第四十五回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題: 『全身照射の照射法と合併症』,2-2
2) 札幌医科大学における全身照射法

札幌医大附属病院 放射線部
小笠原 華 代・清水目 一 成
長 瀬 大 輝・佐 藤 崇 史
才 川 恒 彦

札幌医大附属病院 放射線管理室
舘 岡 邦 彦

札幌医科大学 放射線医学講座
大 内   敦・笠 原 理 子
土 本   正・染 谷 正 則
坂 田 耕 一・晴 山 雅 人
1. はじめに

 骨髄移植(Bone Marrow Transplantation: 以下,BMT)は白血病の治療法として広く行われている。その前治療として全身照射(Total Body Irradiation: 以下,TBI)が行われている。TBIは腫瘍細胞の根絶および移植変宿主反応(GVHD)に代表される免疫反応の抑制を目的とする。腫瘍細胞は細胞免疫系と同様な循環を行うため,TBIにおける標的体積は体表面の皮膚を含む全身となる。しかしながら,全身の体厚にはばらつきがあり,線量を均一に投与することは難しい。さらに,TBIによる合併症も問題とされる。特に間質性肺炎は肺に対する線量および線量率に強く依存することが報告されている1)
今報告は現状における代表的な照射法と線量補正法を示すとともに,当院における照射法および問題点について報告する。


Fig.1. TBIの照射法
2. TBIの照射法

 TBIの照射法は大きく分け前後対向および左右対向照射の2つで行われる。さらに広い照射野サイズを確保するために治療寝台移動法やLongSSD法で照射される2)(Fig.1)。治療寝台移動法はガントリ角度を0度に固定し,仰臥位にて患者を寝かせた治療寝台が等速度移動することにより全身を照射する方法である。LongSSD法は水平ビームを用いSSDを長くすることにより広い照射野を作成し全身への照射を可能としている。いずれの照射法も体の各部における厚みのばらつきなどにより投与線量が不均等になる。さらに,X線ビーム入射面における皮膚線量が低下することになる。
 Khan3)らはLongSSD法(左右対向2門照射)を用い体の各部の体厚を補償するフィルタを作成し線量の均一化および肺線量を低下する方法を報告している。さらに,X線ビームと患者間にアクリルをおくことにより皮膚線量の低下を解決している(Fig.2)。また,Agent4)らはKhanらと同様にLong SSD法(左右対向2門照射)を用い,患者が仰臥位にて寝ることが可能なアクリル製の箱を作成し体厚の不均等な領域に対してボーラスを付加することで線量の均一化を報告している。さらに,肺線量に対してはアクリルのボーラスを付加することで線量および線量率を低下させている(Fig.3)。
 近年は左右対向2門照射が多く行われているが,肺線量を低下する方法はとしてKhan3)らと異なり両上腕を肺組織と平行に保持することによりブロックとして用い線量および線量率を低下している5)

Fig. 2. Khanらによる補償フィルター
Fig.3. Agentらによるポーラスを付加した照射法(AからFは線量評価点)


3. 札幌医科大学における照射法

 当院における照射法はLongSSD法を用いている。実際の照射は上半身と下半身に分割し前後対向2門の計4門のMultiple unparallel beamで行っている(Fig.4)。上半身照射の照射はガントリ角度を0度およびSSDは約200cmで行っている。下半身照射はガントリ角度22.6度とSSD約220cmおよび患者体表面における線量強度の補償のための補償フィルタを用いている。
 投与線量を均一化する方法は,Agent4)らと同様に患者が仰臥位にて寝ることが可能なアクリル製のTBI専用寝台(50cm×35cm×200cm)を作成し,体厚の不均等な領域に対してボーラス(高分子ゲル,密度1.0)を付加している。肺線量に関してはPort-Grapy上にて遮蔽すべき肺組織をトリミングし鉛にて肺フィルタを作成し付加している。また,上半身における前後方向の照射では1cmφ×5cm鉛にて水晶体をブロックしている(Fig.5)。

fig.4. 札幌医科大学におけるTBI照射法


Fig. 5. TBI専用寝台(50cm×35cm×200cm)
3−1) 線量評価法

 一般的に,TBIにおける線量評価は水等価ファントムなどを用いて評価が行われている1−3)。評価点に関しては厳密な定義はされていないが,LongSSD法および前後,左右対向2門照射は臍部における体厚中心点を基準点とされている2)。同様に,当院における線量評価は水等価ファントムを用いて行っている。ただし,評価点はMultiple unparallel beamを用いているため臍部における体厚中心点で評価した場合,照射野辺縁となる場合があり線量の不確定度の増加となる。従って,上半身照射は両肺の重心点を含む横断面と縦断面の交さする線上における体厚中心点,下半身は照射野中心における体厚の中心点としている。さらに,線量均一性の確認のために,上半身照射は基準点より頭尾方向±15cmの2点を上半身参考点,下半身照射は同様に±10cmおよび15cmの計4点を下半身参考点として線量評価を行っている(Fig.6)。
 また,肺線量に関してはICRU Report445)に従い肺の密度補正を考慮し評価している。Table 1に各評価点における投与線量との相違を示す。


Fig. 6.

Table 1. 線量評価点および参考点にお
  ける予定線量との相違
上半身基準点
<±1%
上半身基準点
<±1%
肺基準点
<±1%
下半身基準点
<±1.5%
下半身基準点
<±2%


4. おわりに

 TBIの目的である体表面の皮膚を含む全身への均一な線量投与である。しかしながら,これを達成するためには全身の体厚のばらつきが問題となる。さらに,肺や骨などは他の臓器と比較して密度が大きく異なる。したがって,これらの領域における線量評価には問題があると考えられる。今回示した当院の方法はそれらを補正する方法の一つである。しかしながら肺線量に評価は十分とはいえない5)。今回は割愛したが,我々は全身のCTを撮影し全身の線量評価を試みている。


参 考 文 献

1) B. Murat, O. Kaan, D. Bahar, et al.,“Effect of dose -rate and lung dose in total body irradiation on interstitial pneumonitis after bone marrow transplantation.”Tohoku J. Exp. Med. 202, 255-263, 2004.
2) U. Quast, H. Sack, et al.,“Whole Body Radiotherapy.”DGMP-Report?No.18: 2003.
3) FM. Khan, JF. Williamson, W. Sewchand, et al.,“Basic data for dosage calculation and compensation.”Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 6, 745-751, 1980.
4) H. Aget, J. VanDyk, and PM. Leung. “Utilization of a high energy photon beam for whole body irradiation.”Radiology 123, 747, 1977.
5) KH. Susanta, RK. Das, T. Bruce, and H. Douglas.“CT-based analysis of dose homogeneity in total body irradiation using lateral beam.”J. Applied?Clinical Med. Phys. 5, 71-79, 2004.
6) ICRU?Report?44.“Tissue substitutes in radiation dosimetry and measurement.”Maryland, 1989.