第五十回北日本放射線腫瘍学研究会 主題: 『膀胱癌に対する放射線治療成績』

 

3) 『山形大および関連病院における膀胱癌の放射線治療成績』
山形大学医学部がん臨床センター  和田 仁・野宮 琢磨
鈴木 志恒・根本 建二
山形市立病院済生館放射線科  高井 憲司
公立置賜総合病院泌尿器科  久保田 洋子
 
 山形県内の3施設(山形大学附属病院,山形市立病院済生館,公立置賜総合病院)で根治的放射線治療を行った膀胱癌症例に対する治療成績をまとめたので,若干の文献的考察を加えて報告する。
対象・方法
 対象は2000年12月〜2007年11月に根治的放射線治療を施行した膀胱癌根治的照射施行35例(当院27例,済生館4例,置賜4例)である。患者因子を表1に,腫瘍因子を表2に示した。対象症例年齢の中央値は79歳と高齢者が多かったが,PSはいずれも2以下であった。症例全体の94%(32/35)が浸潤癌であった。初診時T1と診断された3例はいずれも病理がGrade 3であり,経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection : TUR-Bt)を繰り返した後の再発残存で手術的根治治療が困難となった症例であった。治療前にCTなどで骨盤リンパ節転移ありと診断されたものは1例のみであった。
 治療の概要を表3に示した。放射線治療は原則として10MVX線が用いられ,1回線量1.8-2 Gyで通常分割照射が施行された。総線量は40-66 Gy(中央値60Gy)であった。2例が2週以上照射休止した。全骨盤照射は7例に施行され40-50Gyで,小骨盤照射は17例に施行され40-54 Gyで,それぞれ照射野を膀胱に縮小した。CTを用いた3次元放射線治療計画症例では,膀胱の照射野は排尿直後にCTを撮像し,膀胱全体をCTVとし1-2 cmの安全域を加えてPTVとした。膀胱全体への総線量は




 
60Gyとし,5例に膀胱腫瘍に限局した照射6 Gyを追加した。化学療法はシスプラチンとアドリアマイシンが主であったが(表4),薬剤投与方法は様々であった。


 観察期間は4〜88ヶ月(中央値26ヶ月),最終観察日は2008年5月31日で,追跡率は97%(34/35)であった。生存曲線の解析にはKaplan-Meier法を用い,Logrank検定p<0.05で有意差ありとした 晩期障害の評価はCTCAE ver. 3.0を用いた。
結 果
 全体の3年全生存率,局所制御率は,それぞれ38.1%,48.1% であった(図1)。各因子に関する単変量解析の結果を表5に示す。全生存率で有意差を認めたものは動注有無と局所の一次効果,局所制御で有意差を認めたものは一次効果であった(図2,図3)。CRにならなかった全例で局所再発を認めた。
 骨盤リンパ節再発は2例でいずれも照射野内(全骨盤44Gy,小骨盤48 Gy)であり,照射野外骨盤


図1. Overall survival & Local free survival


 
リンパ節再発例はみられなかった。膀胱のみの局所照射を行った症例で,骨盤リンパ節再発はみられなかった。遠隔転移は肺が7例,肝,骨盤外リンパ節転移がそれぞれ6例,骨転移4例,癌性腹膜炎2例,脳,副腎,胸壁転移がそれぞれ1例であった。
 Grade 2以上の晩期障害として,萎縮膀胱が3例(8.5%)にみられた。治療の内訳は40-45 Gy+動注3回併用が2例,66 Gy照射単独が1例であった。その他の尿路障害としては,血尿が(局所再発例を除く)2例にみられ,45 Gy+動注併用が1例,66 Gy照射単独が1例であった。尿道狭窄1例で60 Gy照射単独であった。腸管の晩期障害は,直腸炎が2例でいずれも60 Gy(1例化療併用) 照射例であったが,Grade 3以上はみられなかった。


図2. 動注科学療法


図3. 一次効果(CR or non-CR)
 考 察
 膀胱癌の治療方針は病巣の浸潤度によって異なる。筋層浸潤のない表在性膀胱癌の標準治療はTUR-Btであり,また再発予防のためBCG(Bacille Calmette-Guerin)や抗がん剤を膀胱内注入することが多い1)。一方,浸潤性膀胱癌は膀胱全摘術を第1選択とするのが一般的である1)。浸潤性膀胱癌に対しては,高齢者の増加や膀胱摘出後のQOL低下を避けるため,特に手術不能例に対して膀胱機能温存を目指した集学的治療が治療選択肢の一つであるが2)3),膀胱全摘術と化学放射線療法中心の膀胱温存療法の優劣を比較した臨床試験の報告はこれまでみられない。膀胱温存を目指した集学的治療として,TUR-Btにより可能な限り腫瘍切除を行った後,膀胱に対する放射線治療にシスプラチンを中心とする化学療法を同時併用する方法が標準的治療とされるが1)3),我々の施設も同様の方針をとっているが,化学療法に関しては動注併用例が全体の60% であった。
 本検討では症例数は少ないものの,単変量解析において一次効果CR例は局所制御,生存率とも有意に良好で,また動注併用例は生存率改善に寄与していた。病理学的CRは膀胱温存療法において重要な因子とされる4)。また本邦を中心に膀胱温存療法に動注化学療法を施行し良好なCR率と膀胱温存率が得られたとする報告がある(表6)2)5)。上顎洞癌など他の癌でも同様だが,これまでに膀胱癌に対する動注化学療法の明らかな有効性を示した臨床試験の報告はみられず,今後治療手技や抗がん剤投与量など治療法の標準化や臨床試験による検証が必要であろう。
 症例が少ないこともあるが,本検討では照射野内からの骨盤リンパ節再発はみられなかった。手術ではリンパ節郭清が予後を規定する因子として重視され,特に郭清個数が多いと予後良好とされる6)。しかし骨盤リンパ節領域への予防照射や,リンパ節転移に対する至適線量や意義についてもまだ明らかにはなっていない。現在,我々の施設では骨盤リンパ節領域への予防照射をしないパイロットスタ


 
ディを行っているが,さらなる症例集積後に改めて検討が必要と考えている。
 放射線治療後の晩期有害事象として,Grade 3以上の頻度は膀胱全体に照射される線量とともに増加し,50-60% で10-30% とされるが,60 Gy以上でも照射範囲を限定すれば有害事象を軽減できると報告されている<sup>7)</sup>。我々の検討では,動注併用例の場合は総線量が50 Gy以下でも晩期有害事象がみられており,局所制御率が向上する半面で合併症の危険性を考慮する必要があると思われた。
 引用文献
1) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology Bladder Cancer V.2. 2008, http://www.nccn.org/
2) Sumiyoshi Y. Chemoradiotherapy as a bladder-preservation approach for muscle-invasive bladder cancer: current status and perspectives. Int J Clin Oncol 2004; 9: 484-490
3) Shipley WU, Kaufman DS, Zehr E, et al. Selective bladder preservation by combined modality protocol treatment: long-term outcomes of 190 patients with invasive bladder cancer. Urology 2002; 60: 62-68
4) 平塚純一.I. 泌尿器癌 2. 膀胱癌 エビデンス放射線治療 pp. 388-392 中外医学社
5) Eapen L, Stewart D, Collins J, et al. Effective bladder sparing therapy with intra-arterial cisplatin and radiotherapy for localized bladder cancer. J Urol 2004; 172: 1276-1280
6) Honma I, Masumori N, Sato E, et al. Removal of more lymph nodes may provide better outcome, as well as more accurate pathologic findings, in patients with bladder cancer—analysis of role of pelvic lymph node dissection. Urology 2006; 68: 543-548
7) 秋元哲夫.膀胱癌 2008放射線治療計画ガイドライン pp. 190-195 日本放射線科専門医会・医会