1) アンケート集計報告
宮城県立がんセンター 放射線治療科
   角 藤 芳 久

1. 対象・方法
 北日本放射線腫瘍学研究会に登録されている50施設にアンケート調査を行った。アンケートの主な内容は,
 A. 各施設の規模や放射線治療患者数,治療医数など放射線治療全般に関して
 B. 放射線科の病床数や入院患者の内訳などベッドマネージメントに関して
 C. 患者診察や治療計画時の放射線治療医の業務内容に関して
 D. 放射線治療の際のインフォームドコンセントの取得に関してとした。
2. アンケート集計結果
1) 回答状況
 アンケートを郵送した50施設(60名)のうち28施設(29名)からご回答をいただいた(60名となっているのは大学病院等の放射線治療医が複数いる施設に中堅・若手医師に2通お願いしたためである)。施設の回答率は48%であった。
 2) 放射線治療全般に関して
 放射線治療専任の常勤医は,1人の所が12施設(43%)と最も多く,次いで2人が5施設(18%)と0人の所が4施設(14%)であった(Fig.2)。施設別の新患数と治療計画件数及び特殊照射についてはFig.3, Fig.4の通りであった。
 3) ベッドマネージメントに関して
 放射線科の病床数は1〜56床まで多岐にわたっており,1〜5床が11施設(38%),6〜20床が9施設(32%),21床以上が9施設(31%)であった(Fig.5-1,5-2)。また,放射線科病棟を担当する医師数は,1.1〜2.0人が17施設(51%)と約半数を占めていた(Fig.5-3)。放射線科に入院する患者の内訳は肺癌が19.8%と最も多かったが,これは肺の定位放射線治療が増加しているためと思われた(Fig.6-1)。また,入院患者の治療目的としては,根治照射が過半数を占めている施設が13施設あり,主として骨転移等の非根治照射患者を入院させている施設が7施設,ほぼ同じ割合なのが3施設,無回答5施設であった(Fig.6-2)。
 4) 放射線治療ベッド保有理由に関して
 放射線科でベッドを保有している理由は他院からの紹介患者を入院させるためが20施設(25%)と多く,次いで特別な治療(放射線治療)を行うためが16施設(20%)であった(Fig.7)。
 5) 放射線治療病床数に関して
 放射線科での治療病床数に関しては,適当だと思うが13施設(46%)と多く,次いで多すぎると思うが9施設(32%)であった(Fig.8-1)。また,専任医師と適当な病床数については各施設まちまちな回答であったが,平均すると常勤医師数2名に対し適当とする病床数は14床であった(Fig.8-2)。
 6) 放射線治療医の業務内容に関して
 外来照射中の患者診察は週に1度が20施設(69%)と最も多く,他科に入院して照射している患者診察も週に1度という施設が21(73%)とほぼ同数であった(Fig.9-1,9-2)。また,治療終了後の経過観察については,放射線科と紹介先と併診して行うが12施設(38%),症例により異なるが11施設(36%)とほぼ同数で,放射線科のみで行っている施設はなかった(Fig.9-3)。次に,治療計画を行う際のCo-Medicalスタッフの支援体制についてお聞きしたところ,X線シミュレータで計画する際に看護師が立ち会う施設は約1/3しかなく,照射野のマーキングからMU計算まで放射線技師が行っている施設が多かった(Fig.10-1〜4)。CTで計画する際にはCTの撮像とリファランスラインのマーキングは放射線技師が行っている所が多く(17施設,62%),治療計画装置の操作自体は主として医師が行っていた(Fig.11-1〜3)。治療計画装置における医師の作業内容については,ターゲット入力とマージン設定・ビーム設定は約90%の施設で医師が行っていたが,体輪郭の作製と最後のデータ出力などの処理については約60%にとどまった(Fig.12)。また,患者データベースの入力及び治療計画時のフィルム管理は放射線技師と医師が協力して行う施設が一番多かった(Fig.13)。
 7) 放射線治療の際のインフォームドコンセント(IC)の取得に関して
 放射線治療を行うに当たって事前にICを取得すると回答した施設が25施設と約90%を占めていた(Fig.14-1)。ICの取得形式は文書による取得が63%と過半数を占め,口頭で取得してカルテに記載する方法が24%であった(Fig.14-2)。また,治療計画用CTで造影剤を使用する際にICを取得するか否かについては,文書による取得またはカルテに記載する方法を用いている施設が約50%であった(Fig.15)。


Fig.1. 病院全体の病床数


Fig.2-1. 放射線治療担当医師数(内訳:名)


Fig.2-2. 放射線治療専任の常勤医師数分布(施設数)


Fig.3-1. 施設別新患数(名)


Fig.3-2. 施設別治療計画件数(件)


Fig.4. 特殊照射症例数−照射施設数グラフ


Fig.5-1. 放射線科の病床数(施設別)


Fig.5-2. 放射線治療病床数分布(施設数


Fig.5-3. 放射線科病棟における担当医師数(施設数


Fig.6-1. 放射線科入院患者の原発巣別内訳


Fig.6-2. 施設別根治vs非根治(%)


Fig.7. 放射線治療ベッド保有理由(複数回答)


Fig.8-1. 放射線治療病床数は適当か?


Fig.8-2. 適当な病床数と専任医師数(施設別)


Fig.9-1. 外来照射中の患者観察


Fig.9-2. 他科入院で照射中の患者診察


Fig.9-3. 照射終了後の外来での経過観察


Fig.10-1. 放射線技師の治療計画への立ち会い


Fig.10-2. 看護師の治療計画への立会い


Fig.10-3. 治療計画時のマーキング


Fig.10-4. X線シュミレーターでのMU算出


Fig.11-1. CTの撮像,リファランスラインのマーキング


Fig.11-2. 造影剤注射のための血管確保,注入時観察


Fig.11-3. 治療計画装置の操作


Fig.12. 治療計画装置での医師の作業


Fig.13. 患者データベース入力・治療計画フィルム管理


Fig.14-1. 放射線治療前のIC取得


Fig.14-2. ICの取得形式


Fig.14-3. ICを取得する症例


Fig.15. CTで造影剤を使用する場合のIC

3. 考   察
 放射線治療機器の進歩と高精度治療の出現により,放射線科に入院する患者の構成も以前とはかなり変わってきた。昔はターミナルケア患者が多かったが,最近は化学放射線療法や高精度放射線治療を目的とした入院が多くなっている。また,入院患者一人あたりに要する時間も以前とは比較にならない程増加している。その理由としては,患者および家族に対する病状説明時間の増加,・入院に伴う各種書類の増加,電算システム導入に伴う注射/投薬指示の煩雑化,CO-MEDICALスタッフの意識の変化などが挙げられる。また,患者中心の医療の推進という観点と医療訴訟対策という両面から考えると,放射線治療を行う患者への文書によるインフォームドコンセント (IC) 取得も必要不可欠な時代となりつつある。「放射線科病棟の1床」が持つ意味は,様々な面で昔とは大きく変わってきたと言えよう。
 今回のアンケートのうちベッドマネージメントの項目について,大学病院・地域中核病院・一般病院の3群に分類して病院規模ごとにまとめてみた(Table1)。ベッドを保持している主な理由を見てみると,治療専任の常勤医が2名以上いる地域中核病院と大学病院では「紹介患者を入院させるため」と「特別な放射線治療を行うため」という理由が多かったが,常勤医1人以下の一般病院ではベッドを持つ積極的な理由は見当たらなかった(Table2)。大学病院ではその特殊性として,「学生の教育に必要だから」という理由を挙げた施設が25%あった。また,適当と思われるベッド数に関する質問では,大学病院のみが実際のベッド数よりも平均約8床少なく回答していた(Table3)。特に大学病院の勤務医が病棟管理と高精度放射線治療の狭間で悲鳴を上げている姿が浮かび上がった。それに比べて,地域中核病院と一般病院の医師は現在のベッド数にほぼ満足しているものと思われた。
 一方で,病棟業務以外の放射線治療医の仕事量も以前より確実に増加している。JASTROの全国調査では1995〜1999年の4年間で年間治療新患数が49.5%増加しているが,常勤放射線治療医は12.6%しか増加していない。医師一人あたりの治療計画件数が明らかに増加していることになる。その上,3次元治療計画装置の出現に伴ってSRT・SRS・IMRT等の高精度治療が可能となり,QA・QCが声高に叫ばれる状況下にあって,放射線治療医に対する病院や社会の期待も多大なものとなっている。
 限られたマンパワーで煩雑化した病棟管理と高精度放射線治療を両立できるのだろうか? 日々多忙な日常業務に流されていると,言葉は悪いが手抜きのような病棟管理と急いでたてた多くの治療計画の中に,医療事故につながるような症例がいつか出てくるのではないかと気が気でならない。

Table1. アンケート結果の解析(1)

Table2. アンケート結果の解析(2)ベッド保持理由

Table3. アンケート結果の解析(3)