第四十八回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題: 『放射線治療におけるPETの有効利用』,9-12

 

2)『FDG−PETの放射線治療への利用』
北海道大学高次診断治療学専攻 放射線医学分野
藤 野 賢 治・青 山 英 史
鬼 丸 力 也・加 藤 徳 雄
木 下 留美子・田 口 大 志
白 土 博 樹
北海道大学高次診断治療学専攻 病態情報学講座核医学分野
玉 木 長 良
国立病院機構北海道がんセンター
鈴 木 恵士郎
北海道大学医学部保健学科
加 藤 知恵次・西 岡   健
背   景
 2003年3月より我々はFDG-PETの放射線治療への利用を考え,PET画像を用いた放射線治療計画について研究してきた。その経験のご報告とFDG-PETの放射線治療計画への有用性および問題点を提示する。
Research 1
 観察者間のPETでのROI設定のばらつきについて,CTでのROI設定の場合と比較した。
方   法
 2003年から2005年に北海道大学病院にて放射線治療を受けた12人の肺癌患者。CT2 mm sliceで施行。FDG-PETとCTとを同じ体位にするため,PETを平板患者台,呼吸止め下で施行。imageregistrationの方法として,Volume based registrationの 一つである,mutual information法を用いた。
 FDG-PETでのContouring体積がCTでのContouring体積よりもoperator間のばらつきを減少できるか検討した。
 出来上がったfusion画像を用いて3名のoperatorが腫瘍範囲のcontouringを施行。CTのみでcontouringした場合とFDG-PETの集積のみでcontouringした場合とを比較。
 SUVの悪性腫瘍判断基準値が定まっていないため,また,SUV大小によるばらつきを低減させてSUV値1.5,2.0,2.5で集積をcontouringした。Contouringの際の画像条件(WW,WL)は,3名ともに統一して施行した。
結   果
 3名の測定結果が正規分布を示さなかったため,対数変換してのカイ2乗検定を施行した。各測定値はCTが.29±0.20,SUV1.5が0.18±0.07(p=0.1134),SUV2.0が0.28±0.27(p=0.9305),SUV2.5が0.41±0.46 (p=0.4490)であった。(*p値はCTでの体積とのカイ2乗検定)
 測定値のばらつきはCTの場合と比較して有意差は認められなかった。
Research 2
ファントム実験
 撮像中の移動と,標的体積がSUVに及ぼす影響について調査した。
方   法
 直径の異なる(ファントム1が1.0 cm,ファントム2が1.6 cm,ファントム3が1.9 cm,ファントム4が2.1cm,ファントム5が3.0 cm)5種類の球形ファントムを用いて実験した。ファントム内のSUVが計算上4.0になるようにしたファントムを ① No moveで5分間 ② No moveで30秒×3回 ③ 1 cmの振幅で単振動しながら5分間 ④ 2 cmの振幅で単振動しながら5分間 ⑤ 3 cmの振幅で単振動しながら5分間
結   果
それぞれのSUV値は,ファントム1が ① 1.841 ② 1.393 ③ 1.145 ④ 1.146 ⑤ 1.091,ファントム2が ① 2.391 ② 2.020 ③ 1.588 ④ 1.463 ⑤ 1.417,ファントム3が ① 2.588 ② 2.646 ③ 1.985 ④ 1.657 ⑤ 1.535,ファントム4が ① 2.725 ② 2.916 ③ 2.412 ④ 2.045 ⑤ 1.784,ファントム5が ① 3.916 ② 3.994 ③ 3.323 ④ 3.322 ⑤ 2.843,であった。(Figure 1)
 以上から次の2点が示された。腫瘍径が3 cmあれば本来の集積値とほぼ同じ値を示すが,それ以下になるとsizeの影響でSUVが実際の集積よりも過小評価されてしまうこと。また,動きながら5分間撮像するよりも動きを止めて短いスキャンを3回繰り返すほうがSUV低下を削減できること。


Figure1 呼吸止めによるSUVの変化(改善)に関するphantom実験結果


Research 3
Breath-Hold PETの試み
 106人275病変の肺癌に対して通常のPET撮像後に息止め下でのPET撮像を加えて施行し,それによりSUVの変化があるか検討した。
 撮像条件は,18F-FDG 約200 MBqを静脈内に投与し,約50分の安静の後,撮像。Initial PET(最初に撮像した通常のPET)は(Emission70s+Trans70s)/bed,Breath-holdPET (2番目に撮像した息止めでのPET)は(Emission30s + Trans30s)/bed,Delayed PET (3番目に撮像した遅延相)は(Emission70s+Trans 70s)/bed
 また,Injectionから撮像までの経時的影響によるSUVの上昇と区別するため,Breath-Hold PET時にNon-Breath-Hold PETを撮像したと仮定した場合のSUV値をInitial PETとDelayed PETを用いてInterpolated SUVとして算出した。
結   果
 Breath-Hold PETで明らかなSUVの上昇(改善)を認めた。Initial PETでのSUVをSUV比1.0として比較すると,Breath-Hold PETでSUV比1.19,Delay-PETで1.16。これは経時変化によるSUVの上昇でないことがInterpolated SUVのSUV比1.08との比較により明らかであった。(Figure 2)
結   論
 FDG-PETを用いてContouringすることは明らかなOperator間のばらつきを拡げることにはつながらない。
 ファントム実験により,直径が3 cm以上の腫瘍ではMAX SUVが低減されないことが分かった。
呼吸性移動によるSUVの低下を低減させるために,Breath-Hold PETは有用である。
 今後の問題点としては,元々は全く同じではない画像の重ね併せによるため,どんなにうまく合わせても重ね合わせ誤差が生じる。したがって,CTでの位置あわせ時にContouringした腫瘍に対して通常のCT Planningの際のMarginに加えて,更に画像重ね合わせの誤差によるmarginをとる必要がある。


Figure2


 SUVを腫瘍の存在判定には用いることが出来るが,腫瘍の進展範囲まで決定することは困難である。理由はSUV値は使用するPETの機器,患者の体脂肪量,腫瘍体積等の要因で変化してしまう可能性がある。これらに対するより最適な補正を可能とし,また,より最適なSUVの値を設定することができれば,より客観的数値としてcontouringに利用可能と考えられる。