第五十二回北日本放射線腫瘍学研究会 1)『当院におけるⅢ・Ⅳ期下咽頭癌の根治放射線治療成績』

 

1)『当院におけるⅢ・Ⅳ期下咽頭癌の根治放射線治療成績』
青森県立中央病院腫瘍放射線科 甲 藤 敬 一・近 藤 英 宏
渡 辺 定 雄
目 的
 2000年1月〜2008年12月末までの間に当科で根治照射を施行した下咽頭癌Ⅲ・Ⅳ A〜B期28例の治療成績について検討した。
対 象
 全例男性であり,年齢は48〜83歳(平均64.8歳)であった。腫瘍因子による根治照射の理由としては,切除不能17例(61%),切除可能も喉 頭温存目的・手術拒否・全身状態不良などの為に根治照射を行ったものが11例(39%)であった。原発部位は,側壁16例・前壁8例・後壁4例であり,全 例扁平上皮癌であった。進行度の内訳はⅢ期4例・Ⅳ A〜B期24例であり,対象例のT/N因子を表1.に示す。
 又,治療開始前にSCCが高値であったものは14/25例(56%)であり,重複癌を12/28例(42%)に認め,同時重複癌は4/28例(14%),異時重複癌は10/28例(34%)で,いずれも食道癌が最多であった。

表1. 対象例のT/N
        (下咽頭癌Ⅲ・Ⅳ A〜B)
  T1〜2 T3〜4  
N0〜1 1 7 8
N2〜3 9 11 20
  10 18 (28例)


治 療 方 法
 治療方針として,化学療法可能例では同時化学療法を施行,化学療法不能時には放射線単独療法を行った。
 放射線治療については通常分割照射(1回2Gy,週5回)で施行し,40Gyまでは左右対向2門+前方1門(13例・つなぎ目有り)または前方からの斜入2門(15例・つなぎ目なし)で頚部〜鎖骨上に照射,以後は脊髄をはずした残存病変に,放射線単独療法では70Gy,化学療法同時併用では66Gyを基本とした。放射線単独となったものは11例,化学療法同時併用(多くは,FP療法)を行ったものは17例であった。


結 果
 無癌生存は5例で,内2例は通過障害のため刻み・粥食となった。担癌生存は5例,原病死は非担癌での合併症死3例(誤飲性肺炎2例,咽頭潰瘍からの出血死1例)を含めた14例であり,重複癌による他病死が4例あった。以上の結果をKaplan-Meier法を用いて検討した。又,原発巣とLNの制御率については照射野内の再発または再燃をend pointとした。
 全例の原病生存率(図1)は2年54%・5年34%,局所制御率(図2)は2年30%であった。T因子別原病生存率を(図3),原発制御率を(図4)に示した。T1〜2は3年生存70%・3年原発制御率66%と比較的良好であるのに対し,T3〜4は3年生存11%・3年原発制御率25%と不良であった。一方,N因子による原病生存率はN0〜1とN2〜3に違いを認めなかった。LN制御率については,N0〜1は2年85%,N2〜3は2年53%と,当然ながらN0〜1は良好もT因子のために長期生存を認めていない。再発後の2年原病生存率は,原発再発で0%,LN再発で29%,肺転移でほぼ0%であった。
 同時化学療法の施行による原病生存率や局所制御率に改善は認めなかった。又,放射線治療時のつなぎ目の有無による原発制御率にも違いを認めなかった。


 
図1. 原病生存率   
(下咽頭癌Ⅲ期4例・Ⅳ期24例)
  図2. 局所制御率   
(下咽頭癌Ⅲ期4例・Ⅳ期24例)
 
図3. 原病生存率―T因子 
  (下咽頭癌Ⅲ・Ⅳ期)
  図4. 原発制御率―T因子
   (下咽頭癌Ⅲ・Ⅳ期)


考 察
 下咽頭癌は,Ⅰ・Ⅱ期で見つかることはまれで,発見時すでに大多数が進行癌(Ⅲ・Ⅳ期)であるとされている。
 そのうち,遠隔転移のない切除可能なⅢ・Ⅳ期下咽頭癌は,手術単独と手術+術後照射とのランダム化試験はないものの retrospectiveな検討から標準治療として手術+術後照射が行われる事が多く,5年生存はⅢ期で50%程度,Ⅳ期で40%程度とされている。最近では,術後照射をCCRTで行い予後の改善も報告されている。
 一方,遠隔転移のない切除不能なⅢ・Ⅳ期下咽頭癌に対しては,放射線治療と化学療法の併用が施行されているもののいまだ標準治療は定まっておらず,その治療方針や方法には施設間で大きな違いがある。
 種々の報告では,放射線治療単独での下咽頭癌の5年原病生存率は,Ⅲ期35〜50%・Ⅳ期4〜25%とされており,CCRTでは局所制御の改善と若干の予後の改善が報告されている。当科での原病生存率は下咽頭癌Ⅲ・Ⅳ期全体で2年54%・5年34%,Ⅳ期(24例)のみでは5年32%であった。
 しかしT因子では,T1〜2は3年原病生存率70%・3年原発制御率66%と比較的良好であるのに対し,T3〜4では3年原病生存率11%・3年原発制御率25%ときわめて不良で,Ⅲ・Ⅳ期下咽頭癌の予後の改善にはT3〜4の制御が重要であり,当科で行ってきた治療方法では T3〜4の制御は難しく,治療方法の変更が必要と思われた。
 EORCTのランダム化試験では,切除可能下咽頭癌(Ⅱ〜Ⅳ期)194例を対象に,手術+術後照射群と化学療法先行後反応良好例には放射線治療,反応不良例には手術+術後照射を行い,2群間の生存率に差がなかったとしている1)
 また,中村らは,進行下咽頭癌(Ⅲ期36例・Ⅳ期139例)175例を対象に30〜40Gyの化学放射線療法を行い,反応良好例には化学放射線療法を継続,不良例には手術を行った結果,両群の生存率に差はなく根治照射群での5年無再発率はT3で46%,T4で34.9%であり,化学放射線療法に感受性の高いものについては再発時の救済手術を前提とすれば,手術と同等の治療成績が期待できると報告している2)。これらの報告からは,手術可能な進行下咽頭癌の放射線治療成績を改善する為には化学放射線療法のResponderのふるいわけが必要と思われた。
 一方,同時化学療法についても種々の工夫がなされており,田口らは放射線治療は通常分割のままとし,全身化学療法の強度を上げてResponderをふるいわけたCCRTで,5年原病生存はⅢ期(6例)100%・Ⅳ期(22例)65%であったとしている3)。又,宇野らは進行下咽頭癌25例に同時化学療法としてTXTを動注・CDDP+5FUを全身投与にて行い5年生存はT3・T4とも62.2%であったとしている4)。当科の同時化学療法(多くは,FP療法)では放射線単独療法と比して予後の改善を認めず,手術不能例を含めて全身状態がゆるせばこれらの方法も検討すべき方法と考えられた。
 放射線治療については,過分割照射によるT3〜4制御率の向上やIMRTによる局所制御の向上・唾液腺機能温存のこころみが報告されている。当科でも,腫瘍の形状・部位から脊髄を避けた十分な線量投与が困難な症例に対しては,IMRTでの照射を検討していきたい。
 又,無癌生存5例の内2例は通過障害が強く,非担癌での合併症死3例,重複癌による他病死4例を認めた事とも合わせて,治療強度を上げる事に伴う晩期障害増加の可能性の検討や重複癌への配慮が必要と思えた。

Reference
1)Lefebvre, J.L., et al.:Larynx in pyriform sinus cancer:EORTC Head and Neck Cancer Cooperative Group. J Natl Cancer Inst 88:890-899, 1996
2)中村和正,塩山善之他:下咽頭癌の治療戦略 頭頚部癌33(3):305-308,2007
3)田口享秀他:下咽頭扁平上皮癌に対する化学療法同時併用放射線治療 頭頚部癌33(3):309-313, 2007
4)宇野雅子他:下咽頭癌進行例に対する超選択的動注療法と放射線同時併用療法の検討 頭頚部癌34(4):540-543, 2008