第三十九回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題 「三次元原体照射の実態」,22-23

5)  原体照射における正常組織障害

 
山形大学 放射線科    石 山 博 條

 はじめに
 山形大での三次元原体照射は360度回転(コプラナー)を使用している(以下,原体照射とする)。この方法は高線量域が PTV に集中するものの,周囲に広範な低線量域が広がることが欠点のひとつである。
 今回は低線量域が障害発生に関与した例を提示し,低線量域の影響について検討した。

 検討1(肺の障害)
 症例
 縦隔リンパ節に原体照射を施行後,低線量域に放射線性肺炎をきたした55歳女性。
 1995年10月13日に左乳癌にて手術し,1997年にリンパ節再発で放射線治療施行,さらに1998年1月に左前胸壁再発を来たして再三の放射線治療施行していた。同年5月に上縦隔リンパ節に再発し,「原体照射」による46Gyを照射した。その後,他院に転院し,マイトマイシンC,エンドキサン,ビンクリスチン,メソトレキセートを6クール施行(投与量は不明だが,通常より少ないとのこと)したが8月20日ころより呼吸苦,咳嗽が出現した。CTにて原体照射のアイソセンターを中心に円形に分布する間質陰影増強がみられ,臨床症状も合わせ放射線肺炎と診断された。

 考  察
 原体照射により比較的低線量ながら照射を受ける肺体積が増大したこと,放射線治療の直後に化学療法を行ったことにより肺の耐容線量が低下したことが原因で,1Gy×23回,計23Gyの等線量曲線外にも及ぶ広範な放射線肺炎が発生したものと考えられた。一般的には20Gy以上照射される肺体積に注意すべきとされている。また併用する化学療法剤にも注意する必要がある。

 検討2(脳の障害)
 背景と方法
 脳の放射線による白質変化は30Gy以下でも発生(放射線脳壊死より低線量で発生)し,化学療法(特にメソトレキセート)の併用でさらに発生しやすくなると言われている。
 40Gy以上照射した原発性脳腫瘍40例を対象とし,白質変化を検討した。白質変化の定義は「T2強調像,FLAIR像で照射開始後,原発巣から離れた部位に新たに出現し,永続する白質内高信号」とした。

 結  果
 原体照射で20Gy以下に計画された低線量域にも白質変化は発生しており,画像(MRI)で捉えられる変化がPTV外にも出現することがわかった。また照射中に白質変化が現れる症例もあり,これまで考えられていたよりも早期に変化がみられるものと思われた。しかし明らかな臨床症状を呈するものはなかった。

 検討3(肝臓について)
 背景と方法
 肝臓の照射については,いかにRadiation induced liver disease (RILD) を発生させないで治療を行うかが重要と考えている。
 PEIT・TAEが困難な肝細胞癌14例,手術不能な大きな肝内胆管細胞癌11例,肝門部胆管癌10例を呼吸停止下で原体照射した。線量は30〜70Gy (中央値60Gy)とし,PTVは照射対象とした腫瘍+安全域1cmに設定した。

 結  果
 ChE値が150U/I以上の症例で1年生存率および2年生存率がそれぞれ66.8%,42.9%であったのに対し,150U/I未満では,それぞれ13.1%, 0%であった。
 最大照射野径,腫瘍径,門脈塞栓の有無,化学療法の有無,GOT, GPT, Albなどでは,有意差がなかった。60Gy以上照射しても有意な生存率向上がなかった。

 考  察
 肝腫瘍の主な直接死因は肝不全であった。RILDによるものか腫瘍の進行によるものか判別は困難であるが,広範にひろがる低線量の放射線の影響は無視できないものと思われた。特にChE低値症例で予後が不良であり,照射前ChEにより適応例の選別が可能と思われた。

 ま と め
 山形大学附属病院で原体照射を施行した症例につき,PTV周囲低線量域の影響を中心に検討した。条件によってPTV周囲にできる比較的低線量の領域にも無視できない障害が出る可能性あると思われる。