第三十九回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題 「三次元原体照射の実態」,15-16

2)  当院における三次元原体照射の実態

 
札幌医科大学放射線科    永 倉 久 泰

はじめに
 当院の場合,三次元照射(non-coplanar beamを用いた放射線治療)は厳密には脳定位放射線手術と肺定位照射のみであり,表題にある三次元原体照射は後者に限られる。当院で行われているIMRTも現時点ではまだ二次元治療である。幸い今回はその辺りの枠は緩く設定されているとのことなので,表題は「当院における三次元照射または原体照射の実態」と解釈して頂ければ幸いである。

治療件数年次推移
 1996年2月から2002年10月までに231例に対し三次元照射または原体照射が行われている。放射線治療件数全体に占める割合は3%〜5%とほぼ一定である。

人種内訳
 全231例の内,日本人が99.6%(230例),ロシア人が0.4%(1例)を占める。

治療方針内訳
 根治的照射が44%(102/231)と最も多く,その他は術後照射が20%(47/231),姑息的照射が15%(34/231),対症的照射が12%(27/231),準根治的照射(ここでは放射線感受性などの面で根治照射とは言い難いが反応さえ良ければ根治に至る可能性のあるものと定義する)が8% (19/231),そして術前照射が1% (2/231)である。

原発巣内訳
 前立腺が31%(72/231)と最も多く,中枢神経系が23%(54/231)とこれに次ぐ。その他は膀胱・尿管が10%(24/231),子宮・卵巣が8%(19/231),消化管が6%(15/231),肺が6%(13/231),頭頚部が5%(11/231),肝・膵が5%(11/231),その他が5%(12/231)である。

原発巣年次推移
 前立腺の増加傾向が著しいが,本来の三次元原体照射である肺は横ばいである。中枢神経系も横ばいかわずかに減少傾向にあるが,当院のすぐ近くに以前からガンマナイフを所有している脳神経外科があり,どうも症例がそちら側に流れている様子である。三次元原体照射の症例は代表例として提示する程多くはないので,二次元原体照射ではあるが症例が最も多い前立腺癌回転原体照射と,やっと実現にこぎつけたIMRTについて以下に簡単に述べる。

代表例(1)─ 前立腺癌回転原体照射
 新鮮前立腺癌(原則としてT1〜2N0M0)の原発巣,または術後吻合部再発に対して10MVX線回転原体照射で70Gy/35fr/平均52日の治療を行っている。LINAC (Varian Clinac 2100C)の治療台の制約でガントリーを360度回転させて治療することができないため,0度から180度(時計周り)と360度から180度(反時計回り)のビームを隔日交互に照射する方法や,280度回転照射が行われている。後者の場合,そのままでは背側の線量が下がるのでウェッジフィルターで線量分布を補正している。新鮮例の4年生存率は95%,吻合部再発の3年生存率は90%である。副作用としてはおよそ20%にGrade 1(無治療)またはGrade 2(痔疾用ステロイド坐薬投与)の直腸出血を認めている。発現時期は放射線治療終了から1年半までである。

代表例(2)─ 中咽頭癌IMRT
 中咽頭癌T2〜4N1〜2aに対し,原発巣と頚部リンパ節転移の両方をGTVとしてIMRTを行っている。IMRT導入当初はQAと同時に計算値と実測値の相違の原因究明を進めていたため治療開始まで2〜3週間を要していたが,IMRT専用ファントムや線量分布検証ソフトウェアを独自に作成し,現在は治療開始までの期間は一週間程度に短縮されている。
 今のところ局所制御は良好であるが,症例数も少なく観察期間も短く,まだ成績を総括して発表できる段階ではない。しかし観察期間は短いながらIMRTは我々にいくつかの課題を投げかけた。第一の課題は放射線皮膚炎であり,ほぼ全例が湿性皮膚炎をきたしている。不可逆的な合併症に至った例はないものの従来の治療に比べこの点は劣る。頭頚部領域のIMRTでは固定具により皮膚線量が18%も増加するため皮膚をリスク臓器に指定すべきであるとの報告があるが,転移により腫大した頚部リンパ節はGTVに含め,その表面の皮膚はrisk organに設定するのが果たして良い方法であるのかさらなる検討の必要がある。
 第二の課題はマンパワーである。治療開始までの準備期間が短縮されたとは言えIMRTは従来の治療と比べかなりの手間,時間,そしてマンパワーを要する。いつしかIMRTは "I'M Really Tired" の略語と言われる様になった。IMRTは光子線で重粒子線治療に対抗し得る革命的な治療技術ではあるが未解決の問題も多い。