第五十二回北日本放射線腫瘍学研究会 2)『当院における進行下咽頭癌TS-1併用放射線治療成績』

 

2)『当院における進行下咽頭癌TS-1併用放射線治療成績』
札幌医科大学放射線科 中 田 健 生・高 田 優
林 潤 一・高 木 克
染 谷 正 則・坂 田 耕 一
晴 山 雅 人
目 的
 札幌医科大学放射線科で根治的放射線治療を施行した下咽頭癌の治療成績を報告する。
対 象
 2000〜2008年に当院で根治的放射線治療を施行した下咽頭癌51 例でStageⅠ/Ⅱの15例を含めて解析した。


結 果
 根治的放射線治療を施行した51症例の内訳をtable1.に,TNM分類別の内訳をfig.1.に示す。重複癌を有した症例は15例(29.4%)であった。照射野は局所のみの小照射野が4例で内訳はⅠ期2例,Ⅱ期1例,リンパ節郭清術後1例であった。左右対向2門で照射しうる上・中頸部を含めた照射野の症例は20例であった。下頸部から鎖骨上まで含めた,いわゆる全頸部を含めた照射野の症例が25例であった。25例の全頸部照射症例のうち2例がIMRTであった。食道領域まで含めた大照射野の症例が2例で,それぞれ上部食道浸潤のあるT4症例と同時食道癌症例であった。
 治療途中に照射野を縮小変更した回数が1回であったのが32例,2回であったのが14例であった。照射野が局所のみであった3例とIMRTの2例は治療途中の照射野変更を行っていない。
 51 例中49例が通常分割照射を施行しており,照射線量の平均値68.3 Gy,中央値70Gyであった。2 例は55 Gy/32 回(bid)の加速加分割照射を施行した。


Table 1. Patient characteristics
Patients 51  
Age   average64(range51-78)
Gender M46, F5  
Performance Status PS 0 / 1 / 2 41 / 8 / 2
Tumor subsite PS / PW / PC 37 / 10 / 4
Stage Ⅰ / Ⅱ / Ⅲ / Ⅳa / Ⅳb / Ⅳc : 5 / 10 / 8 / 21 / 5 / 2
Follow-up period average 27,median 21(range 1-66)
PS : Pyriform sinus, PW : Posterior wall, PC : Postcricoid


Figure 1.


Table 2. treatment of neck lymph node
 N-stage 2a 2b 2c 3
 RND(pre RT) 1 2  
 RND(post RT) 3 2  
 CT 4 2  
 (CC)RT 1 6 3 3
RND=radical neck dissection,(CC) RT=(concurrent chemo) radiotherapy, CT=chemotherapy


 化学療法は44例が同時併用で行われていた。このうち6例は放射線治療開始前にもneoadjuvantとして化学療法が行われていた。一方,照射単独は7例であった。
 N2, 3症例における頸部リンパ節の治療法をtable 2. に示す。3例が放射線治療前に頸部郭清術を施行した。放射線治療後の残存リンパ節転移に対して5例が頸部郭清術を施行,6例が化学療法を施行した。(化学)放射線治療で頸部リンパ節が縮小,消失した13症例は頸部リンパ節に対する追加治療を行っていない。
 当院では同時併用でのTS1の使用は2006年11月から行っており,今回対象の51例中17症例にTS1併用を行っていた。TS1併用の17症例の詳細をtable3.に示す。CDDP+5FUからTS1に交代併用した症例が7例,TS1単独併用が5例,TS1+CDDPの併用が4例,TS1+CDDP+DOCの併用が1例であった。TS1併用中止は1例のみで,血小板減少とワーファリンコントロール不良が中止の原因であった。
 病期別3年原病生存率はⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ 期で各々100,100,85.7,68.6% であった(fig.2.)。
 病期別3年局所制御慄はⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ 期で各々66.7,100,83.3,57.4% であった(fig.3.)。


Table 3. details of 17 cases combined RT with TS1
stage dose( Gy) local control NAC/CCRT/AC comment
70 recurrence x TS1 x  
70 x CDDP+TS x  
70 x CDDP+5FU → TS x  
70 x CDDP+TS1 x  
65.6 recurrence TS1/CDDP+5FU → S1/TS1 esophageal ca.
68 x TS1 x  
66.6 x CDDP+5FU → TS x  
70 TS1/TS1(break)/TS1 heart failure
70 x TS1 x  
Ⅳa 66.6 remainder x CDDP+5FU →TS1 x  
Ⅳa 70 x TS1 x  
Ⅳa 66.6 x CDDP+5FU → S1 x  
Ⅳa 66 x DOC+CDDP+TS1 x RND(pre RT)
Ⅳa 68 recurrence x CDDP+5FU→TS1 x RND(pre RT)
Ⅳa 66 x CDDP+5FU → S1/TS1  
Ⅳa 70(IMRT) x CDDP+TS1/CDGP+TS1 esophageal ca.
Ⅳa 70(IMRT) CDDP+DOC/CDDP+TS1 x  
NAC=neoadjuvnat chemotherapy, CCRT=concurrent chemo-radiotherapy, AC=adjuvant chemotherapy


 
Figure 2. 3 years cause specific survival   Figure 3. 3 years local control rate
Figure 4. 2 years local control rate(stage Ⅳ)


 Ⅳa 期におけるTS1併用8例と他剤併用11例での2年局所制御率は各々76.2%,80.8% で,統計学的有意差はなかった(fig.4.)。


考 察
 進行下咽頭癌の(化学)放射線治療の成績は上咽頭・中咽頭と比べ劣っているといわれている。今回われわれの施設での根治的放射線治療を施行した下咽頭癌の治療成績は生存率,局所制御率ともに良好であった。NACが効いた症例,もしくは放射線治療の反応のよい症例が根治的放射線治療を行っているためすでにバイアスがあることを考慮しなければならない。機能温存と局所制御を考えると,進行下咽頭癌ではNACやCCRT途中での治療効果を検討し,根治的放射線治療の適応を絞り込んでいく必要があると考える。
 当院では2006年11月よりTS1の併用を行っており,5FUからTS1 に変更しつつある。進行下咽頭癌に対するTS1併用放射線治療成績は良好で,TS1使用前と比べ劣っていなかた。TS1に含まれるギメラシルによる放射線増感作用に期待がもたれる。また抗癌剤投与方法が24時間持続点滴から1日2回内服になることで治療時の患者のQOL改善が得られる。当院では現在下咽頭癌を含めた頭頚部癌におけるTS1の至適併用方法,至適用量の検討を行っている。