岩手医大放射線科 中村 隆二・及川 博文
岩手医大泌尿器科 高田 亮・丹治 進
目 的
当院の膀胱癌に対する放射線治療で遠隔生存率に関与する因子をretrospectiveに検討する。
対 象
2000年5月から2006年11月までに膀胱原発の移行上皮癌に対し根治的放射線治療を施行した症例で,尿管癌の併発例と放射線治療後に膀胱全摘術が施行された症例を除いた58例を対象とした。放射線治療が選択された理由は高齢・余病・PS不良(32),病期の高度進行(22),手術拒否(4)であった。[前治療]TUR-BTの既往が8例でみられ,化学療法が21例で施行され(CR 1,PR 5,NC 6,PD 9)ていた。[患者背景]男女比37/21,平均年齢73(42-90)歳,PSは1(14)または2(10)が多くみられた。[臨床病期]T2(3)T3(30)T4(14)と進行例が多くリンパ節転移が6例にみられた。[放射線治療]膀胱と転移陽性リンパ節をGTV,GTVに1 cmマージンをつけたものをCTV 1,全骨盤をCTV 2と設定しCTV 2に40/46 Gy,CTV 1に60/66 Gyの照射を行なった。11例で同時化学療法が施行された。[腫瘍縮小効果]CR 7,PR 33,NC 17不明5で奏効率69% であった。[後治療]PR 4例にTUR-BT,2例に化学療法が施行された。[治療後経過]CR 4例,PR 22例は平均258日後に局所(19)または局所+遠隔臓器に再発・再燃した。平均564(8-1,830)日の観察期間中に無病生存9,担癌生存8,原病死37,担癌不詳生存2,他癌死2がみられた。2年以上当院で経過観察された10例中にgrade 2以上の晩期障害が3例(膀胱出血2,下血1)にみられた。放射線治療後生存期間の中央値は440日,5年生存率は28.9% であった。
方 法
年齢(72歳以下25 ; 73歳以上33),PS(0,35 ; 1/2,23),T分類(2-3,44 ; 3b/4a/4b,14),N分類(0,52 ; 1/2,6),総線量(60 Gy,27 ; 66 Gy,31),照射前化学療法(無し,37 ; 有,21)の各因子で生存率をKaplan-Meier法で計算しlog-rank testで有意差の有無を検討した。
結 果
表1に結果を示す。
表1
因子 |
分類 |
N |
MST(日) |
P |
年齢 |
<72 >73 |
33
25 |
433
860 |
0.530 |
PS |
0
1,2 |
35
13 |
474
868 |
0.982 |
T因子 |
2,3
4 |
44
14 |
868
360 |
0.023 |
N因子 |
0
1,2 |
52
6 |
860
310 |
0.163 |
総線量 |
60Gy
66Gy |
26
32 |
323
1,341 |
0.005 |
照射前
科学療法 |
あり
なし |
21
37 |
433
860 |
0.423 |
考 察
当院で膀胱癌のなかで患者因子,腫瘍因子などから手術不能となった症例に対して放射線治療が行なわれたが,局所制御率は低く晩期障害は高頻度で治療成績は不良であった。対象の中に照射前に化学療法が施行された症例の多く含まれていた。その大半は化学療法が奏効しなかった症例で,放射線治療後のMSTは前治療のない症例に比べて低値であった(有意差なし)。一方当院で同時期に化学療法後膀胱全摘が行なわれたT2-3症例の5年生存率は69% で,特にpT1まで縮小が得られた症例では86% と予後良好であったことから,化学療法に対する感受性は予後決定因子となる可能性が示された(高田ら 日本癌治療学会2006)。
当院の膀胱癌に対する治療戦略の結果として放射線治療は潜在的に予後不良な症例に対し治療成績の向上が求められる困難な状況にあると思われた。Dose escalationにより局所制御率が上昇したことから,膀胱全体ではなく腫瘍に限局したboost照射が可能となれば,晩期障害を減らしながら局所制御率を上昇させることが出来ると思われ,IGRTに期待がもたれる。