第四十五回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題: 『全身照射の照射法と合併症』,2-3
3) 弘前大学での全身照射の照射法と合併症

弘前大学医学部 放射線科
近 藤 英 宏・阿 部 由 直
青 木 昌 彦・畑 山 佳 臣
川 口 英 夫
はじめに

 全身照射は主に白血病に対し,全身に散布された腫瘍細胞の死滅と転移の抑制のため造血幹細胞移植における前処置として行われ,生存率再発率に大きく寄与している。当院での過去5年間における全身照射の実績について検討した。

対象および方法

 対象: 過去5年間当院での全身照射の件数は,2000年4件,01年5件,02年5件,03年5件,04年3件,合計22例,一年の平均は4.4例であった。平均年齢は11.5歳(4ケ月−48歳),中央値6.6歳,男女比は13対9であった。観察期間の平均は38.7ケ月(10から67ケ月),1名は経過観察から外れた。年齢別では18歳未満19例,18歳以上3例,疾患はALL(high risk)13例,AML5例,CML2例,JMML1例,MDS1例であった。適応はhigh risk ALLの第一寛解期か再発早期例がほとんどで,AMLでは標準リスク,高リスク群の第1寛解期もしくは第1再発期以降であった。
 方法:分割法は,一回線量2Gy,一日二回照射6時間間隔(朝・夕),分割回数は6回,総線量12Gy・計3日間で,線量率は10cGy/min以下,主に9.8cGy/minであった。またboostは行っていない。縦隔・睾丸へのboostは行わなかった。
 全身照射の照射法は当施設では長SAD法を用いた。患者を仰臥位にし頭頸部にはモールドケアを用い,背部には長時間臥位を保つためにスポンジシートを敷いた。患者毎に体厚のばらつき補正と肺線量の調節のため補償フィルターをアクリルファントムを用いて作成した。また白内障・肺線維症を予防するため低融点鉛を用いて作製した。照射ごとにライナックグラフィーを参考にしてブロックの位置を確認した。
 治療計画に要する時間は体厚測定に1時間,線量測定に4時間,補償フィルター作製に2時間,鉛ブロック作製に2時間の計約9時間,そして照射毎にライナックグラフィーにかかる時間は約30分であった。


結 果
 
 1 有害事象
 急性期障害: 全22例を対象とした。全体として18%に肺線維症が認められた。18歳未満の症例では21%(19例中4例),18歳以上の症例では0%((3例中0例)致死的な肺線維症は認められなかった。肝障害は軽度の肝機能障害が全体で36%(8例)が見られたが,肝静脈閉塞症(veno-occlusive disease: VOD)は認めず,致死的な肝障害は見られなかった。
 急性GVHD (Graft Versus Host Disease: 移植片対宿主病)は,発症率は91%(20例)であった。内3例が死亡した。口腔内乾燥・吐き気等の宿酔症状・脱毛等の急性期障害は紹介科でのICTU管理であり把握できなかった。
 慢性期障害: 経過観察可能な21例を対象とした。口腔内乾燥症19%(4例),甲状腺機能低下症19%(4例),性腺機能低下19%(4例),慢性GVHD14%(3例),白質脳症5%(1例),神経症状・ADL低下5%(1例),慢性腎不全5%(1例),低身長5%(1例),白内障5%(1例)であった。しかし慢性GVHD,白質脳症,慢性腎不全,性腺機能低下,低身長等は化学療法が主因と思われた。


 2 経 過
 観察可能な21例を対象とした無病生存率は疾患別ではALLは61%(13例中8例),AMLは60%(5例中3例),その他33%(3例中1例)であった。全体としての生存率は57%(11例)であった。死因としては,腫瘍死5例(内再発死が2例),急性GVHD3例,慢性GVHD1例であった。年齢別では18歳未満の死亡率は42%(19例中8例)であった。
考 察

 当施設の過去5年間の全身照射は4.4例で,またさらに減少傾向であり他施設と大きく違うところであり,小児科・血液腫瘍科の啓蒙が必要である。しかし多大な時間と手間を要する全身照射件数の増加は,近年の固形癌患者の増加や将来的な定位的放射線治療・IMRTの件数の増加を考慮すると,施設の拡充と放射線治療専任技師の増員がなければ困難であろう。
 長SAD法が当該施設のみであったことは意外であり,特に札幌医科大における創意・技巧に富んだ照射法には驚愕であった。しかし当該施設の有害事象として間質性肺炎の発生率は18%,慢性GVHD14%であり,これは放射線治療計画ガイドライン・2004や緒家の報告とほぼ同等であった。また無病生存率もALLにおいても61%であり他施設とも遜色ないと思われた。
まとめ

 当該施設の過去5年間の全身照射法と合併症について検討した。当施設では長SAD法を用いているが治療成績・有害事象ともに他施設とも遜色ないと思われ,なおかつ簡便・再現性に優れている。