第四十五回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題: 『全身照射の照射法と合併症』,2-4
4) 北海道大学病院放射線科における全身照射
(Total Body Irradiation)の実際
北海道大学医学部 放射線科
藤 野 賢 治・鈴 木 恵士郎

北海道大学病院 放射線部
藤 田 勝 久・斎 藤 英 一
勝 浦 秀 則・山 崎 理 衣
堀 田 賢 治・山 口   仰
堀 江 達 則
1. 背 景

 骨髄移植は,骨髄バンク等の推進もあり悪性腫瘍の治療方法の一つとして広く行われるようになってきた。北大病院でも無菌病室の整備とともに年間数十例の骨髄移植が,急性白血病,慢性白血病,骨髄性白血病,再生不良性貧血,悪性リンパ腫,神経芽細胞腫等の患者に対して行われている。全身照射(Total body Irradiation,以下TBIと称する。)は,骨髄移植に先立って全身の悪性細胞や宿主の骨髄幹細胞を根絶し,免疫力を低下させる目的で化学療法と併用して行われる照射方法である。当院でも骨髄移植患者の半数以上がTBIを行っており,年間50例程度の患者に行っている。(Figure 1)
Fig. 1
 TBIは,身体の腫瘍部分に限定して照射する外照射とは違って治療患者の全身を照射する必要がある。従って,治療装置の寝台で照射するには照射野が不足するため距離を離したlong SSD法が取られることが多い。当院においても初期はストレッチャーを用いてlong SSD法で行った。しかし,この方法は体位の再現性,肺等の遮蔽blockの固定,線量の均等性などの問題があった。

Fig. 2
このため,近年当院では移動型の寝台を用いてTBIの照射を行ってきた。移動寝台を用いたTBIは,患者を仰臥位の状態で照射しながら移動し全身を照射する。(Figure 2)

2. 全身照射用移動寝台

 全身照射用移動寝台(以下「TBI寝台」という。)は,治療寝台とは別に独立した構造で照射時に移動して照射位置に設置する。TBI寝台は,治療寝台本体,コントロールユニット,REMOTE操作器,LOCAL操作器,ペンダント,上部block置き台(A-P照射用),下部block置き台(P-A照射用)からなる。TBI寝台の操作は,治療室内ではLOCAL操作器及びペンダントを用いて行い,治療時は操作室のREMOTE操作器を用いて操作する。また,コントロールユニットはLINAC制御器と接続されており,寝台の停止あるいはBeam停止の際は同時に停止する機構になっている。
 寝台は,前後方向,上下の移動ができ,患者は仰臥位の状態でガントリーを回転させてA-P方向,P-A方向の照射が可能である。寝台の移動範囲は,前後方向0〜2,200mm,上下方向-510〜300mm(isocenterに対して),速度範囲180〜3,000mm/min,移動速度の設定区間は3区間である。寝台およびブロック置き台はアクリル製である。
 移動速度と線量率の関係は以下の式で表すことが出来る。


 
但し,出力は出力線量,Xは治療装置の照射線量率,Yは寝台の移動速度,TPRは移動照射のTPRである。指示線量は12Gy/6Frでは200cGyとなる。

3. 当院での照射法の特長

固定照射と違い,移動寝台専用の出力,TPR等,基礎dataの測定が必要である。
移動速度を変えることによって,体厚の補正が可能である。
照射体位は仰臥位で行えるため,患者は楽な姿勢で治療可能である。
肺や水晶体,その他の遮蔽が,再現性良くかつ正確に容易に可能である。場合によってはCT-planningも可能である。
 
治療時間が,床置き型の装置に比較して短い。
リニアックグラフィーを使用して,block等の確認が行える。



4. 当院でのTBI照射

線量
 
標準治療 12.0Gy/6Fr/3days(朝,夕の2Fr/day,間隔は6時間以上)
ミニ移植 4Gy/2Fr/1day or 2Gy/1Fr/1day
特殊治療 13.2Gy/11Fr/4days(小児ALLでPh1+,再発症例の場合,朝,昼,夕の3Fr/day,間隔は3.5時間以上)
照射方法
 
寝台移動法を採用A-P方向から片道0.5Gy/の一往復+P-A方向から片道0.5Gy/の一往復の合計二往復で2Gyを照射。
線量率は10〜15cGy/minute。
TBIの副作用
 
早期: 肺線維症(TBI後3ケ月以内の死因で最重要。特に10週後で最多。サイトメガロウイルスと放射線が関与と言われている。)
晩期: 白内障,内分泌障害,不妊,成長障害(IQの低下,低身長)
肺のブロック
 
早期障害である肺線維症の低減を目的とする。
方法としては,体積が作用する肺においては化学放射線療法では全肺野に8Gy以上照射すると肺線維症になるというdataに基づく。これに従い,鉛2/3価層(約8mm)の遮蔽を行う。TBI12Gyのうち,8Gyだけ照射する。
目のブロック
 
晩期障害である白内障発生risk低減のために水晶体への照射低減を目的とする。
水晶体の耐用線量12Gyを考慮して,その半分をcutする。当院ではA-P方向からの3Gyをcutしている。P-A方向からは頭の厚みで3Gy分cutしている。
腎臓のブロック
 
腎機能が著しく低下している患者,または過去に腎臓への照射歴のある患者には人造のblockをしている。
60mm以上の鉛を,用いてblockする。CT PLANによってROIを設定し,体表面上に置いてblockする。
卵巣のブロック
 
将来,出産を希望される患者のために行う。小児の場合には,凍結保存が望ましい。腎臓の場合と同様に,60mm以上の鉛を,用いてブロックする。CT PLANによってROIを設定し,体表面上に置いてblockする。
その他のblockについては過去に外照射の既往がある患者に腎臓や卵巣と同様の方法でblockが必要になることがある。当院での経験例としては,視交叉,副鼻腔のblock経験がある。
 
 


参 考 文 献
北海道放射線治療研究会雑誌第11号2001.09『TBI専用寝台を用いた全身照射の線量測定』小田まことら