3) 『当院における高齢者食道癌放射線治療の現状』
笹 本 龍 太・海 津 元 樹
阿 部 英 輔・川 口 弦
小日向 美 華・田 中 研 介
佐 藤 啓・青 山 英 史
背景と目的
高齢者の食道癌を治療するにあたり,実際に現場で直面する問題点として,以下のようなものがあり,治療方針の決定から治療後に至る過程で不都合を生じることがある。
・ 胃,肺,大腸などの異時性重複癌の治療歴 →治療選択肢の制限
・ 合併症(心臓,肺,肝臓,腎臓の慢性疾患)の併存 →化学療法併用の障害に
・ 頭頸部の同時性重複癌(大量飲酒,喫煙等の共通因子)→治療方針の複雑化
・ 身寄りがない(絶縁状態),生活保護,入院中の素行不良……
・ 身体能力の低下,認知機能の低下
・ しかし,摂食に直結するので,放置するわけにいかない
今回,当院における高齢者食道癌の放射線治療成績をまとめ,高齢者特有の傾向を明らかにすることと,非高齢者の治療成績と比較すること目的として,検討を行った。
対象と方法
対象は2000年〜2009年の10年間に当科で放射線治療を行った原発性食道癌である。適格基準として,他臓器転移症例は除いたが,活動性の重複癌,不十分な臓器機能,既往化学療法無効例,鎖骨上〜腹腔動脈周囲までのM1(lymph)を含んだ。年齢で70歳以上と70歳未満に分け,進行度ではT1N0M0,T4/M1,それら以外(中間群)に分類した。
@ 患者背景因子(表1)
表1. 患者背景因子
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70歳以上
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70歳未満
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症例数
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78
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85
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年齢(中央値)
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70-89(76)
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33-69(63)
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男/女
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66 / 12
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69 / 16
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占拠部位 Ce/Ut/Mt/Lt/Ae
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6/4/52/14/2
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10/17/30/28/0
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組織型Sq.c.c./Others
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78 / 0
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84 /1(small cell ca.)
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PS 2-4
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24%
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20%
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既往癌
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18%
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11%
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生存者の観察期間
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2-128(44)か月
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1-111(32)か月
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追跡完遂率
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86%
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82%
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A 放射線療法・化学療法
放射線療法は高エネルギーX線を用いて原則として1回2 Gyで行い,照射線量は70歳以上10-71(中央値66)Gy,70歳未満30-70(63)Gyであった。化学療法は原則として70歳未満のPS良好例にはStandard-dose FP(CDDP 70 mg/m
2 d1, 5FU 700 mg/m
2 d1-4),それ以外の症例にはLow-dose FP(CDDP3-4 mg/m
2 + 5FU 200-250 mg/m
2 {照射日連日})あるいはLow-dose 5FU(5FU 250-300 mg/m
2 {照射日連日})を使用した。
B 非切除理由
手術が行われなかった理由を表2に示す。70歳以上では70歳未満に比して,進行度以外の理由で非切除となる割合が多かった。(
p<0.001,χ
2 test)
表2. 非切除理由
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70歳以上
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70歳未満
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高度進行
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15
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43
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合併症
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24
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11
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本人希望
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26
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23
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その他
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13
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8
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C 進行度別症例分布
進行度をT1N0M0,中間群,T4/M1に分けた症例数を表3に示す。70歳以上の症例は70歳未満に比して手術可能病期(T1N0M0,中間群)が多かった。(
p<0.001,χ
2 test)
表3. 進行度別症例数
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70歳以上
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70歳未満
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T1N0M0
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30
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19
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中間群
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32
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25
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T4/M1
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16
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41
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D 進行度別化学療法併用率
化学療法併用率は70歳以上で60%,70歳未満で87%と,有意に70歳以上の化学療法併用率は低かった(
p<0.001)。また,進行度別でもT1N0M0とT4/M1では有意に70歳以上の併用率が低かった(いずれもFisher直接法)(表4)。
表4. 進行度別化学療法併用率
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70歳以上
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70歳未満
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p値
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T1N0M0
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37%
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74%
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<0.05
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中間群
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81%
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92%
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N.S.
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T4/M1
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63%
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90%
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<0.05
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E 高齢者における患者背景のまとめ
・非切除理由として,病期(高度進行)以外の理由が多い
・手術可能病期が多い
・化学療法併用率が低い
結 果
@ 局所効果
CR率・奏効率はそれぞれ,T1N0M0で90%・100%,中間群で44%・89%,T4/M1で23%・77%であった。各群で70歳以上と70歳未満の間にCR率・奏効率ともに有意差は見られなかった。(Fisher直接法)
A 再発様式(遺残を含む)
最終追跡時において,再発率はT1N0M0で38%,中間群で67%,T4/M1群で85%であった。いずれの群でも70歳以上と70歳未満で再発率に差はなく(Fisher直接法),再発形式(照射野内,照射野外,照射野内+外)についても,各群で70歳以上と70歳未満の間に有意差は認められなかった(χ
2検定)。
B 全生存率
Kaplan-Meier法により算出した5年生存率は70歳以上で33%,70歳未満で36%と差を認めなかった。進行度別の5年生存率はT1N0M0,中間群,T4/M1でそれぞれ60%,27%,17%であった。同一進行度内の年齢別5年生存率と
p値(Log-rank法)を表5に示す。
表5. 5年生存率
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70歳以上
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70歳未満
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p値
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T1N0M0
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47%
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82%
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0.07
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中間群
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33%
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23%
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0.52
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T4/M1
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8%
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20%
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0.25
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C 死因
転帰は全体で原病死が70(43%)治療関連死が10(6%),他病死が14(9%),死因不明が2(1%),生存中が67(41%)であった。70歳以上と70歳未満の死因の比較では,全体でも各進行度内でも有差はみられなかった。死因が判明している死亡例のうち,治療関連死の割合は70歳以上で16%(7/43,7例中5例がT1N0M0),70歳未満で6%(3/51,3例中2例がT1N0M0)であった。
考 察
患者背景として高齢者(70歳以上)では比較的早期(手術可能病期)が多く,その理由としては@合併症の存在(手術可能だが手術に耐えられない,他病関連の検査時に見つかりやすい),A高齢であること自体(医療者側:早期なので無理に手術しなくても治りそう,患者側:この年で手術は受けたくない),Bその他の理由(再建臓器がない,癒着などで開胸できない),が考えられた。また,高齢者では化学療法併用率が低かった。
生存率を進行度別にみると,70歳以上は70歳未満に比べて同等〜やや下回っていた。全体の生存率は70歳以上と70歳未満で差はなかったが,これは高齢者に比較的早期症例が含まれていることによる見かけ上の成績向上と,治療成績の低さが相殺されていたためと思われる。高齢者で治療成績がやや低い理由としては,化学療法が併用できない,治療関連死が多いという2つの理由が考えられたが,奏効率や再発率に大きな差がないことから,治療関連死の関与が大きいことが推察された。
高齢者の治療関連死は特にT1N0M0で多く,70歳以上のT1N0M0の治療成績低下の主な理由と考えられた。T1N0M0で治療関連死が多い理由としては,早期でありながら非切除の理由となった合併症による予備力低下に加え,癌は治るため晩期合併症が顕在化している可能性が考えられた。
結 語
当院における2000〜2009年の高齢者食道癌の治療成績をまとめた。患者背景因子として,早期症例が多いこと,非切除理由として合併症が多いこと,および化学療法併用率が低いことが示された。治療成績全体でみると若年者と差はなかった。