近年,放射線治療に対する意識変化や放射線治療装置を有する病院の増加などに伴い,放射線治療を受ける患者数は急激に増加している。また技術の進歩は定位照射あるいはIMRTなど放射線治療そのものの高度化・複雑化をもたらした。これらに対応する放射線治療医の負担は予想を超えて増えつつある。一方で放射線治療医数の絶対的な不足は解消されることなく,限られた人的資源の下で,我々は時間の有効利用や作業効率の改善を迫られているのが現状である。
この問題に対する解決の一つとして,遠隔放射線治療システムの導入が挙げられる。最近のデータ転送技術の進歩により,インターネット接続環境下で高速かつ安全な通信が可能となり,遠隔放射線治療システムを構築することでどこでも当該施設の治療計画装置にアクセスでき,いつでも治療計画を作成することが可能になった。
今回我々は現在当院で開発中の遠隔放射線治療システムの現状について報告する。
Fig. 1
遠隔放射線治療システムについて
我々はまず,関連病院のうち現在出張医対応となっている施設における診療に有効利用できるシステムの開発を目指した。その基本仕様としては,
遠隔操作で治療計画が行える機能
照射野の照合などに使用する画像を転送する機能を有するシステムが必要不可欠と考え,
に関してはCMS社製CMS BB(Xioベースの遠隔放射線治療システム)を,
に関しては独自に開発したTherapisを用いた(Fig. 1)。いずれもセキュリティ確保のためVPN (Virtual Private
Network)接続を介し(Fig. 2),CMS BBではCITRIX社MetaFrameサーバーを利用することで,通信情報量の軽減とさらなる安全性の確保が可能になっている(Fig.
3)。
Fig. 2 VPN (virtual private network)について
Fig. 3 CMS BBの動作環境
Fig. 4 CMS BBの動作環境
Fig. 5 北海道大学におけるCMS BBの接続状況
このCMS BBのクライアント側(放射線治療医がユーザーとして使用する端末)に要求される動作環境はFig.
4に示すとおりであるが,通信環境としては我が国においては家庭ベースでも比較的容易に達成しうるものであり,ハードウェアに関してもモニタ画面の解像度を擬似表示モードで対応すれば市販されるWindowsマシンの中でも安価なエントリー・モデルで十分対応可能なレベルである。今回の開発に当たってはクライアントにDELL社製INSPIRON
500 m (Pentium M 1.3 GHz, 256 MB RAM, 20 GB Hard Disk)を使用したが,最大画面解像度1,024×768ピクセルであったため擬似表示モードで対応することで治療計画などの操作に特に支障をきたさなかった。
接続状況をFig. 5に示す。開発段階では院内(北海道大学病院)のDICOMネットワークには接続
Fig. 6
Fig. 7
Fig. 8 Therapis-Linacgraphy照合
せず,独立した通常のインターネット回線に接続する形をとった。上述したようにセキュリティは非常に高いレベルにあるものの,院内LANのシステム設定上,外部からアクセスする権限はいかなる部門においても許可されておらず止むを得ずこのような接続方法となっている。
実際の接続はインターネット・ブラウザ(今回はMicroSoft社製Internet Explorerを使用)よりサーバーのIPアドレスに直接アクセスする(Fig.
6)。接続後は通常のXioと同様の操作にてプランニングが可能である(Fig. 7)。すべての操作はほとんどストレスを感じない程度の速度である(線量計算はプランの内容や線量計算アルゴリズムなどにより時間がかかるが,これはサーバー側での処理速度に依存しており,クライアントの性能には左右されない)。
Therapisに関してはすでに当科から報告を行っているが,実際に関連病院におけるLiniacgraphyの照合および線量分布の確認に使用中である(Fig.
8)。
まとめ
当院における遠隔放射線治療システムの現状について報告した。放射線治療計画システムは現在試験運用の段階であるがその有用性が示唆された。また照射野照合あるいは線量分布確認のためのシステムはすでに軌道に乗っており,広大な北海道においては地域関連病院での放射線治療にきわめて有用である。