第五十四回北日本放射線腫瘍学研究会記録 5) 『再発神経膠芽腫に対する術後再照射』

 

5) 『再発神経膠芽腫に対する術後再照射』
山形大学医学部がん臨床センター
和 田   仁・根 本 建 二
はじめに
 再発神経膠芽腫(以下GBM)は極めて予後不良であるが,術後再照射に標準的なプロトコールは今のところ存在せず,再照射自体も意義が明確ではない。2006〜2007年に当院で再発GBM術後に通常分割で再照射を行った4例について報告し,GBM再照射の文献を含め若干の考察を行った。なお,全例で再照射による脳壊死などの重篤晩期有害事象について患者またはその家族に十分に説明し,治療の文書同意を得ている。
症 例
 症例1:46歳,男。1994年10月に他院で右大脳腫瘍全摘術施行,病理組織はAstrocytoma, Grade2。同年11-12月に右大脳へ側方1門の術後照射50Gy/25 fx,同時併用化学療法でACNU投与が行われた。2005年11月,MRIで右大脳へ局所再発を指摘され,同年12月に当院で腫瘍亜全摘が施行された。病理組織はGBM。初回照射後11年2ヶ月経過し,targetは前回照射野に重なる領域であった。再照射は2006年1〜2月に術前MRI T2高信号域を中心とした照射野で3門照射60Gy/30 fx,同時併用化学療法はICE療法が施行された。合算総線量の最大値は右大脳120 Gy,脳幹105 Gy,視神経は95 Gy。再照射時のJCS=0,KPS=70。維持化学療法としてTMZが投与された。再照射9ヶ月後にMRIで側脳室にGd造影増強効果を認める播種病巣が指摘され,照射野内再々発と診断されたが,JCS,KPSは照射前と変化なかった。徐々に腫瘍増大し,再照射1年8ヶ月後にJCS=II,KPS=40と増悪した。再照射3年後に局所再発死したが,視力障害や脳壊死は指摘されなかった。
 症例2:20歳,男。2003年4月に当院で左後頭葉腫瘍全摘術を施行,病理組織はGBM。同年5-6月に左大脳〜小脳に原体照射の術後照射60 Gy/30 fx,同時併用化学療法はACNU投与が行われた。2005年9月にMRIで小脳〜脳幹部再発を指摘され,同年12月に当院で腫瘍部分切除施行。病理組織はGBM。初回照射後2年6ヶ月経過し,targetは前回照射野に一部重なる領域であった。2006年1-3月に術前MRI T2高信号域を中心とした照射野で3門照射60Gy/30 fx,同時併用化学療法はICE療法が施行された。合算総線量の最大値は右大脳125Gy,脳幹115Gy,視神経は100Gy。再照射時のJCS=0,KPS=90,右同名半盲を認めた。再照射6ヶ月後にMRIで照射野辺縁の左基底核及び右側脳室前角にGd造影増強効果を認める病巣を認め,再発と診断されたが,自覚症状に変化なかった。再照射1年後にJCS=1,KPS=70となり歩行障害も出現し,MRIで徐々に再発巣が増大した。再照射1年4ヶ月後に脳脊髄腔播種で死亡した。照射野内再発や視力低下など晩期有害事象を認めなかった。
 症例3:67歳,女。1997年7月,他院で右側頭葉腫瘍全摘術を施行,病理組織はGBM。同年8-9月に右側頭葉に振子照射で術後照射50Gy/25 fx,同時併用化学療法はACNU投与が行われた。2006年5月にMRIで左前頭葉2ヶ所に播種病変を認め,同年8月に当院で腫瘍全摘術が施行された。病理組織はGBM。初回照射後9年経過し,targetは前回照射野に一部重なる領域であった。同年9-10月に術前MRI T2高信号域を中心とした照射野で4門照射60Gy/30 fxが照射単独で施行された。合算総線量の最大値は大脳100Gy,脳幹95Gy,視神経は95Gy。再照射時のJCS=I-3,KPS=40で,全失語症を認めた。再照射1年後にJCS=2,KPS=30,ほぼ閉眼状態で転院。再照射2年9ヶ月後に肺炎で死亡。MRIで明らかな局所再発なく,高線量部の脳萎縮を認めた。意識レベル低下していたが,明らかな視力障害はなかった。
 症例4:41歳,男。2003年5月,当院で脳幹部腫瘍部分切除を施行,病理組織はFibrillary astrocytoma, Grade2。同年6-7月に脳幹部に術後照射50Gy/25 fx,同時併用化学療法はACNU投与が行われた。2005年12月にMRIで照射野内再発指摘され,当院で腫瘍部分切除が施行された。病理組織はGBM。初回照射後2年5ヶ月経過し,2006年1-3月に術前MRI T2高信号域を中心とした照射野で3門照射60Gy/30 fx,同時併用化学療法はICE療法が施行された。再照射時のJCS=I-1,KPS 40であった。再照射3ヶ月後 転院先にて局所増悪死,脳壊死はみられなかった。
考 察
 再発グリオーマに対する術後再照射の報告は少ないが,有用性を示したものが散見される1-3)。Paulinoらは,悪性グリオーマに対し再照射群が有意に生存期間延長したとするレビューを報告している2)。一般に生存中央値が6〜8ヶ月程度とされる再発GBMに対し,我々の症例も75%(3/4例)で1年以上(16〜38ヶ月)生存し,照射後PSも6ヶ月以上保持された。
 当院の症例はいずれも合計110〜120 Gyで,1例に広汎な脳萎縮を認めたが,MRIでの明らかな脳壊死や,臨床的に視神経障害などを示唆する所見を認めなかった。初回照射との合計96〜106 Gyと自検例に近い再照射を行ったVeningaらは,2 Gy換算で100 Gyを超えた症例で晩期有害事象を認めたが,わずか39例中2例のみで,他は中央値8.6ヶ月の腫瘍再増大までQOLが維持されていたと報告している1)。また照射間隔が3年以上だと予後が良好だったとしている。再照射にも関わらず脳の晩期有害事象がさほど多くなく,これは脳細胞の放射線障害からのrepairを示唆する貴重な臨床報告と思われる。しかし,特に脳幹や視神経の耐容線量に関する通常分割での再照射は至適線量が確立されておらず,現時点ではrepairしないものとして慎重に対処すべきだろう。
 再照射における照射野設定も明らかになっていない。再発様式の80〜90%は造影効果を受ける腫瘍から2 cm以内とされ,脳の晩期有害事象リスクを考慮すると再照射時における照射野設定の一つの目安になると思われる。また造影効果を受ける腫瘍に限局したstereotactic irradiationが有効とする報告も散見される4)
ま と め
 再発GBMに対する再照射は,生存期間延長に寄与する可能性があると思われたが,総線量や照射野設定など晩期有害事象への細心な配慮が必要である。
引用文献
1) Veninga T, et al.:Radiother Oncol 59:127-137, 2001
2) Paulino AC, et al.:IJROBP 71:1381-1387, 2008
3) Mayer R, et al.:IJROBP 70:1350-1360, 2008
4) Fokas E, et al.:Strahlenther Onkol 185:235-240, 2009