2. 主題:『体幹部の定位放射線治療の導入にあたって
〜問題点と工夫〜』

   
司会 新潟大学医歯学総合病院 放射線科
土 田 恵美子

はじめに
2004年4月,直線加速器による体幹部定位放射線治療に63,000点の保険診療の報酬が認められました。適応疾患は,直径が5 cm以内で転移病巣のない原発性肺癌または原発性肝癌,3個以内で他病巣のない転移性肺癌または転移性肝癌および脊髄動静脈奇形です。なかでも肺癌は,患者の罹患数,死亡者数とも癌疾患の第一位を占める重要な疾患です。限局期であるI, II期の非小細胞肺癌では外科的切除が治療の第一選択となりますが,呼吸機能が低下した症例では手術の対象にはなりません。縮小手術も積極的に行われるようになりましたが,Performance Statusが不良である場合や高齢者など術後合併症を生じる危険性が高い症例ではやはり手術は困難です。定位放射線治療は高い位置精度で高線量の放射線を病巣部に集中させることで,腫瘍の局所制御率を向上させるとともに,正常組織の有害事象の発生を可及的に低減する治療法です。放射線に対する耐容線量が比較的低い肺や肝に発生した原発性および転移性癌,あるいは脊髄近傍にある脊髄動静脈奇形においては1回2 Gy程度の通常分割外照射に比べて優れた効果を示すことが報告されています。国内の13施設においてI期の原発性肺癌245例を対象として定位放射線治療を施行した研究によれば,3年局所非増大率は85%,3年生存率は63%(手術可能例では88%)でした(Onishi H. et al. Cancer 101: 1623-31, 2004)。
直線加速器による体幹部定位放射線治療の実施にあたっては,下記に記す厚生労働大臣が定める施設基準に適合し,地方社会保険事務局長に届け出ることが必要とされています。
(施設基準) 放射線科を標榜している保険医療機関であること。
放射線治療を専ら担当する常勤の医師(直線加速器またはマイクロトロンによる放射線治療の経験を5年以上有するものに限る。)および放射線治療に関する機器の精度管理等を専ら担当する者(診療放射線技師,医学物理士等),放射線治療を専ら担当する診療放射線技師(直線加速器またはマイクロトロンによる放射線治療の経験を5年以上有するものに限る。)がそれぞれ1名以上いること。
当該治療を行うために必要な機器,設備を備えていること。
ア. 直線加速器(マイクロトロンを含む)
イ. 治療計画用CT
ウ. 3次元放射線治療計画システム
エ. 照射中心に対する患者の動きや臓器の体内移動を制限する装置(シェル,ボデイフレーム,照射装置一体型CT,照射中透視呼吸同期装置,動体追跡装置など。施設毎に,これらの装置を用いて照射中心に対する患者の動きや臓器の体内移動をどの程度制限できているか基礎データと照射毎の記録をしておく。)
オ. 微小電離箱線量計または半導体線量計(ダイヤモンド線量計を含む)および併用する水ファントムまたは水等価個体ファントム
実際に体幹部定位照射を施行する場合,照射の方法として呼吸抑制法,呼吸同期法,動体追跡法など種々の方法がありますが,完成された標準化された方法はなく,各施設が苦労しながら始めているものと思われます。治療技術の点からは,治療計画装置の検証(治療器の実測データとの合わせこみ),照射中心の固定精度が5 mm以内など高い精度を満たす努力が必要です。臨床においては,1回線量が日常診療で経験のない高い線量を用いるため,有害事象の発生についての予測が難しく,各施設とも手さぐりの状態で行っていると考えられます。そこで今回の研究会の主題として「体幹部の定位放射線治療の導入にあたって〜問題点と工夫〜」を提起させていただきました。経験豊富な施設,新しく始めた施設の両方の先生方に,適応症例の決め方,精度管理の方法,治療方法の実際(体幹部の固定方法,標的体積の決め方,照射の方法,治療前の位置精度の検証方法など),体幹部の定位放射線治療を実施するにあたって問題と感じている点,工夫されている点を具体的に詳細に発表していただきました。リスクマネージメントの観点から有害事象を生じた症例を共有すべく貴重な報告もいただきました。また,この分野の先駆者であり指導的立場でいらっしゃる北海道大学,東北大学の両先生から貴重な御提言をいただくことができました。各施設の先生方には忙しい診療の中を今回の研究会のために多くの時間をさいていただくこととなり,大変申し訳なく思っております。しかし,活発な意見交換が行われ,出席された皆様にとって意義のある研究会となったのではないかと思っております。ご協力をいただきまして本当にありがとうございました。
この度第44回記録誌として,皆様の診療のお役にたつようまとめていただくことになりました。研究会の開催ならびに記録誌作成にいつも御尽力くださっている日本化薬株式会社様のご厚意には深く感謝しております。この場をお借りして御礼申し上げます。