1) 肺定位放射線治療における治療計画上の問題点

   
札幌医科大学医学部 放射線医学講座
舘 岡 邦 彦・大 内   敦
永 倉 久 康・染 谷 正 則
坂 田 耕 一・晴 山 雅 人

1. はじめに

肺定位放射線治療には多方向からのX線ビームを正確に病巣に照射し,さらに正確な放射線量を投与する高精度放射線治療技術が必要である。これにより,従来の放射線治療よりも一度に大線量を照射することが可能とされる。しかし,この照射技術を達成するためには下記に示す放射線治療の全過程における不確定度を最小にし,治療計画にフィードバックする必要がある。
2. 放射線治療計画過程
放射線治療計画は,
 @ 患者体位決定と固定
 A 治療計画画像の収集
 B 標的容積と決定臓器の抽出
 C 照射法の決定
 D 線量計算および線量分布検証
 E 照射
などが時系列的に行われる。
これらの過程は従来と同じであるが,高精度放射線治療においては各々の過程に対する不確定度を客観化し,さらに最小にしたうえで治療計画にフィードバックすることがはじまりと考えられる。フィードバックするにはICRU report 62に記載されている以下のtarget定義を理解することが重要である。
1)
GTV (Gross Tumor Volume, 肉眼的腫瘍体積): 画像診断で明らかに腫瘍が存在すると判断される領域。speculationなど腫瘍浸潤の疑われる部分も画像で認識される限りGTVに含められる。
2)
CTV (Clinical Target Volume, 臨床標的体積): GTVに対し,画像で認識できない微小浸潤部分を加えた部分である。
3)
ITV (Internal Target Volume, 内的標的体積): CTVに臓器移動に対するmargin (Internal Margin: IM) を加えた標的体積である。
4)
PTV (Planning Target Volume, 計画標的体積): PTVはITVに対して患者およびビームの位置合わせに関する不正確度を表すSetup Margin (SM) を考慮した領域であり,SMをITVに三次元的に加えることで決定される。
次に,実際に行う場合の重要な点を述べる。
第一に放射線治療の起点となる患者体位の決定と固定である。時系列には治療計画,実際の照射,さらに治療継続期間内における再現性の維持が位置精度の点で求められる。つまり,患者体位の決定と固定,引き続く画像収集(CT画像取得など),そして実際の照射と言う3つの異なった場でこれらの相違が存在する。
肺定位放射線治療における固定精度は上記の3つの場における精度を客観化する必要がある。当施設では固定具としてボディフレームまたは吸引固定具を用いている。実際の固定精度の検証はRTPs上にてアイソセンターを基準点とし正側2方向のDRRを作成する。次に,治療前に正側2方向のPort-Grapyを撮影し独自プログラムを用い比較検証を行う (Table 1)。
治療前での検証においてアイソセンターでの移動が必要の場合は,再度移動後に撮影(1, 3, 4回目)し実際の治療を行う。さらに治療終了後にPort-Grapyを撮影する。従って,治療前における検証が位置の再現性の検証,治療前(移動後)と治療後の検証が固定精度となる。この例での固定精度は約2 mm以内となる。
第二に画像情報収集である。肺定位放射線治療における基本画像はCT画像が用いられる。これは幾何学的な位置情報の正確性およびCT値と体内電子密度の相関性より線量計算が容易に行うことができるからである。
Table 1. 肺定位放射線治療(4回治療)における固定精度の例
治療前
X
Y
Z
Vector
1回目
2回目
3回目
4回目
 2.22
 1.02
 1.32
 3.20
 2.22
 1.05
 1.22
 2.50
−1.03
−0.35
−1.50
−1.52
3.30
1.51
2.34
4.34
治療前
X
Y
Z
Vector
1回目
2回目
3回目
4回目
 1.02
 1.02
 0.68
 1.10
0.89
1.05
0.21
0.74
−0.80
−0.35
−0.87
 0.20
1.57
1.51
1.12
1.34
治療前
X
Y
Z
Vector
1回目
2回目
3回目
4回目

 0.60
 0.12
 0.30
−1.20
−0.40
 1.22
 0.60
 0.21
−0.20
−0.56
−0.23
 0.22
0.75
1.35
0.71
1.24
DRR画像とPort-Grapyのアイソセンター の変位量(mm)
Xは左右,Yは頭尾,Zは背腹方向の変位量,Vectorはベクトル量

しかし,肺腫瘍は呼吸性移動を伴い,臓器移動に対するIMを加えたITVの撮像方法が必要となる。ITVの撮像法は肺定位放射線治療方法と連動する必要がある。現在では,自由呼吸(完全自由呼吸または腹部抑制による抑制呼吸)法,呼吸同期法,呼吸停止法と追随法により行われている。当施設では自由呼吸法で行っている。この場合,すべての呼吸位相における腫瘍の動きに対する画像を収集しITVを決定する。従って,得られた画像にはintra-organ motion (治療中の動き)が,すでに画像上に含まれることになる。しかし,interfraction (毎回の治療の間の変位−統計値より推定値として設定する。)は含まれていない。
従って,IMはintra-organ motionとinterfractionを含めることになる。当施設における画像収集は,MDCTを用い1スライスを0.5秒で撮像をする。肺腫瘍の変位範囲において任意の撮影スライス面を複数回(4から6回)撮影し任意の呼吸相における画像を収集している(Fig. 1)。
これにより肺腫瘍のintra-organ motionを複数の画像より決定している。ただし,interfractionについては治療期間中でCT画像を収集した上で検討するが,ほとんどの場合は考慮していない。
第三に標的容積と決定臓器の抽出である。RTPs上のCT画像上に体輪郭,標的(腫瘍),重要臓器を抽出−決定する。


Fig. 1
完全自由呼吸法によるITVの撮影方法
完全自由呼吸法を用い肺腫瘍の変位範囲において肺腫瘍の変位範囲において任意の撮影スライス面を複数回(4から6回)撮影し任意の呼吸相における画像を収集する。上図は同一撮影スライス面における呼吸相の異なる4枚のCT画像である。
丸内に腫瘍がある。

ただし,一部のRTPsは体輪郭を必要としない。必要な場合,体輪郭は線量計算の基本となる。次に照射すべきと考える体積(標的)を抽出するが,これらは原発巣と所属リンパ節腫瘍あるいは領域,Sub-clinicalな進展範囲などである。さらに,標的周囲の “照射したくない”臓器である重要臓器の抽出−決定を行う。
ただし,これらの決定は実際に用いているRTPs, CRTや画像表示条件で各臓器の認識能が異なる。また,決定者である放射線腫瘍医でも異なることに注意が必要である。
Fig. 2は同一CT画像を用いた場合の4施設における腫瘍を抽出した場合の相違を示す。各施設において最大で3 mm程度の相違を示している。この結果は同一施設間であっても約3 mmの不確定度が存在していると考えられる。
以上の不確定度をPTVのマージンとして加える必要がある。さらに,加速器自体の精度を含める必要がある。たとえば,加速器の放射線ビームの物理現象をRTPs上で再現可能にするためには,RTPs上でビームモデリングにより検証が行われる。これには,RTPs上で多くの物理パラメータを入力した上で加速器の動作条件,動作限界や物理現象が同一となるように設定を行う。しかし,任意の加速器におけるエネルギー,ガントリー,コリメータの動作条件や可動範囲,移動精度,照射野形状の作成(コリメータと単一ブロックや,Multi-Leaf Collimator)で数mm(当施設では約2 mm)の相違が存在する。従って,これらの使用の際は加速器とRTPsで形成される照射野形状に対しての照合-検証が必要となる。
PTVに対するマージンは各施設で計測―検証を行った上で,最適な量を加える必要がある。これらは一般にQA QCとなるが,時間的および人為的負担を考えると明確で且つ,最適な方法は未だに決定されていないと思われる。

Fig. 2
四施設における同一CT画像を用いた場合のCTVの設定の相違実線および点線などは各施設におけるCTVである。

最後の第四はプランの評価および実行についてある。現在,評価関数としてDose Volume Histogram (DVH), normal tissue complication probability (NTCP)/tumor control probability (TCP) などがあるが,主にDVHを用いる場合が多い。DVHを用いての評価の際,腫瘍および重要臓器容積の決定は上記の2次元のモダリティ画像(主にCT画像)から外輪郭を人為的判断で抽出することで行われている。しかし,上述したように医師の診断能力,画像認識能,などにより容積の不確定度がある)。従って,これらの不確定度を考慮した上で,検証する必要がある。
3. ま と め

以上のように,肺定位放射線治療に代表される高精度放射線治療技術は従来の “曖昧さ”の概念をより客観的にし,実際の治療にフィードバックする必要がある。今回は紙面の都合上,CT撮像時の撮像条件やRTPSの線量計算アルゴリズムなどに対する不確定度を割愛しましたが,それらに対しても “曖昧さ”が存在することに注意が必要と思われます。