第四十八回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題: 『放射線治療におけるPETの有効利用』,15-19

 

4)『放射線治療におけるPETの有効利用【アンケート報告】』
北海道がんセンター 放射線科
鈴 木 恵士郎


 近年,PETの普及に伴い放射線治療への活用の頻度が高まってきているが,その現状ならびにPETに対する放射線治療医の期待,要望をアンケートにて集計したので報告する。アンケートの回答は北日本放射線腫瘍学研究会所属の29施設34名の医師より得られた。この場を借りて御協力を感謝いたします。
 Q2はPETの導入状況を調査する設問であるが,5施設(17%)ですでに導入済みであり,6施設(21%)で導入予定であった。また16施設(55%)でPETは自施設に「必要」と考えているが導入予定なし,2施設(7%)では導入不要と考えていた。また,未導入の24施設に現在PET検査はどのように対応しているかを尋ねたところ(Q3),24施設全てで近隣の施設に依頼することで対応できていた。Q4は導入の予定がないあるいは不要と回答した16施設にその理由を尋ねたものであるが,①他施設に依頼することで対応可能 ②PET導入の経済的負担が主な理由であった。放射線治療機器を有する施設は都市部に存在しているため,市内あるいは近郊でPET検査を容易に外注できる環境にあるためと推測され,さらに資源の有効利用という点ではPETを自施設に所有する必要性は少ないかもしれない。


 
     
 


 Q5では既に導入済みの5施設で現在臨床的に使用しているトレーサーを調査したが,全施設で保険適応の18F-FDGを使用している他,大学病院で研究目的であるが11C-MET,18F-FRP(各1施設)が使われていた。参考までに他施設に 11C-Cholinを使用依頼している施設が1施設あった。
 Q6では各施設で現在進行中の公開可能な研究について調べたものであるが,FDG-PETによる頭頸部癌の治療効果判定,腫瘍細胞の細胞同調とFDG-PETの関係,PETを用いたプランニング,PET所見と病理学的所見の対比,PETを用いた放射線性心筋障害の検出,低酸素,化学放射線治療前後のPET所見の変化と治療効果の比較などのテーマについて研究が行われていた。Q7では放射線治療においてPETに期待するところ,有用と思われるところを尋ねたが,①プランニング時の参照用画像 ②Staging ③良性悪性の鑑別 ④PETとCTなど画像の重ね合わせによる標的の輪郭設定 ⑤細胞および分子レベルでの評価(低酸素など) ⑥SUVを予後因子として利用,の回答が複数の医師から寄せられた。この結果から,放射線治療医がPETに対してbreakthroughとなるような新しい発見を期待していることが分かる。


 
     
 
     
 


 Q8〜Q13では実際の外来診察におけるPETの利用状況を調べている。Q8は放射線科外来を受診する新患のうちPETを持参する患者の割合を尋ねたものである。31名の医師より回答を得たが,28名(90%)の医師が担当する外来でPETを「持参する」患者を診察していた。PETを持参する患者の割合は,全体の74% で多くても4人に一人程度(1-25%)であったが,ほぼ全員がPETを持参する外来もあり(1名),紹介元の(他科)医師のPETに対する理解が深まると,この割合は増える可能性があると推測された。Q9では新たに外来でPETを申し込む患者の割合を尋ねた。約2/3(66%)の医師がPET検査を追加で申し込んでいるが,そのほとんどが多くても4人に一人程度であった。この割合は,放射線治療の適応となる患者のうち姑息的照射やPETの保険適応のない疾患に対する照射の割合によって左右されるものであり,また治療医の考え方によっても変わる可能性があると考えられた。Q10では新患を診察する際にPET検査があるほうが望ましいと思われる疾患であるが,様々な報告ですでに有用性が確認されている疾患(頭頸部,肺,食道,リンパ腫など)では多くの医師がPETはあるほうが望ましいと考えていた。Q11では外来でPETを申し込んだ場合の平均的な待ち時間を調べているが,最短で1〜3日,ほぼ半数で1週間以内であり全体の9割で2週間以内であった。Q12ではPETの待ち時間が短くなれば,申込みは増えるかどうかを尋ねている。3割の医師が「増える」と答える一方,7割は「増えない」と回答しており,さらにQ13では許容できる待ち時間を問うているが,理想は1週間以内で100% が満足できるが2週間でも約6割の医師が満足としており,現状に不満を感じている医師は予想より多くないと考えられ,またPET検査のスループットを考慮すると,十分に早い対応がなされているとも考えられた。


 
     
 
     
 


 Q14では今後使用を希望するトレーサーを調べているが,糖代謝を描出しうるトレーサー(18F-FDGなど)が圧倒的に多く,これは現時点において保険適応で使用できるトレーサーが 18F-FDG以外にないことも影響しているだろう。その他放射線感受性に影響すると考えられる細胞の低酸素状態(18F-FMISOなど)や,DNA合成状態(124I-IUDRなど),蛋白合成状態(11C-METなど)にも興味が示されていた。さらに,分子標的治療における有用性が示唆されるEGFR kinase activityを評価しうる 124I-IPQAなどの薬剤にも注目が集まった。
 Q15は主観的にみてPET検査の費用が高いか安いかを尋ねたものであるが,29% で「安い」,35% で「妥当である」との回答を得たが,「高い」あるいは「評価不能」が約1/3を占めており放射線治療の現場においての「価格的」評価はまちまちであることが分かった。


   
     
 
     
 


 アンケートの最後には自由に意見を記入する欄を設けたが,PET所見の読影に関する質問,PETを用いたプランにおける問題点の提起(保険請求含む),保険適応の拡大に関する意見,RIの自施設以外への販売に関する法改正の要望,DPCにて入院中の患者の外注PET検査の問題(DPC入院中は他院を受診した場合その日の入院費を請求できない)などが挙げられていた。これらのうちPETプランの保険請求およびPETの保険適応の拡大に関しては関連学会を通した働きかけが必須であること,DPCにて入院中の患者の外注PETに関してはPET施設の有効利用という観点からも特別な配慮がなされてもいいのではないか,また外注でPETを行いその結果をもとにPETプランを行う方法の基礎研究なども同様に施設の有効利用という点では有用であろう,などの討論がなされた。