第四十回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題 「乳房温存療法の実態」,12-14
2) 当院における乳房温存療法の実態
弘前大学医学部附属病院 放射線科
   青 木 昌 彦・畑 山 佳 臣
   近 藤 英 宏・場 崎   潔
   阿 部 由 直
青森県立中央病院 放射線科
   渡 辺 定 雄・甲 藤 敬 一
   眞里谷   靖
八戸市立市民病院 放射線科
   松 倉 弘 明


はじめに
 乳房温存療法は,乳房切断術と比べて成績に違いがないことが明らかになり,欧米ではT1・T2症例の標準治療としてのコンセンサスが得られている。本邦でも,乳房温存療法は増加傾向にあり,当院においても,乳癌照射例の約7割が温存症例である。今回は,当院の乳房温存療法の実態と問題点について報告する。

1. 対象および方法
 当院においては平成2年に乳房温存療法が開始されたが,その患者数は年々増加しており,現在までに210例が登録されている。当院における乳房温存療法の適応は,腫瘍径が3cm以下で,乳房温存療法を患者が強く希望する場合,かつインフォームド・コンセントが得られた症例としているが,放射線治療医が治療方針に関与する余地はないのが現状である。
 照射のプロトコルは50Gy/25分割/5週の接線照射を標準とし,断端が不明の場合やnear marginには電子線で腫瘍床に10Gy/5分割,断端陽性例には更に6Gy/3分割のboost照射を行っている。また,n1βの症例については固定1門にて鎖骨上窩に50Gy/25分割の照射を行っている。T分類や組織型では照射野や線量を変えていない。照射の体位は仰臥位で,両側上肢を挙上し,モールドケアとシェルで上肢と頭部を固定し,乳房の固定は行っていない。その理由は,殆どの照射が仰臥位で行われ,視診・触診で乳房を同定できること,かつ,シミュレーション時に照射野が適切かどうかわかりやすいためである。
 治療計画はCT先行とし,乳房の輪郭にカテーテルを貼り,1cm間隔の息止めなしでCTを撮影,画像をFOCUSにオンラインで転送し,FOCUS上でCTVを設定している。CTVの内側は胸壁,外側は皮膚表面,輪郭はカテーテルを目安に設定している。術式は非対向二門の接線照射とし,ウェッジフィルターは約9割の症例に用いている。
 乳房温存手術は,開始当初はBqが殆どであったが,最近はBpが8割を占めており,腋窩リンパ節郭清はほぼ全例で行われている。術後病期はt1n0が106例(50.5%),t2n0が40例(19%),t1n1αが29例(13.8%),t2n1αが14例(6.7%),その他が21例(10%)である。病理診断は,乳頭状腺管癌が44例(21%),充実腺管癌が42例(20%),硬癌が94例(45%),その他が30例(14%)で,断端は,陰性が149例(71%),near marginが18例(9%),陽性が30例(14%),記載なしが13例(6%)である。なお,患側乳房内多発を5例(2.4%)に認めたが,患者の強い希望にて乳房温存療法が選択された。

2. 結  果
 Kaplan-Meier法による無病生存率は,5年94.8%,10年86.5%,局所非再発生存率は,5年98.8%,10年96.6%,局所リンパ節非再発生存率は,5年98.7%,10年94.2%,非遠隔転移再発率は,5年97.2%,10年93%であった。
 対側乳癌を15例(7%)に認め,その発生時期は前が8例,同時が4例,後が3例であった。手術の術式は,前と同時が全例乳房全摘術であったのに対し,後は全例乳房温存療法が行われた。
 RTOGの急性反応判定基準による放射線性皮膚炎は,Grade0が9例(5%),Grade1が168例(85%),Grade2が20例(10%),Grade3が1例(0.5%),臨床的に問題となる晩期障害を特に認めなかった。

3. 考  案
 乳房温存療法は年々増加しているが,当科においては新規登録患者数の約1割を占めるまでに至っている。その要因は,乳癌検診の普及もさることながら,患者自身がしこりを小さいうちに発見し,医療機関を受診する例が増加していることも挙げられる。当院では院内の外科よりも院外からの依頼が圧倒的に多く,当科初診時には,前医を退院しているケースがほとんどである。現在,初診から照射を開始するまでに約4日を要しているが,外来通院で治療計画を行うケースが大多数を占め,照射中の有害事象に対しても外来で対処可能であることから,遠隔地や冬記間を除き,ほとんどの患者は外来照射を選択している。
 照射後の経過観察は,low riskであれば1年までは3ケ月間隔,3年までは4ケ月間隔,4年目以降は6ケ月間隔とし,少なくとも10年間は経過を観察するようにしているが,n(+)や断端陽性例などのhigh riskの場合は,診察間隔を短めに設定している。その結果,曜日によっては乳房温存療法の患者さんで大混雑する日もあり,外来の負担がかなり重くなっている。骨シンチと胸部〜腹部CTなど,遠隔転移の検索は,乳房温存療法が開始された当初,6ケ月間隔でほぼ全例に対して行っていたが,遠隔転移で再発するケースが非常に少ないこと,外来の負担が年々重くなっていることなどから,検査の間隔を延ばしたり,n(–)の場合には省略したりすることもある。しかし,再発の不安を拭い切れない患者も少なくないため,検査を希望される場合には,断りきれないのが現状である。断った場合には,患者の信頼を失いかねず,再来に来なくなることもある。また,大学病院のある津軽地区に乳癌患者の会が2つもあり,患者同志の情報交換が定期的に行われている。従って,外来で手を抜くことは,医師にとっても患者にとっても命取りになることがある。乳房温存療法に限ったことではないが,外来ではかなり神経をすり減らしているのが実情である。
 このペースで乳房温存療法が増えていった場合,少ない放射線治療のスタッフで対応できるのかどうか不安になるが,ここ数年,切除断端が陰性であれば,たとえ乳管内進展があっても照射を省略する試みが外科で行われており,乳房温存療法の増加に歯止めがかかる可能性もある。しかし,現時点では,照射を省略できる症例が判らないため,慎重に対処するべきであろう。