第五十四回北日本放射線腫瘍学研究会 3) 『非小細胞肺癌脳転移に対するrepeat SRS』

 

3) 『非小細胞肺癌脳転移に対するrepeat SRS』
岩手県立中央病院・放射線治療科
真里谷   靖・関 澤 玄一郎
松 岡 祥 介
はじめに
 非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)では脳転移が多く,これに伴う中枢神経死の頻度が高い。また,脳転移巣制御と共にneurocognitive function(NCF)を保持することは,患者のQOLに大きく影響する。従ってNSCLCの治療では,肺原発巣など頭蓋外病変の治療と共に,脳転移による中枢神経死を減少させ,かつNCF,QOLを悪化させないことが重要なポイントとなる。最近我々は,局所制御と線量集中性に優れたstereotactic radiosurgery(SRS)を駆使する“SRS alone allowing for repeat SRS as salvage”が,上記の目的に適うtreatment strategyの一つであることを示した1)。特に脳転移を有しつつ長期生存できる患者の臨床経過においてrepeat SRSが果たす役割は大きく2),今回はこれを紹介すると共に,同一箇所再照射としてrepeat SRSが行われたケースについて臨床的検討を行った。
脳転移の治療
 脳転移に対する治療法として,surgical resection,全脳照射(WBRT),部分脳照射,SRS,stereotactic radiotherapy (SRT),これらのcombinationが主に用いられてきた。このうちsurgical resectionは,適応があれば最も局所制御率が高い治療といえるが,残念ながら対象は限られ侵襲性も高い。放射線治療としては,長い間WBRTがその主役を担ってきた。しかし,最近の報告3, 4)でWBRT自体がNCF,QOLを低下させる可能性が高いことが示され,これを無批判に用いることが疑問視されるようになった。一方SRSは,通常3〜4個までの脳転移小病巣が対象となるが(図1),surgical resectionにほぼ匹敵する高い局所制御率を誇ると同時に,単独で用いた場合かなりの頻度で出現する頭蓋内遠隔転移(新たな脳転移病巣)が問題点として指摘されている5)。これを解決し得る方策として,一時期SRSとupfront WBRTの組み合わせに期待が持たれていた。しかし,(upfront) WBRTには上記の問題があり,現時点では治療の選択肢として必ずしも推奨はできないと考えられている,3, 4)
 当院では過去十数年間,脳転移の個数,患者の全身状態,頭蓋外活動性病変の有無などを踏まえ,脳転移に対する放射線治療としてSRSとWBRTが主に用いられてきた。当初から一貫した方針のもとに治療が行われた訳ではないが,脳転移が制御できる可能性があり生命予後が3,4ヶ月以上見込める場合にはSRSを積極的に用いた。サルベージ治療にも,可能であればSRSを先ず用いた。昨年,NSCLC患者の脳転移に対するSRSの治療成績を解析したところ,事前に予想していた以上の結果が得られ(図2,3),我々の治療(SRS alone allowing for repeat SRS as salvage)の妥当性が裏付けられた形となった1)


図1. 1セッションで3ヶ所の脳転移にSRSを行った際の3-D線量分布図


図2. SRSで治療したNSCLC脳転移患者における累積生存率1)


図3. SRSで治療したNSCLC脳転移患者における死因と中枢神経死回避率1)


Repeat SRS
 NSCLC患者に脳転移が出現した場合,多くは頭蓋外活動性病変が存在しPSも不良なことが多い。しかし,中には所謂oligometastases situation5, 6)に該当するケースや,頭蓋外病変が存在しても有効な治療により活動性が抑えられ,脳転移が制御されれば長期の生命予後が期待できるケースが少なからず存在する。前述の報告1)において,我々は15例の長期生存患者(2年以上生存例)を提示した。治療前の背景因子として,転移個数が少ないこと(大多数が単発),PSが良好であること(大多数がPS 0-1),頭蓋外活動性病変が無いこと(約6割が該当)などが,長期生存にとって重要な因子と考えられた。一方,長期生存患者15例中6例に再照射が行われ,このうち5例はrepeat SRSにより治療された(表1)。5例では,初回SRS施行部位の局所再燃あるいは脳内新転移病巣が標的となり複数回のSRSが施行されたが,いずれにおいてもneurological functionは長期間良好に保持されていた。
 Repeat SRSを加えた典型例を図4に示す。本例では,小脳虫部の初回SRS部位の他に2箇所新たな脳転移が出現し,このうち小脳右半球の転移巣には同一箇所2回照射のrepeat SRSが施行された。図5は,小脳虫部転移巣の臨床経過であるが,1回のSRSで腫瘍は制御されている。一方図6は,右半球転移巣の臨床経過であるが,repeat SRSによって局所再燃した腫瘍が制御されている。初回SRS 47ヶ月後の現在,神経学的に明らかな小脳失調を認めず,同時にNCFも良好に保持されている。長谷川式簡易認知機能評価(HDS-R)では,30点満点中25点(20点未満は認知症の診断)と年齢相応のポイントであった。


表1. Repeat SRS施行長期生存患者の治療内容と予後
Case 生死 M RSRS 局所 遠隔転移 NF
1. 担癌生存 46 C 腰椎 良好
2. 担癌生存 35 ◎△ U>S 脳内* 良好
3. 担癌生存 47 △×3 C 脳内多発* 良好**
4. 癌死 45 U 40 Mまで良好3*
5. 癌死 32 U>S 30 Mまで良好3*
Cf)M:months, RSRS(Repeat SRS):同一箇所SRS 1回○,2回◎,他部位SRS△,局所:初回SRS部位,C:Contro11ed, U:uncontrolled, S:salvage surgery, NF:neurological function, 良好:ADL being kept well without seizures, focal deficits and headaches (according to Bhatnagar, 2002).
*脳内遠隔転移はSRSにて加療された。
**長谷川式簡易知能評価25点/30点満点
3*最終的には中枢神経死 (CNS failure)。


図4. 3標的,4セッションのSRSを施行した症例(case 3)


図5. Case 3小脳虫部転移のMRI(Gd-T1WI)上の経過(SRSは単回)


図6. Repeat SRSを加えたcase 3小脳右半球転移のMRI(Gd-T1WI)上の経過1)


 このように,repeat SRSは頭蓋内遠隔転移のみならず局所再燃にも有効である。3-Dで複数の治療計画をintegrateして把握できる現在(図1),各セッションの標的個数がある程度限られ(3-4個程度まで),線量分布図上重なりが問題とならず,同一箇所再照射の場合にも許容できる程度の標的容積であれば(初回SRSを大きく上まわらず,直径3 cm以内など),repeat SRSは臨床的に強力な武器として用いることが出来る。ただし同一箇所repeat SRSの反復回数に関しては,3回のケースでsymptomatic radiation necrosisが認められ,2回では認められなかったことから,2回に留めるべきと我々は考えている2)。また大線量のSRSを反復するため標的の容積が大きくならないことが重要であり,脳神経外科など関連各科と協力の上でclose clinical monitoringの体制を構築しておく必要がある2)
脳転移放射線治療の今後
 国内外の数多くの研究により,SRS aloneで脳転移を治療していく場合には,抜群の局所制御率を有する一方でかなり高率に頭蓋内遠隔転移が出現することを頭に入れなければならないことが明白となった5)。もう一方の主役といえるWBRTは,局所制御で劣り,NCFを低下させる可能性が高いものの,頭蓋内遠隔転移をある程度抑止できるという長所があり,依然重要な治療法である。また最近,IMRTを用いて海馬の線量を低減しNCFへの悪影響を回避するWBRTが試みられており7),新たなオプションといえる。臨床家は,SRTも含め各々の治療法が有する長所,短所を熟知して治療に向かう必要がある。
 またNSCLCに限らず脳転移ではoligometastases situation5, 6)的な状況にはしばしば遭遇することから,これを的確に判断できる臨床的,生物学的なcriteriaの整理,確立と,それらに基づく治療方針の決定も重要と考えられる1, 5)。我々が経験した長期生存患者などはoligometastases situationに該当し,SRS alone allowing for repeat SRS as salvageの適応と推察されるが,SRS aloneで治療した患者の中にはupfront WBRTを加えた方が良かったケースも混じているものと思われ,背景因子,併用治療なども含めて個別に熟考された治療方針が求められている。この分野の今後の発展が大いに期待される。
文 献
1) Mariya, Y. et al.:Outcome of stereotactic radiosurgery for patients with non-small cell lung cancer
  metastatic to the brain. JRR, 51, 333-342, 2010.
2) Mariya, Y. et al.:Repeat stereotactic radiosurgery in the management of brain metastases
  from non-small cell lung cancer. TJEM, 223, 125-131, 2011.
3) Aoyama, H. et al.:Neurocognitive function of patients with brain metastasis who received
  either whole brain radiotherapy plus stereotactic radiosurgery or radiosurgery alone.
  IJROBP, 68, 1388-1395, 2007.
4) Chang, E.I. et al.:Neurocognition in patients with brain metastases treated with radiosurgery
  or radiosurgery plus whole-brain irradiation:a randomized controlled trial. Lancet Oncol., 10,
  1037-1044, 2009.
5) Aoyama, H. et al.:Stereotactic radiosurgery plus whole brain radiation therapy vs.
  stereotactic radiosurgery alone. JAMA, 295, 2482-2491, 2006.
6) Hellman, S. et al.:Oligometastases. JCO, 13, 8-10, 1995.
7) Gondi, V. et al.:Why avoid the hippocampus ? A comprehensive review. Radiother. Oncol.,
  97, 370-376, 2010.