第五十二回北日本放射線腫瘍学研究会 3)『当院におけるⅢ/Ⅳ期下咽頭癌の根治放射線治療成績』

 

3)『当院におけるⅢ/Ⅳ期下咽頭癌の根治放射線治療成績』
東北大学病院放射線治療科  有 賀 久 哲
は じ め に
 下咽頭癌は頭頸部癌の中でも最も予後不良な癌であり,特に局所進行症例(Ⅲ/Ⅳ期)の治療成績は不良で,現在でも標準療法が確立しているとはいえない。治療成績向上を目的に様々な試みがなされると共に,喉頭温存による治療後QOLの改善も大きな課題となっている。当院においても様々な治療方法が試みられ,その結果として,治療年代による治療方法(併用化学療法レジメン,放射線線 量分割法等),治療対象集団(臨床病期等)の変遷が認められる。
 当院で根治的放射線治療を行ったⅢ/Ⅳ期下咽頭癌について,治療成績,予後因子,その年代的変遷等を検討した。
対 象と方 法
 当科のデータベースから,1991年から2008年に根治的的放射線治療を行ったⅢ/Ⅳ期下咽頭癌を抽出した。遠隔転移を要する症例(Ⅳc期),総線量が50Gyに満たなかった症例は対象から除外した。対象症例の患者背景,治療因子を明らかにすると共に,治療成績との関係を検討した。生存率は,照射開始日から起算してカプラン・マイヤー法で計算し,ログランク試験を用いて比較した。多変量解析にはCox比例ハザードモデルを用い,尤度比減少法で有意因子を抽出した。



図1. 治療年代による患者数の推移





結 果
 適格患者は77例であり,患者数は治療年代と共に増加していた(図1)。患者背景(表1),治療背景(表2)を示す。77例中,74例が男性であり,平均年齢44.9歳(44-83歳),原発亜部位は梨状窩が多く(79%),35例に食道癌(27例)などの同時性・異時性重複癌を伴っていた。放射線治療は,55例が通常分割照射,20例が加速過分割ブースト照射,2例が過分割照射で行われており,総線量中央値は70Gy(50-76Gy)であった。67例(87%)に化学療法が併用されており,内訳はTPF22例,FP12例,動注11例,その他20例であった。中央値18.7ヶ月(生存者24.6ヶ月)の追跡調査にて,2,5年の全生存率は56.4%,38.1%(図2),無病生存率は48.3%,33.5%であった。全生存率をエンドポイントに,単変量解析の結果などから選択した年齢,亜部位,T分類,N分類,照射開始日,分割法,総線量,化学療法有無について多変量解析を行うと,照射開始日(p=0.013),T分類(p=0.02,図3)のみが有意予後因子であった。





図2. 全生存率


 治療年代の影響を更に検討するため,治療内容に即して次のように3分割した: 1991-1996(n=18),1997-2001(n=22),2002-2008(n=37)。治療年代別の患者・治療背景(表3)と全生存率(図3)を示す。1996年以前はシスプラチン(CDDP)/5フルオロウラシル(5FU),少量CDDPを同時併用した通常分割照射が多かったが,続く5年間はCDDP大量動注が積極的に併用されていた。この5年間は,加速過分割照射をコーン・ダウン後のブースト照射に用いるなど,治療強度を上げる試みが




図3. 治療年代別生存率

盛んに行われていたが,T4/N3等の高度進行例が大変多く,治療成績の改善は得られていない。2001年後半頃より,ドセタキセル(DOC),シスプラチン,5FU(TPF療法)を同時併用した化学放射線治療が治療の中心となっている。ただ,急性有害反応の程度が強いため,より早期例にはweeklyDOCを用いるように修正がなされている。まだ経過観察時間が短いが,初期成績はとても良好である。


考 察
 1990年から2008年のⅢ/Ⅳ期下咽頭癌77例の治療成績は,2年生存率56.4%,5年38.1%であり,決して良好とはいえない。しかし,治療年代と共に,根治照射症例数は増加し,治療成績は向上していた。症例数はやや少ないが,多変量解析による有意予後因子がT分類,治療年代であることは,臨床的な印象からも妥当と考えられた。
 下咽頭癌に対する動注化学療法の併用は論議のあるところであるが,当科の動注症例は,他の治療法と比較して明らかに高度進行症例に偏った分布を示しており,その有効性を評価することは困難である。しかし,進行例に対して現在採用しているTPF併用療法は,全身療法ながら高い局所制御能を有しており,下咽頭癌のリンパ節転移の広がり・頻度を考慮しても,動注療法の必然性はあまり高くないように思われる。治療成績の向上は,喉頭温存を主目的としたより早期の症例を放射線治療に動員することになり,更なる治療成績の向上・喉頭温存率の増加に貢献していると感じる。ただ,TPF同時併用放射線治療の急性有害反応は大変強く,その詳細なレポートも含めた治療法の評価が今後の課題と考えている。


結 論
 1990年から2008年のⅢ/Ⅳ期下咽頭癌77例の治療成績は,2年生存率56.4%,5年38.1%だが,治療年代と共に治療成績は向上していた。現在は,比較的早期例に対してはweeklyDOCを,進行例に対してはTPFを同時併用した化学放射線療法を基本方針としている。観察期間は短いが,初期成績は有意に良好であり,有望な治療と考えている。