4) 放射線治療におけるベッドマネージメントとインフォームド・コンセント――東北大の現況――


東北大学 放射線治療科
   小 川 芳 弘・高 井 良 尋・根 本 建 二・高 井 憲 司
   坂谷内   徹・小 藤 昌 志・菅 原 俊 幸・神 宮 啓 一
   山 田 章 吾
はじめに
 近年,乳房温存療法の増加や前立腺癌の放射線治療の増加等により,放射線治療を受ける患者数は年々増加している。患者数の増加とともに,定位照射や強度変調照射法などの治療技術の進歩に伴い,放射線治療医の仕事は煩雑なものになっている。また,医療事故も無視できず,近年では過剰照射,過少照射等,社会を賑わせているのも事実である。そもそも,患者数の増加,仕事の増加のわりに,放射線治療医の増加が微々たるものであることからきている諸問題であるが,本稿では,現在の我々の環境について,まとめ,報告する。
ベッドマネージメント
 

東北大学病院は1,312床の大病院(歯学部含む)であるが,そのうち,放射線治療科病棟は30床を占める。そのほか,RI病棟として密封3床,非密封7床,放射線診断科2床で,放射線科病棟としては全体で42床ある。一方,放射線治療科は現在,教授1,助教授1,講師1,助手3 (1人留学中),医員2,大学院生2の計10名で治療を行っているが,実際病棟を管理しているのは助手以下6名である。平成16年4月から9月までに入院した患者数は105名で,入院待ち期間は平均11日,平均入院日数は45日であった(Table1)。すなわち,病棟は常時ほぼ満床状態であり,退院がでないと入院ができない,という状況である。入院治療を行った疾患は食道癌が最も多く32例(30%),ついで乳癌20例,肺癌18例,血液系11例の順になっていた(Table2)。最近の食道癌の治療は放射線化学療法が主体になっており,放射線治療計画,日常の全身管理の他に,化学療法の指示,管理等も行わなければならない。我々は6人の病棟医で分担してそれらをこなしてきている訳だが,一見6人というと十分そうに聞こえるが,実際はとても大変な毎日である。その原因は1.更新するたびに医師の負担が増える医療情報システム,2.地域医療のための応援,によるところが大きいと考えられる。以下にそれらについて紹介する。

Table1. 東北大・放射線治療科病棟の稼動状況
Table2. 入院患者の疾患の内訳
 
最小
最大
平均
入院待ち期間(日)
入院期間(日)
1
5
73
134
11
45
年齢21歳〜93歳 平均67歳

疾 患
 
食 道
乳 腺

リンパ腫血液系
大腸直腸
婦人科
頭頚部
泌尿器
その他
32
20
18
11
5
5
5
4
5
105
 

 1. 煩雑な医療情報システム
 東北大では3-4年に1度ずつ医療情報システムを更新してきており,現在は平成13年11月からは第6次システムが稼動中である。このシステムから,注射も入力制になり,医師の端末に拘束される時間が格段に飛躍した。食道癌の化学療法の入力の場合,1例あたり,1コース(1週間分)入力するのに,慣れた医師で30分はかかり,慣れない医師だと1時間以上かかってしまう。さらに,このシステムは電子カルテとは認められていないため,カルテにも同様の指示を記載しなければいけない。我々医師はこれらの入力,記載に膨大な時間を費やしており,患者の診療時間よりはるかに多くの時間,端末等と戦っているわけである。これで良いはずが無く,病院側もようやく平静16年4月から,病棟クラークの導入を試行開始した。あくまで,試行であり,医師代行入力をしてくれるクラークは放射線科病棟のみの配属であったが,これで,我々の病棟での仕事はずいぶん改善された。現在病棟クラーク配属は8病棟まで増えたが,医師代行入力を許しているのは放射線科,泌尿器科の2科のみの試行となっている。(医療事故防止の観点から積極的にはすすめられない状況のようである。)
 2. 地域医療のための応援
 日常業務が忙しい中でも,大学の使命のひとつである地域医療の応援は支持していかなければならない。現在当科で治療医の応援を出している病院は県内外を含め13施設に及ぶ(Table3)。その応援日数は週間18日・施設になっている。これらの施設に応援を出すということは,助教授以下で応援をまわしても,一人当たり平均週2〜2.5日の応援出張を強いられることになる。(実際には1日といっても丸一日を要する応援は少なく,半日でなんとかしている状況だが)したがって,6人の病棟医がいても,実際に日中病棟にいるのは平均すると3人になってしまい,その3人も外来,治療計画の応援に入り,日中は病棟医が病棟に不在ということがほとんどである。現在,我々は遠隔地の治療医不在の病院のため遠隔放射線治療システムを運用しているが,それにしても,患者の診察には実際に現地に赴かなければならず,応援の負担の減少にはつながらない。


 以上病棟内外のdutyの多い中,当科では先進的な治療も積極的に取りくんでいる。現在治療部門のスタッフは放射線技師8名,看護師2名,治療装置はライナック4台,密封小線源治療装置1台,CT 1台,X線シミュレータ1台,治療計画装置4台で,年間約1,000例の新患数をこなしている。平成15年度には治療計画件数1,711件で,特殊照射もTBI 17例,IORT 22例,IMRT 40例,SRT 52例など精力的にこなしている(Table4)。この多忙のなかでも,現在までに目立った医療事故は発生していない。これは,放射線技師の皆様,看護師の皆様のサポートがあるからこそ成り立っていることだと痛感している。

Table3. 東北大・放射線治療科の
     応援施設
 
Table4.東北大・放射線治療に
    おける平成15年度の特
    殊照射例数
仙台市内
 仙台私立病院(週2日)
 東北労災病院(週2日)
 東北厚生年金病院(週1日)*+
 県立こども病院(週1日)+
仙台市外
 石巻市立病院(週1日)*
 古川市立病院(週2日)+
 公立気仙沼病院(週1日)+
 岩手県立大船渡病院(週2日)
 岩手県立胆沢病院(週1日)*
 平鹿総合病院(隔週2日)*
 竹田総合病院(週2日)*
 福島労災病院(週1日)
 山形市立済生館病院(週1日)*
 計    13施設(週18日)
* 治療常勤医有り
+ 遠隔放射線治療システム導入済み
全身照射
集中照射
強度変動照射法
多分割照射
定位照射(脳)
定位照射(体幹部)
腔内照射
17
22
40
103
10
42
43
 
インフォームド・コンセント
 インフォームド・コンセントとは,患者が医師等から診療内容などについて十分な説明を受け納得した上で,患者が選択された医療を行うものである。患者に十分な説明をしたのちに文書等で同意を取得するわけであるが,東北大では,最近まで,文書での同意書は取得していなかった。治療計画時に口頭で説明し,照射に関するパンフレットを読んでもらい,説明したことをカルテに記載するようにしていた。これは,同意書の重要性は十分に承知していたが,文書作成に躊躇していたからである。放射線診断科においても,CT, MRI等の造影剤に対する同意書問題があった。こちらも本年6月までは同意書を取得していなかったのである。しかし,昨今の医療情勢を考えると,同意書取得は必然的な流れとなってきており,やっと本年7月からCT, MRIに関する造影剤使用に対する同意書を取得するようになった。この流れを受け,治療科においても,本年9月から同意書を取得するようにした。近年はCTでの計画が多くなっているため,本同意書は照射に対する同意と造影剤使用に対する同意の両方をそなえたものとしている(Fig.1)。同意書は一部であるが,説明者,同意者がサインののち,一部をコピーし,原本をカルテ保存,コピーを患者に渡している。本同意書は,まだ運用開始まもなく,いわゆる試行の段階であり,今後改良を加えていく予定である。


Fig.1. 東北大における放射線治療同意書

ま と め
 以上,ベッドマネージメントとインフォームド・コンセントについて,東北大の現況を報告した。比較的治療医の多いと言われている東北大においても病棟では毎日戦場のように働きまわらなければいけない状況である。本年度から初期研修必修化に伴い,新卒学生の新入医局員は望めなくなってしまった。さらに,東北大では,大学全体での5%人員削減を打ち出してきており,医学部の定員も削減されそうである。病院定員は今のところなんとか確保されているようだが,現在の環境では,今後の人手不足はさらに深刻な問題になってくるであろう。これら,放射線治療医をとりまく問題はどこでも同様に抱えていることと思われる。皆で忙しい,大変だ,といっていても問題解決にはつながらない。問題解決のためにはなにをしたら良いか,すぐに答えが見つかる訳でもないだろう。皆で考えましょう。