3) 山形市立病院済生館における呼吸同期下体幹部定位放射線治療

山形大学医学部 放射線科
和 田   仁 ・細 矢 貴 亮
山形市立病院済生館 放射線科
高 橋 ちあき・皆 川 靖 子
衡 田   文・滝 口   栄

はじめに
肺や肝の小腫瘍に対する体幹部定位放射線治療(以下SRT)は,頭蓋内病変と同様に優れた局所効果が報告されている。しかし照射内容は各施設様々で,標準となる治療法は未だ確立されていないのが現状である。放射線治療システムの更新に伴い当院でもSRTが可能となり,2002年12月〜2005年6月に肺26病巣 (原発性肺癌24,転移性肺癌2),肝17病巣 (原発性肝癌11,転移性肝癌6)に対してSRTを施行した。本稿ではこれまで当院で行ってきたSRTの技術的な工夫および問題点について報告する。
表1 体幹部定位放射線治療計画手順
【治療依頼】
 
1.
照射依頼→患者診察,診断画像確認
 
2.
腫瘍あるいは横隔膜の動き確認
X線シミュレータ
 
3.
照射適否決定と文書同意取得
【治療計画前】
 
1.
必要に応じ,腫瘍近傍に金マーカー 1個留置
肺はCT下,肝は超音波下で挿入
 
2.
浅呼気停止の練習
X線シミュレータ
【治療計画当日】
 
1.
体位固定具作成
X線シミュレータ
 
2.
呼吸同期装置で呼吸曲線 センサー動作確認
ライナック寝台
 
3.
治療計画CT撮像,体表マーキング(浅呼気停止下)
診断用MDCT (Light Speed Plus: GE)
 
4.
3次元放射線治療計画(Pinnacle 3: 日立メディコ)
 
5.
再セットアップでアイソセンターマーキング
X線シミュレータで照射位置照合用正側X線写真撮像
6.
許容ガントリー角,カウチ角確認
ライナック寝台

当院でのSRT手順: 工夫と問題点

当院のSRTにおける治療計画手順を表1に示した。I. 体幹部固定,II. 呼吸同期装置,III. 治療計画CT,IV. 照射野照合と金マーカー,V. 放射線治療,について当院の工夫点および現時点での問題点を以下に列記する。
I. 体幹部固定(図1)
【工夫】
 
上半身の皮膚を充分露出し,全例にvacuum pillowを作成している。長時間同一姿勢を安楽に保つことに役立っている。
両手挙上が必要な場合,arm supportを使用。
アイソセンター,その頭尾側の体表皮膚,両腕など最低8〜11カ所に皮膚マーキング。
原則として呼吸抑制用の腹壁圧迫は行っていない。呼吸同期装置が使用不可だった一例で腹帯を使用し横隔膜の動きを1cm以下になることを透視下で確認し治療した。

【問題点】
 
ただ「箱」の中に身体が入っているだけである。
 
照射中に患者が動くと再セットアップが必要になる。治療時間がさらに長くなり,患者の苦痛増加や照射精度低下などの懸念がある。

II. 呼吸同期装置
呼吸同期システムは安西メディカル製を導入している。当院における呼吸同期の適応は,安静時呼吸で腫瘍がおよそ1 cm以上移動する症例であり,X線シミュレーターによる視認を行っている。肝は11病巣(65%),肺は5病巣(19%)で呼吸同期装置を用いた。
【工夫】
 
呼吸(腹壁の動き)を感知するセンサーが2種類あり,事前確認し感度の高い方を採用している。
 
呼吸同期照射法の最大の利点は,照射容積を50% 前後減少できる点である。当院では諸家の報告を踏まえ,安静呼気相30% 領域で照射することを原則としている。


図1

【問題点】
操作面
 
実際の呼吸曲線が予測波型とずれたり,spike波が出ると照射停止してしまう(図2)。
 
呼吸波形が一旦ずれると修正する手間がかかる。呼吸同期無しの時より照射時間が数倍かかる。
 
呼吸同期装置を放射線治療室から移動できないため,X線シミュレータ下での病巣の動きと呼吸波形とのずれの検証が不可能。
臨床面
 
呼吸感知センサーがガントリーと物理的に干渉する(図3)。
 
呼吸同期照射の有無で,局所制御,合併症の程度及び頻度に差がでるのか明確でない。
 
2005年6月時点で放射線治療への呼吸同期装置使用が薬事未承認である。ちなみに,当院を含め既納入装置に関しては行政への届け出により使用可能となっている。
III. 治療計画CT
【工夫】
 
CT撮像前に仮の体表マーキングを行い,撮像後に改めて位置のずれがないか再確認している。
 
Gross tumor volumeが上肺野や背側の場合,両腕挙上させている。
 
CTは5 mm厚,5 mm幅スライスで,Gross tumor volume中心に頭尾側30〜50 cm程度を範囲。肺は全肺野,肝は全肝撮像を原則。
 
安静時呼気,自発呼吸停止下で撮像している。
【問題点】
 
ライナックと治療計画CTの寝台が別であり,撮像後に一旦固定具から身体が離れる必要がある。照射位置再現性の点で不安。
 
前もって安静呼気位での呼吸停止の練習は充分行うが,実際に撮像したCT像が正確な安静呼気相かどうかわからず,患者を信じるしかない。2005年4月にCTを呼吸同期対応にバージョンアップした(未使用未検証)。
 
CT寝台自体のたわみ,ずれ。当院では診断CT兼用で薄い平板をただ載せているだけ。治療計画専用寝台を用いるべきなのだが。
IV. 照射野照合と金マーカー
【工夫】
 
照射直前に毎回正側2方向ライナックグラフィー(LG)を撮像。腫瘍自体あるいは事前に挿入した体内金マーカーのX線シミュレーター写真,または放射線治療計画装置で作成した再構成画像(DRR)と照合し,X,Y, Z座標3方向でずれが5 mm以内の誤差になる事を視認 位置修正している。
 
金マーカーは肝では原則挿入。挿入部が腫瘍内だとアーチファクトでCT上GTV描出困難となるので,腫瘍から数cm離れた肝内に超音波ガイド下で留置。肺では3例のみに施行した。

図2

図3 呼吸同期センサーによるガントリー制限
【問題点】
 
肺の症例は肺気腫,肺機能低下例が多く,経皮的金マーカー挿入は気胸の恐れがある。但し,留置しないと腫瘍確認や位置照合が困難な事がある。
 
LGでの金マーカー同定率が高くない。肝ではマーカー留置11例(照射回数36回)中,視認不能が正面 14回(39%),側面16回(44%)もあった。肺ではマーカー留置3例(照射回数9回)のうちマーカー視認不能は0回であった。
 
金マーカーも腫瘍自体もLGで確認できない場合は,周囲組織の解剖学的照合で間接的に確認し「エイヤッ !」と照射するしかない。
 
治療中の位置確認は,LG撮像後は時間的制約もあり皮膚面での確認しか行っていない。
V. 放射線治療
【工夫】
 
3次元放射線治療計画装置を用いて,non-coplanar固定7-9門の3次元原体照射を計画,原則としてPlanning target volume中心に総線量45 Gy/3回/3日間を処方している。
 
X線エネルギーは,肺では4 MV,肝では10 MVを用いている。線量計算は肺などの不均質補正ありとしている。
 
治療計画に1日,実際の照射は翌日以降に連続3日間を原則としている。
【問題点】
総治療時間は毎照射毎に約45-90分で,特に4 MV+呼吸同期(肺の中下葉病変へのSRT)で時間がかかるのが,患者さんにとって最も負担となっている。ただ,治療装置の制約のため改善の余地がほとんどないのが当院の現状である。

臨床経過

現時点での奏功率は,肺は24病巣(92.3%)で,肝は16病巣(94.1%)となっている。観察期間1-30ケ月(中央値13ケ月)で,肺の2例にCT上で腫瘍陰影再増大を認めており局所再発を疑っている。
当院SRT後の晩期障害は過去の報告とほぼ同様に大半が軽微なものであった。左肺下葉の直腸癌肺転移巣に呼吸同期併用で45 Gy/3 fx照射し数ケ月後に出血性胃潰瘍を発症した一例を経験したが,保存的治療で軽快しており2005年6月時点で無病生存中である。

ま と め

ざっと思いつくままに文書化したため検証不十分な点や抽出項目漏れなどまだまだありそうな気がするが,主なものは一通り列記したと思う。当院でSRTを行った全症例に対して,毎回細心の注意を払いつつ照射をしてきたつもりである。また技術的課題が出てくるたびにコメディカルと共に検討 改善を重ねてきた。とは言うものの,正直言ってSRT後数ケ月のCT像で腫瘍が縮小してきて初めて「ちゃんと照射されていた ! よかった !」とホッと一息つく,という状況は今も変わりない。症例を重ねれば重ねるほどその感覚は少なくなってきているが(そう思う事もまた要注意か…?)。
これからSRT導入を検討されている施設の方には,SRTの優れた治療成績あるいは保険適応になったという「おいしい面」ばかりに目を奪われず,まずは自施設における装置 技術上の制限やコメディカルの意欲などをきちんと把握 検証していただければと思う。その上で,SRT業務開始の検討,あるいは開始後も慎重なSRT適応の評価をされることをお薦めする。これまでもSRTの領域で著名な先生方から何度も警鐘されていることではあるけれど,自分自身への反省およびこれからの戒めも兼ねて…。
最後に。約3年間,山形市立病院済生館で試行錯誤しながら行ってきた体幹部定位放射線治療について見直し及び反省する機会を与えてくださった北日本放射線腫瘍学研究会,特に主題提供いただいた新潟大学笹井啓資教授にこの場を借りて深謝申し上げます。