第三十七回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題 「前立腺癌に対する放射線治療」,18-21

3) 前立腺癌に対する放射線治療

―― 当院における現状 ――


札幌医科大学医学部附属病院放射線科

  大 内  敦・中 田 健 生
  染 谷 正 則・永 倉 久 泰
  坂 田 耕 一・晴 山 雅 人


目的
 前立腺癌根治照射例の一次効果の検討と現在当科で行っている照射法の紹介と今後の展開について話題提供を行うこと。


症例数の推移
 腫瘍マーカーPSAの普及により,我が国でも急激な症例の増加が予想されている。当科での最近の前立腺癌根治照射例の年推移を見たところ1997年から2001年夏まで40例であった(図1)。
 99年に当院の泌尿器科とのカンファレンスを行った。Tの大きさとPSA値とGleason scoreでリンパ節転移率を予測し,前立腺に限局しており根治療法が適応と判断された際には患者さん本人にInformed Consentを行い,放射線または全摘術のどちらかを選択してもらうことを原則とすることで一致した。当院での症例数の増加はこのカンファレンスの効果と思われ,本疾患においても関連臨床科との意見交換と意思疎通が重要と実感された。
 同時に放射線治療が選択された場合は骨盤リンパ節は郭清或いはサンプリングを行い転移陽性なら照射せず,ホルモン療法することが原則と定められた。(しかし,実際は基礎疾患で放射線が適応とされ,リンパ節郭清は行わず,代ってCT and/or MRIで腫大がないことを確認していることが多い。)



図1. 症例数の推移 (再発: 灰色, 新鮮: 白)

図1. 症例数の推移(再発 : 灰色,新鮮 : 白)


当科での照射法
 10 MV X線でTD 70 Gyの外部照射を行う。CTVは新鮮例では前立腺のみ,PSA再発例では尿道吻合部を含めた前立腺窩に設定し,MLCを用いた前方280°回転の原体照射で照射をしている。高線量域が腹側に偏位するためこれを補正すべくArcを左右の2つに分けて,異なった方向に楔型フィルターを使用する。中心線量の95%のisodose shellがCTVを5 mm程度の辺縁距離をとって囲むように治療計画を行っている。DVHを用いての360°回転原体照射法との比較では膀胱の照射容積の低減が得られている。


1次効果
 新鮮22例と根治手術後のPSA再発16例の検討を行った。
 新鮮例の平均年齢は70.8歳で平均観察期間は20.5ケ月(中央値17.5)。病期別ではA:9, B:10例のほかに上述したプロトコール以外のC:2, D:1例を含む。リンパ節郭清は基礎疾患,年齢を理由に3例にのみ行なわれた。Kaplan-Meier法を用いてのPSA free survival rateは2年で90%程度であった(図2)。
 PSA再発例の照射開始時年齢は平均67.2歳で初回手術時の病理学的病期B:2, C:13, D:1例で,照射開始時のPSAは0.3-4.3(平均1.2)。こちらの群のPSA free survival rateは同様に2年で90%程度で(図2)文献報告例より良好と思われた。これは高感受性測定キットでPSA再発が診断されている症例を含んでいることや観察期間(中央値25.5ケ月)が短いことが原因として考えられた。


有害事象
 照射終了後3, 6, 9, 12ケ月の時点の評価を図3に示す。今のところ12ケ月以降経過しての新たな直腸出血は認めていない。膀胱における有害事象は認められず,また直腸出血の程度は坐剤使用のGrade 2以下であった。外科的処置,輸血を要した例は1例もなく新鮮例,PSA再発例とも4例で許容出来る範囲と思われる。



図2. PSA free survival rate (Kaplan-Meier法)

図2. PSA free survival rate (Kaplan-Meier法)

図3. 直腸出血

図3. 直腸出血


IMRT
 Dose escalationによる局所制御の向上,あるいはboost therapyとして最近IMRTの有用性に期待が持たれおり,当科でも仮想治療計画を試みたので紹介した。10 MV X線で5方向からの多門照射でMLCを用いたstep and shoot法,inverse planはSIITPを用い,各門のsubfieldは10 segment程度とした。DVHを用いての比較では現在我々が施行している原体照射と比較して極めて良好な結果で,膀胱および直腸の照射容積の低減が著明であった。フィルム法で2次元の線量Quality Assurance (QA)を行った。治療計画装置(RT)で発生したbeamをフィルム(X-Omat V2)をソリッドファントムに挾んで曝射し,RT上の仮想ファントムでの線量分布と比較したところ高線量域は良く一致したが低線量域は十分な一致が見られなかった。現時点ではQAに時間とマンパワーがかなり必要でIMRTはI am real tiredな治療法と実感した。


前立腺癌放射線治療とMRI
 前立腺癌はUSおよびCTでは腫瘍は判然とせず,GTVの把握が困難とされる。Dose escalationのために重要である前立腺内の腫瘍局在同定について,MRIの有用性(可能性)を検討すべく当科でのEndorectal coilを用いたMRI施行例の各種画像を供覧した。MRSpectroscopyとDynamic studyにおいて血流が豊富でコリンが多く,クエン酸が少ない領域が描出された。病期Bの診断で前立腺全摘術が施行され,摘出標本の左葉apexの傍尿道に限局するGleason 3+4の腫瘍と一致していた。10例程度の経験からは,技術上とソフトウエア上の問題もありT1WI, T2WI, MRSpectroscopyとdynamic studyでの総合評価では約半数程度の正確な位置同定が可能との印象であることを述べた。


まとめ
1.  1997年から前立腺癌の根治目的で局所に照射をしたのは新鮮22例と術後再発16例であった。

2.  前立腺部に限局し,原体照射で前方280°回転治療を70Gy行っている。

3.  PSAの変動(局所制御)と晩期有害事象の途中経過を報告した。

4.  Dose escalationにIMRTが期待される。

5.  局在診断にMRIが有用と思われた。