第五十回北日本放射線腫瘍学研究会 主題: 『膀胱癌に対する放射線治療成績』

 

4) 『当院での膀胱癌の放射線治療』
東北大学病院 放射線治療科  奈良崎 覚太朗・小川 芳弘
有賀 久哲・武田 賢
小藤 昌志・坂谷内 徹
  藤本 圭介・平出 智道
梅澤 玲・山田 章吾
同保健学科  仲田 栄子・高井 良尋
 
 膀胱癌は筋層浸潤の程度がリンパ節や遠隔転移の頻度と相関し,筋層浸潤のない表在性膀胱癌と筋層浸潤のある浸潤性膀胱癌で,治療法,予後が異なる。表在性膀胱癌の治療はTUR-Btが主体で,更にBCG膀注が再発予防に有効であることが確立しており,放射線治療が初期治療として行われることはない。浸潤性膀胱癌の治療は膀胱全摘術が広く行われている。
 しかし,膀胱全摘術と放射線治療を比較した臨床試験は行われておらず,浸潤性膀胱癌の標準治療はいまだ結論に至っていない。今後,化学放射線療法や高精度照射法の導入により,全摘術に匹敵する生存率に加えて高い膀胱温存率が得られる可能性がある。
 当院で膀胱癌にて原発巣に放射線治療を受けた1980年から2005年までの98例の治療成績について報告する。対象は1980年から2005年までに膀胱癌にて原発巣に放射線治療を受けた98例。(因みに,この期間の放射線治療患者数は13,526例,そのうち膀胱癌は160例であった。)年齢は36-90歳,平均70歳。男性82例,女性16例。組織型は移行上皮癌が91例,扁平上皮癌が6例,小細胞癌が1例。病期はI期3例,II期16例,III期40例,IV期39例で,III期以上の症例が多くなっていた。
 98例中50症例は初回治療として根治放射線治療が施行された。うち照射単独は12例,全身化学療法併用が4例,選択的動注化学療法併用が34例(使用薬剤はCDDP単剤が3例,CDDPを含む多剤が24例,CBDCAを含む多剤が6例,PEP単剤が1例)であった。術前照射として施行されたものは98例中16症例であった。再発病変に対する照射は98例中32症例であった。
 当院の照射方針は,放射線単独または全身化学療法併用の根治照射の場合にはsmall-whole pelvis 40-50 Gy+追加照射,総線量60-70Gy。選択的動注化学療法併用の根治照射の場合には放射線膀胱炎による萎縮膀胱発症の危険性が高まるため,small pelvis 40 Gy/20 Frとしている。術前照射の場合にはsmall-whole pelvis 40-50 Gy。再発病変への照射の場合には症例ごとに個別の照射方法としている。  
 98例の実際の照射方法を見てみると,30-50 Gyの全骨盤照射(対向2門,4門照射)から開始したのが62症例,30-60 Gyの小骨盤照射(対向2門,4門照射)から開始したのが18症例,膀胱のみへの照射は18症例であった。総線量は18-70 Gy,平均48.7 Gyであった。
 全98症例の粗生存率は5生率30%,10生率13% であった。III期とIV期の79症例では5生率24%,10生率9% であった。治療方針別では,根治放射線治療50例では5生率23%,10生率9%,術前照射16例では5生率52%,10生率35%,再発症例では5生率30%,10生率20% であった。根治放射線治療の内,照射単独では5生率27%,全身化学療法併用では5生率25%,10生率25%,選択的動注化学療法併用では5生率24%,10生率7% であった(いずれも放射線治療開始からの期間)。症例が少なく,化学療法併用の有無で治療成績の差はみられなかった。
 放射線障害では放射線膀胱炎の発生率は5年で7%,10年で15%であった。
 近年のT2-4膀胱癌に対する放射線治療の標準成績は,照射単独でCR率が40-60%,5生率が30-40%,TUR-Bt+化療+照射でCR率が60-80%,5生率が50-60%(T3-4では40% 程度)と集学的膀胱温存療法は全摘術と大差がなくなっている。膀胱全摘と膀胱温存療法の臨床試験が望まれるところである。
 また,近年実験的に使用されているTrastuzumab(Herceptin),Gefitinib(Iressa)といった分子標的薬の併用や,SRT,IMRTといった高精度照射法の導入によって更なる膀胱温存療法の改善にも期待したい。
 近年の動注化学療法併用放射線治療の成績は日本からの報告が多い(CR率50-90%)。動注が世界の標準的治療になるためには,レベルの高いエビデンスを出していかなければならないであろう。