SHOOT)を用い,標準の電子線アプリケータは使用しません。上図(図1)のファントム検証のように,腫瘍の厚さから使用する数種の電子線エネルギーを決定して各エネルギーでセグメント化し,腫瘍とOARの大きさ及び位置から各平面のセグメントマトリックスのウエイトをINVERSE計画で最適化を行います。フェザーリング処理は,COLDやHOTスポットを軽減するために重なった照射野の各マトリックスのウエイトを最適化することです。
 これらを達成するためには,CLINACヘッドやMLC構造を完全にモデル化したMONTE CARLO法と最適化プログラムを搭載したECLIPSEを完遂しなければなりません。


ま と め
 現在,電子線治療は,X線を用いた放射線治療の最先端医療の影に隠れている感が有りますが,今後の技術革新によって,上述しましたMERT やADVANCE DYNAMIC ARC が臨床応用に貢献できる よう邁進いたします。
 今後とも,ご指導をお願い申し上げます。