第五十八回北日本放射線腫瘍学研究会 2)『弘前大学病院における電子線治療の現状』

 

2)『弘前大学病院における電子線治療の現状』
弘前大学 放射線科
川口 英夫
目 的
 本発表では,当院の電子線の現状を報告した。


治療計画方法
 当院ではほとんどの場合,光照射野を患者に直接投影して設定を行っている。先にCTを撮像しXiOなどの治療計画装置で照射野設定することも可能ではあるが,実際にはX線─電子線の接合部線量の調整以外に用いることは殆どない。不整形照射野はカスタムブロックを用いて行うこともある。電子線の線量分布は主に技師が作成し,医師が作成することは少ない。作成された線量分布図を医師が確認し,最適化を行った上で治療開始となる。


総 論
 電子線治療は,2001年12月から2012年5月まで,延べ591症例に対して延べ776プランを施行した。男性70例,女性521例,年齢は3-90歳(平均56歳)。1症例2プラン以上の症例は,複数部位への照射例(43例),もしくは大照射野後にブーストを施行した例(62例)などである。実際に照射を行った回数は約7,200回(1プランあたり平均10回弱)であった。
 疾患としては乳癌が最多で462例,次に頭頚部癌38例,皮膚癌26例,悪性リンパ腫20例,女性器癌15例,皮膚転移7例,ケロイド5例,その他13例の順であった。
 乳癌が多いためか,使用エネルギーは6 MeVと9 MeVが7割以上であった。


各 論
 乳癌:461例中,温存乳房接線照射後のブーストが374例(10 Gy/5 fr:341例,16 Gy/8 fr:33例),全摘後の胸壁照射が66例,姑息的照射9例,男性乳癌2例,その他10例であった。当院では温存乳房接線照射後のブースト線量は断端で決定しており,断端近接(<5 mm)は10 Gy/5 fr,断端露出(0 mm)は10 Gy/5 fr後に照射野を縮小して6 Gy/3 frを追加,合計16 Gy/8 frを照射している。また,EIC陽性,若年例(説明の上で希望された場合)も10 Gy/5 frをブーストしている。乳房全摘後の照射は,当院の場合,以前は逆L字型でSC+PSを施行し胸壁のみ電子線で行う術式が多かったが,近年ではX線を用いて深い接線照射を行う術式を極力施行する方針となった。そのため全摘後の電子線照射は接線の分布が不良な例や,PS省略例で胸壁照射を行う場合に限って現在でも使用している。
 頭頚部癌:38例中,リンパ節領域に対するブースト照射が28例,リンパ節転移に対する照射が6例,その他4例であった。当院で頭頚部への照射を行う場合,40 Gy/20 frまでは頚部左右対向+鎖骨上窩前方1門で施行し,その後50 GyまではX線で脊髄遮蔽の照射を行う(病変が外れる場合はgantryを振って入れる)。副神経領域に対する補償照射は,腫大したLNが外れる場合で,局所のCRが可能と判断した症例には電子線での補償を行うこともあるが,当院の場合N2b以上は照射終了後に頚部郭清を追加する例が多いため,耳鼻咽喉科とのカンファランスで検討した上で決定しているが,無理に電子線での補償は施行していない。将来的にIMRTを導入することで,使用頻度はさらに減るのかもしれない。


図1.


図2.


 皮膚癌;26例中,SCCが13例,MCCが5例,乳房外パジェット病が3例,悪性黒色腫1例,その他4例であった。治療方針はSCCでは術後照射が多かったが,その他は手術不能例が中心のためか,治療方針はバラバラで決まった傾向はなかった。
 悪性リンパ腫:20例中,indolentなどの根治的照射が16例,進行例への姑息的照射が6例(根治例と重複あり)。頭頚部が多く8例,次いで鼠径部4例,臀部2例,全身皮膚照射1例,その他8例であった。当然ながら,いずれも体表部病変であった。
 女性器癌:15例中,外陰癌局所への照射が4例。鼠径リンパ節への照射は9例あり,外陰癌4例,子宮頚癌2例,卵巣癌2例,膣癌1例であった。他,子宮体癌の術後でRALS不能例に2例行っていた。
 皮膚転移:乳癌が多かった。
 ケロイド:前胸部が2例,耳介が3例4病変であった。術後翌日より開始した。
 その他:肺癌・食道癌・陰茎癌のリンパ節転移,デスモイド(2例),神経芽細胞腫術中照射(2例,近年は依頼なし)など。


図3.


図4.


照射野接合
 電子線─電子線の接合:当院では全身電子線などの例外を除き,ほとんど行われない。
 電子線─X線の接合:近年は少なくなってきたが,乳癌全摘後,頭頚部癌などで行うことがある。約5mm前後のgapを置いて,治療計画装置で線量分布を確認した上で施行していた。しかしリニアックや治療計画装置が更新され,より実測に近いといわれる線量計算アルゴリズムが実臨床でも使用可能となってきており,実測などによる再検討が必要なのかもしれない。(図1-4)


結 語
 当院の電子線の現状につき報告したが,やはり乳癌が最多であった。次に頭頸部が続くが思った程多くなく,当院の分布作成法に起因していると思われた。部位としては,体表面に近い,頭頚部・胸壁・鼠径部が多かった。