第四十回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題 「乳房温存療法の実態」,9-11
1) 当院における乳房温存療法
帯広厚生病院 放射線科
   鈴 木 恵士郎


目  的
 当院においては1991年より乳房温存療法が行われてきたがその治療内容・治療成績などを検討する。

対象および方法
 当院放射線科で1991年から2002年までに乳房温存手術(Q,Bq,Bp)後に残存乳腺に対する放射線治療を行った164例中,診療録により詳細な経過が確認できた125例を対象とした(125/164=75%)。患者背景を表1に示す。当院における原則的な乳房温存療法の適応を表2に示すが患者の強い希望があった場合などは適応外でも対象とした。TNM分類ではT1が最も多く98例,T2が26例,T3症例は患者の希望で温存療法を行った1例であった(表3)。組織型では表4に示すようにほとんどがinvasive ductal ca.であった。放射線治療は全例で接線照射46Gy/23fr (4MV X線)を行い,断端陽性例には6Gy/3frの電子線ブーストを追加した。接線照射の際には患側上肢を挙上固定する目的でシェル(サーモシェル)あるいはブレストボードを使用した。


表1 患者背景
 表2 乳房温存療法の適応
 

表3 病期(TNM)分類
 表4 組織型分類
 

結  果
 治療内容について……温存術の術式を表5に示す。治療開始初期にはQuadrantectomyで大きく切除する傾向があったが,徐々に切除範囲は縮小し最近ではBp(乳房円状部分切除術)が多くを占めていた。手術断端の状態は本治療開始当初は断端0mmで腫瘍が露出しているか否かで判断していたためその基準を用いて判定したところ断端陰性例103/125(82.4%),陽性例22/125(17.6%)であった。放射線治療では表6に示すように線量分布の均一化を目標にほとんどの症例でウェッジフィルターを用いたが(114/125),11例で未使用だった(当院ではHalf field block法を用いているため巨大乳房で照射野幅がある一定以上大きくなるとウェッジが入らない,などの理由による)。術後化学療法は今回の検討で確認し得た限り84例で使用されていた(表7)。
 治療成績について……合併症を表8に示す。全くの無症状であった症例は16.8%であり,それ以外の症例では何らかの合併症が観察された。特に多いのは照射野内皮膚のerythemaであった。1例(0.8%)でびらんを伴う高度の皮膚炎を併発した。また1例(0.8%)で症状を伴う間質性肺炎を生じたがステロイド投与により軽快している。再発は9例(7.2%)に認められ,局所再発は4例(3.2%),局所制御率は96.8%であった(表9)。表10に再発部位を示すが局所再発中2例は断端陽性例であり,断端陽性例の局所再発は9.1%であった。なお,局所再発例はいずれも救済手術により制御可能であった。

表5 手術術式
 表6 ウェッジフィルターの有無
 

表7 照射後補助療法
 表8 合併症
 

表9 pattern of failure(1)
 表10 pattern of failure (2)
 

考   察
 当院での治療成績は諸家の報告と比べ断端陽性の再発率が若干高く,これは (1) 電子線ブーストの線量が低めであった (2) 断端陽性例の定義が断端0mmとなっており現在の乳癌学会の定義である5mm以内に比べより進行した症例が多く含まれていた可能性があると考えられた。従って今回の検討をもとに電子線ブーストの線量を9Gy/3frに増加している。その他の成績についてはほぼ同等の結果が得られていた。ちなみに電子線ブーストの意義については一定の見解が得られておらず,今後も症例を重ねさらに検討を続けて行く予定である。