第三十七回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題 「前立腺癌の放射線治療」,14-17

2) 前立腺癌70 Gy box照射の治療成績

新潟大学放射線科
   杉 田   公・土 田 恵美子
   本 康   男・笹 本 龍 太
   酒 井 邦 夫
長岡中央綜合病院泌尿器科
   西 山   勉



はじめに
 新潟大学放射線科およびその関連病院においては1998年頃から前立腺癌に対する根治的放射線治療の件数が増加してきた。放射線治療医の不足は新潟県においても格別であるから,前立腺癌放射線治療においても昨今のモダンな照射方法に時間を費やすことができない。また,病期分類の為の十分な資料が揃っていない場合もある。背臥位で,既撮のCTを用い前後左右の矩形box照射を手早く行わなくてはならない。
 1998年まで全骨盤あるいは小骨盤照射野で前後対向40〜46 Gy,引き続いて左右26〜20 Gy,合計線量は66 Gy止まりであった。以後は病期Cまでに対し限局照射前後40 Gy,引き続いて左右30 Gy,合計70 Gyを基本としている。新潟大学病院においては1997年に3次元的治療がコンピュータで自動化された。線量を70 Gyとして数年が経過した。一方で3次元定位放射線治療を受けている患者がおり販売価格もほぼ同等である。これと比べて著しい不利益を与えているかも知れないことに少し怯えている。
 時間と設備が限られた条件下での,矩形の限局照射野による前後と左右からのbox照射の治療成績を示し,現代の治療として許容範囲の治療であるかを評価する。


対象と方法
 対象は '92あるいは '95から '01まで,新潟大学病院 長岡中央綜合病院 済生会新潟第二病院 県立新発田病院において,根治照射を行った,病期C(限局した病期Dを含む)までの前立腺癌80例である。年齢は48から85歳,平均72歳で,病期はT1b:2 T1c:4 T2:36 (2a:14 2b:14 2:8) T3:20 T4:9 不詳:9例である。ホルモン療法は全例に施行され,そのうち除睾術は25例に施行された。観察期間は1〜90月で中央値は18ケ月である。
 照射は,既撮の背臥位CT参照により位置とボリュームを決定する。あるいは,フォーリーカテーテルで位置を決定しCTでサイズを決定する。 a) 限局照射前後40 Gy+左右30 Gyの群は46例で,照射野サイズは前後9×11.5〜6×6 cm,左右9×6.5〜6.5×6 cm, b) 照射前後50 Gy+左右10〜20 Gyの群は3例で,照射野サイズは前後9×11〜8.5×8 cm,左右7×6〜5×6 cm, c) 全骨盤〜小骨盤40〜46 Gy+左右で合計66 Gyの群は22例, d) 3次元的治療70 Gyは8例で,振り角は360° 90° 60° とした。X線エネルギーは,10 MV-X線15例,6 MV-X線25例,4 MV-X線は40例であった。


結果
 腫瘍の制御について図1にT因子別非再発生存率を示す。再発はT1, T2, T3, T4および不詳群でそれぞれ0, 1, 3, 7例の再発を認めた。図2にT4を除く照射方法別の非再発生存率を示す。限局照射前後40 Gy,引き続いて左右30 Gy,合計70 Gyで比較的早い時期の再発が見られるが何れもT3症例である。なお,再発は主にPSA再発であり,原発巣の再発のみを表しているのではない。
 障害については,表1に急性期障害を示した。Grade 2までの障害が44例にみられた。臀部の皮膚炎Grade 2がその主なものである。晩期障害はGrade 1・2・3それぞれ5・4・1例を認めた。Grade 2に満たない症例は症状が短期で軽微なものばかりであった。表2にGrade 2以上の晩期障害5例を示した。障害の出現時期については2年以内が多いが,5年後の出現も1例見られた。何れの照射方法でも障害は発生しており,照射方法と障害の発生について関連は見出せなかった。

考察
 生存率を評価するには観察期間が短いが,諸家の報告と比べ極端に不良とは言えないようだ。全例にホルモン療法がなされており当然かもしれない。ホルモン療法と放射線療法の併用の有効性が言われており,障害についても併用による増大はないと思われた。放射線療法失敗後の姑息療法の時期までホルモン療法の併用を控える理由は見出せなかった。


図1. T因子別非再発生存率

図1. T因子別非再発生存率

図2. 照射方法と非再発生存率(T4を除く)

図2. 照射方法と非再発生存率(T4を除く)

図3. 非障害(Grade 2以上)生存率

図3. 非障害(Grade 2以上)生存率

障害についてはやや多い。急性期障害は臀部の皮膚炎Grade 2が多いが,大きな訴えはなく,尿路消化管の障害はいずれも軽微で治療を要しなかった。この点で問題なかろうと考えている。晩期障害は5例にGrade 2および3を認めた。これについて泌尿器科医の印象を大きく損ねるものではなかったが,やや多いかも知れない。障害と照射野サイズ・線量の関連は明瞭でなかった。線量が70 Gyを超える直腸の領域の広さが障害発生に関連するという報告もあるが,我々の簡便な方法は3次元定位的方法に比べ,照射野のサイズはさほど大きくない。この点むしろ制御率の低下の方を恐れていたのである。


表1. 急性期障害(Grade 1〜2)

表1.  急性期障害(Grade 1〜2)

表2. 晩期障害(Grade 2以上の障害 : 5例)

表2.  晩期障害(Grade 2以上の障害 : 5例)

まとめ
 '92あるいは '95年から '01年までの間,新潟大学及び関連の施設で前立腺癌の根治照射例80例に対し,比較的簡便な手法を主体とした治療を行った。その成績と障害を見たが,観察期間が短いため概観するに留まった。晩期障害Grade 2以上がやや目立った。この方法で早急の改善を要するほどと考えていない。