第三十九回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題 「三次元原体照射の実態」,13-14

1)  当科における3次元原体照射の最近の話題

 
北海道大学医学部放射線科    土 屋 和 彦

 当科で行っている3次元原体照射をもちいた治療法の内,当科的に最近のトピックと思われる2つについて紹介させていただいた。
 1) 脳定位放射線治療プランニングに於ける脳機能情報の導入
 【目的】脳定位放射線治療に伴うneurological deficit,脳壊死等の発生を抑えるため,magnetoencephalography (MEG)及びmagnetic resonance axonography (MR-axonographyから得られる情報をプランニングに導入した。
 【患者・方法】皮質錐体路或いは運動野等のfunctional area に病変が隣接した20人21部位(脳動静脈奇形15人,転移性脳腫瘍5人)を対象にし,20人全例にMEG,6人にMR-axonographyを用い,以下の方法で有用性を検討した。まずこれら機能情報なしの状態で各患者につき治療プランを作成する。次に機能情報を与えた後,元のプランと比較しfunctional areaへの線量を減少させるように修正を行った。各患者は一回照射(20-25Gy/1f)の治療を受けるものと仮定し,functional areaの最大線量,10Gy, 15Gy以上照射される容積を修正前後のプランで比較した。
 【結果】15例のプランについては機能情報の導入により,プランの修正は有益であると考えられた。6例のプランに関しては機能情報の導入による改善が見込まれないためプラン変更は必要とされなかった。修正を受けた15例のプランでは,修正後にfunctional areaの最大線量,10Gy, 15G以上照射される容積はいずれも減少していた。特に15G以上照射される容積は有意に減少した。
 【結論】まだ未解決な部分も残っているものの,脳機能情報のプランニングへの導入は定位放射線治療後の副作用を軽減する可能性がある。
 2) 婦人科領域悪性腫瘍に対する動態追跡装置を用いた3次元原体ブースト照射
 【背景】子宮の悪性腫瘍などにおいては,膣狭窄,比較的厚みを持つ腫瘍の場合などにより腔内照射が実行困難な症例がある。また組織内照射は術者の経験,特殊技術が必要とされる。もしPTVマージンを減少させることができれば3次元原体ブーストにより良好な線量分布を得ることができるが,そのためにはセットアップエラー,臓器移動を何らかの方法でコントロールする必要がある。
 【目的】婦人科領域悪性腫瘍に対し動態追跡装置を用いた3次元原体ブースト照射の有用性を検討した。
 【方法】5名の患者について検討した。いずれの症例も50Gy/25fの全骨盤照射の後,30Gy / 6fr / 2weeksの3次元原体ブースト照射を行った。マージンはCTV margin=GTV+5mm, PTV margin=CTV+2mmに設定し,以下の項目について検討した。局所制御と有害事象,レーザーポインターによるセットアップとのずれ,PTV マージンが2mm, 7mmの場合の線量分布の違い。
 【結果】 観察機関が短い(5−9ヵ月)ものの全例に局所制御が得られ,明らかな有害事象も観察されなかった。レーザーポインターによるセットアップと比較した場合,頭尾方向で最大5.8mm,左右方向で最大9.9mm,前後方向最大7.8mmの誤差を認めた。またDVH解析ではPTVマージンが2mmの場合最大7mmと比較し明らかに直腸線量を減少することが可能であった。
 【結論】婦人科領域悪性腫瘍において,何らかの事情により腔内照射が施行困難な症例では動態追跡装置を用いた3次元原体ブースト照射が有効である可能性がある。