第四十六回北日本放射線腫瘍学研究会記録 2. 主題: 『遠隔放射線治療支援の現状と展望』

 

司会 山形大学医学部 放射線腫瘍学分野
和 田 仁

 

1)『遠隔放射線治療支援の現状と展望
       北日本放射線腫瘍学研究会関連施設からの
               「アンケート調査報告」』
山形大学医学部 放射線腫瘍学分野
和 田 仁
はじめに
 日本の放射線治療専門医不足は深刻で,非常勤医師による診療支援,あるいは放射線診断医の兼務を余儀なくされている施設が少なくない。放射線技師も人員不足のため,通常業務終了後に半ばボランティア的に放射線治療業務の品質管理業務を行っているのが現状である。
 一方,日常生活に不可欠なツールとなってきているブロードバンドネットワーク環境の進歩は,放射線画像診断や病理診断などで遠隔医療として実用化されている。最近では,放射線治療分野においても遠隔放射線治療計画支援が普及しつつある。
 そこで今回,第46回北日本放射線腫瘍学研究会において,『遠隔放射線治療支援の現状と展望』を主テーマとしてとりあげさせて頂き,北日本放射線腫瘍学研究会関連施設から,実態調査アンケートを行った。48施設(2005.10現在102施設中),50名から回答をいただいた。この場を借りて深謝いたします。

 

アンケート調査
 表にアンケート調査の抜粋を示した。

 院内で他部門における遠隔医療を行っている施設は,全体の半数近く(43%)あった(Q2)。アンケートにご回答頂いた先生方の90%が遠隔放射線治療計画の存在を知っており(Q3),また52%で遠隔放射線治療計画支援システムを導入あるいは導入を予定されていた(Q4)。遠隔放射線治療計画に期待することとして,治療計画の再検証や確認,治療難渋例のオンライン相談,QA & QCが多かった(Q6,





 
Q2 院内で他部門の遠隔診療支援を行っていますか ?
 
Q3 遠隔放射線治療計画システムをご存じですか ?



Q4 遠隔放射線治療計画支援システム導入を検討されていますか ?



Q5 遠隔放射線治療計画導入はまだ早い ?



Q6 行ってみたい(すでに行っている)
遠隔放射線治療計画支援



Q7 遠隔放射線治療計画支援システム導入に
あたっての問題点(複数選択可)



Q8 遠隔放射線治療支援センターがあったら
依頼したい業務は(複数選択可)

Q8)。遠隔放射線治療計画の課題および問題点としては,セキュリティ面や設備投資(初期費用,ランニングコストなど),診療責任の所在が不明確である点,を挙げる先生が半数程度と多かった。その他,以下のようなご意見を指摘いただいた。

『診療面』
・病状,希望,適応判断は患者さんを診察しないとわからない
・無診察による(緊急)照射の対応が許容されるか?
・他人の計画で患者さんにうまく説明できるか心配
・主治医との意思疎通が不安(カンファレンスが困難)
・他人任せではスケジュールに間に合うようできるか不安
・他部門の教育が対応できない

『運用面』
・診療報酬の分配,一件あたりの報酬値段は?
・院内との接続だと病院収入になってしまう
・病院の収益減
・病院内の常勤職員ポストが減る恐れあり
・遠隔支援の分業(在宅医師,医師以外)への業務外注は可能?
ま と め
 放射線治療装置の技術進歩や普及はめざましく,地域中核病院はもちろんのこと,個人病院においてすら高額な放射線治療装置を設置することが珍しいことではなくなってきた。しかし一方で,このような高度放射線治療機器の普及が,放射線治療医不足に拍車をかけることになっている。現場の人員不足を補うための解決策の一つとして,ネットワークを利用した遠隔放射線治療支援システムを有効に利用することが必要になってくると思われる。今回のアンケート調査でも,およそ半数の先生は遠隔支援に期待を寄せていることが伺われた。一方で,患者の診療面,セキュリティ,運用面などで,クリアすべき問題はまだまだ山積している。
 現時点では,放射線治療計画のみが遠隔で運用されているというのが主であり,放射線治療全体の遠隔支援はほとんど行われていない。しかし今後は,さまざまな形で遠隔放射線治療支援が行われると予測される。品質管理や業務効率向上のために,また医療事故を未然に防止するために,遠隔支援システム運用のルール作りや標準化の整備が必要になると思われる。