5) 札幌医科大学におけるTBI治療とその予後
○笠 原 理 子・小野寺 麻 希
山 品 将 祥・土 本 正
染 谷 正 則・永 倉 久 泰
大 内 敦・坂 田 耕 一
晴 山 雅 人
はじめに
札幌医科大学では1989年よりTBI (Total Body Irradiation)を開始している。
2005年9月現在までに59名にTBIを施行しており,うち経過観察された57名について追跡しその予後を調査した。
症 例
内訳は内科患者(19歳から61歳までの男性8名,女性5名)13名と小児科患者(1歳から16歳 男児29名,女児15名)44名であった。
移植の内訳は表1にしめした。リスク分類ではlow risk群からhigh risk群まで混在している。造血幹細胞移植の内訳は表2を参照されたい。
表1.
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AML
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ALL
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AUL/
MLL
|
CML
|
MDS
|
AA
|
ATL
|
NHL
|
合計
|
内 科
|
4
|
2
|
1
|
1
|
2
|
1
|
2
|
0
|
13
|
小児科
|
10
|
22
|
1
|
2
|
1
|
4
|
0
|
4
|
44
|
合 計
|
14
|
24
|
2
|
3
|
3
|
5
|
2
|
4
|
57
|
AML:急性骨髄性白血病 ALL:急性リンパ性白血病 AUL:分類不能の急性白血病 MLL:複数の性質を持つ急性白血病 CML:慢性骨髄性白血病 MDS:骨髄異形成症候群 AA:再生不良性貧血 ATL:成人T細胞性白血病 NHL:非ポジキンリンパ腫 |
表2. 造血幹細胞移植の内訳
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同種
|
自家
|
|
|
非血縁者
|
血縁者
|
|
|
|
通常の
骨髄移植
|
ミニ骨髄移植
|
通常の
骨髄移植
|
通常の末梢血幹細胞移植
|
通常の再臍帯血移植
|
骨髄移植
|
末梢血幹細胞移植
|
計
|
内科
|
7
|
1
|
3
|
1
|
1
|
0
|
0
|
13
|
小児科
|
15
|
0
|
15
|
4
|
8
|
1
|
1
|
44
|
計
|
22
|
1
|
18
|
5
|
9
|
1
|
1
|
57
|
TBIの実際
当院ではTBI開始以来,骨髄移植のほぼ全例に前処置としてTBIが施行されている。
標準的な照射法は1日2回照射,1回線量2Gy,総線量12Gy/6Fr/3日間である。
バリアントはあるが,肺の線量率は4.9から6.7cGy/minに抑えている。
GVHDの発生率
急性期GVHDの発生率は表3にまとめている。
小児科の1例がGVHDを死因としている。晩期のGVHDは発生していない。
一方,移植の生着は57例(96.5%)に確認されている。
表3. 急性期GVHDの発生率
|
0度
|
1度
|
2度
|
3度
|
4度
|
内科
|
6
(46.2%)
|
5
(38.5%)
|
0
|
2
(15.4%)
|
0
|
小児科
|
15
(34.1%)
|
11
(25.0%)
|
12
(27.3%)
|
5
(11.4%)
|
1
(2.3%)
|
死 因
死因の内訳は表4にまとめた。死亡までの全例99日以内であった。
原疾患の悪化による腫瘍死がほとんどであるが,GVHDが1例,間質性肺炎が1例ある。内科,小児科別にkaplan-Meier法による粗生存曲線と無再発生存曲線を呈示する。
表4. 死因の内訳
死亡の移植後日数は全例99日以内だった。
内科
移植後3〜23日
死亡数6名(46.2%) |
腫瘍死 6例
|
小児科
移植後1〜55日
死亡数19名(43.2%) |
腫瘍死 |
11例 |
|
感染死 |
4例 |
脳血管障害 |
2例 |
|
GVHD |
1例 |
間質性肺炎 |
1例 |
|
|
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内科の粗生存曲線
(Kaplan-Meier法による)
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内科の無再発生存曲線
(Kaplan-Meier法による)
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|
|
内科の無再発生存曲線
(Kaplan-Meier法による)
|
内科の無再発生存曲線
(Kaplan-Meier法による)
|
|
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有害反応
経過で認められた有害反応は表5にまとめた。
因果関係は不明であるが,TBIとBMT後10年で2次癌が疑われるglioblastomaの発症があった。この例は手術と放射線治療で治癒し現在も生存している。
表5. 有害反応(主に小児)
・低身長(-2SD以下) |
2例 |
・両側大腿骨頭壊死 |
1例 |
・サイトメガロウイルス網膜炎 |
1例 |
・精神運動発達遅延(cGVHD+多発性脳梗塞後) |
1例 |
・頭蓋内出血 |
1例 |
・2次(Glioblastoma)TBI+BMT後 10年後発症 |
1例 |
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まとめ
これまでの実績で移植幹細胞の生着がよく,重篤な有害反応も少ないと当院の内科小児科の血液疾患担当医から信頼が厚く,当院ではTBIが移植の全処置としてほぼ全例に施行されている。
造血幹細胞移植の適応や方法は内科小児科の血液専門医の判断にゆだねられており,TBIの適応についても例外ではない。長期生存者の増加とともに治療成績の判定にはQOLも考慮する必要がでてきている。長期経過観察を行ってデーターを集積し,より良い放射線治療を提供するよう努めるべきである。