当科で,昭和56年から,平成元年まで膀胱温存を目的に,放射線治療を施行した66例の膀胱癌症例について報告した。
症例の背景
対象 66例で 男性 79% 女性 21%
年齢の平均値は64歳であり,同じ時期に治療された全膀胱癌症例の37% であった。
治療対象は,局所に限局し,明らかな転移を有しない症例で,後部尿道,前立腺への直接浸潤はふくめた。
組織学的には1例のAnaplastic Ca 2例のSCCの混在するTCC,他はTCC症例であった。Grade別は,Grade 1: 1% 2: 21% 3: 78% であった。
組織学的進達度は,筋層浸潤なしが37例,筋層以下への浸潤症例は29名であった。
治療方法
放射線治療の方法は,原則的に前任者が経験したChristieでの治療方法に則っておこなわれた。
まずアクリル製の固定具を次の如く作成した。ギブス包帯を用いて鋳型をとり,ギブスの型に石膏を注入して型を作る。その型をShell形成機にて,アクリルのShellを作成した。
Shellを装着し,排尿後のCTを撮像,CRT上での,各スライスの輪廓,膀胱,直腸,骨性分をトレースし,全体像を把握,中央での2次元画像に膀胱の最大輪廓をCTVとし治療計画をおこなった。治療計画をASE社製のCTに付属したCTRTにて上記擬似3次元的に照射野を設定した。治療器が4MV X線のため基本的には前方3門を用い,前側方からの2門は可能な限り直腸をはずした。(尚ICRU 50出版以前の治療であることを付け加える。)
委縮性膀胱の予防のため,治療期間中は3,000 ccを目標に尿量の確保につとめ,飲水量,尿量を表にし,毎日の尿量,時間ごとの尿量を確認(特に早朝の一回尿量)尿量が満たないときは飲水を促し,無理な時は点滴を施行した。
放射線治療は,朝一番にて排尿後施行し,週に一度CTをおこない,膀胱の位置,直腸の移動等を確認した。
用いた線量は,時期により違いがあり主に62.5 Gy/25 Fにて治療された。α/β3Gyでは結果的にはやや高い線量となっていた。
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α/β10Gy |
α/β3Gy |
52.5Gy/16F |
10例 |
69.7Gy |
109.7Gy |
66Gy/33F |
4例 |
79.2Gy |
109.9Gy |
62.5Gy/25F |
52例 |
78.1Gy |
114.6Gy |
治療効果
3ヵ月後の内視鏡所見を元に治療効果を判定した。完全寛解率は93% であった。5年での局所制御率は38%,生存率は77% であった。表1,2 参照
有害事象
手術カテ挿入等を必要とする委縮性膀胱はみられなかった。血尿によるタンポナーデでカテ操作が必要な症例が2例,小腸の癒着によるイレウスが1例にみとめられた。
ま と め
当科に於ける根治的放射線治療を施行した66例について報告した。全例膀胱に限局した放射線治療を施行,完全寛解率は93% であった。5年での局所制御率は38%,生存率は77% であった。治療による委縮性膀胱の発生はなかった。
表1. |
表2. |
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考 察
膀胱癌は早期症例には,TURが用いられ,Anthracyclineの局所への注入がおこなわれる。しかし,その再発率は高く,繰り返すTUR,薬物注入にて,膀胱容量の減少がみられ,また腫瘍の進達度の変化等により,全摘にいたる症例が少なくない。これらより,各Stageでの膀胱への照射による機能温存は,考慮すべき治療と考えられる。
尚前述の如く,ICRU 50以前,LQモデルが一般的に用いられ,M-VACが膀胱癌の化学療法の標準となる以前の時代の報告である。