第三十七回北日本放射線腫瘍学研究会記録 主題 「前立腺癌の放射線治療」,12-13

1)  当院における前立腺癌の放射線治療

 

山形大学医学部放射線科
   石 山 博 條

目的
 当院における前立腺癌の照射法と1997年から2000年までの成績を示し検討を加える。


対象
 原体照射を用いて根治照射(boostも含む)を行った8例を対象とした。年齢は56歳〜84歳(平均69.4歳,中央値70歳)であった。組織学的分化度は3例が高分化型・3例が中分化型・2例が低分化型であった。また病期は3例がstage II・4例がstage III・1例がstage IVであった。8例すべてに内分泌療法を併用しており,診断直後から照射前〜照射中〜照射後にかけてLH-RHアゴニストと抗アンドロゲン剤を共に使用(Total androgen blockade)した。また内分泌療法で生化学的再燃を来たし,その後,放射線治療を行った例が8例中2例含まれていた。


方法
 5例を原体照射のみで,3例を骨盤照射+原体照射で照射した。治療計画装置はFOCUSを使用し,前立腺の輪郭より1.2 cmのマージンを取ってplanninng target volumeを設定した。照射線量は70〜74 Gyだが,60 Gy照射後に背側のマージンを0.5 cmに削減し直腸の晩期有害事象の軽減を図った。
 当院では内分泌療法を放射線治療に先行して行っているが,初診時のPSA値・組織学的分化度・年齢によって内分泌療法開始から放射線療法開始までの期間が異なっている。今回の検討では初診時PSA値15 ng/mlを境界として2つに分類した。 15 ng/ml以下の場合は年齢が平均63.3歳と若く組織学的分化度の低い症例が大半で,放射線治療を平均2.25ケ月で開始した。15 ng/ml以上の場合は年齢が平均75.5歳と高齢で組織学的分化度が高い例が多く,平均28.75ケ月で放射線治療開始した。


結果
 生存率および局所制御率は100%だが,生化学的再燃が1例に認められた。またgrade 1の直腸出血が1例に認められた。ただし経過観察期間は1.8〜23.9ケ月(中央値8.9ケ月)と短期間であった。
 全体のPSA値の推移を見ると,初診時に平均34.0 ng/mlであったものが照射前には12.3 ng/ml,照射後には1.13 ng/mlと良好に抑制されていた。初診時PSA値が15 ng/ml以上であった場合は,初診時64.0 ng/ml→照射前19.5 ng/ml→照射後0.19 ng/ml, 15 ng/ml未満の場合は初診時8.47 ng/ml→照射前4.93 ng/ml→照射後4.31 ng/mlであった。15 ng/ml未満の場合のPSA値抑制があまり良好ではないが,遠隔転移があった症例・内分泌療法後に生化学的再燃を来たしていた症例が含まれているためであり,その他の症例のPSA値抑制は良好であった。


考察
 前立腺癌の根治照射に必要な線量について,欧米の報告では70 Gy以上とするのが一般的であるが,本邦のように内分泌療法の併用を前提としたものではなく,内分泌療法併用時の必要線量については,いまだ確立していない。ただ60-70 Gyの線量で良好な成績を出している報告が最近見られてきており,当院でも線量の抑制を計りたい。
 放射線・ホルモン併用の有用性は既に確立されているが,手術・ホルモン併用に目を向けると,術前のホルモン療法は局所制御・生化学的再燃・生存率について現在のところ明らかな有用性が示されていない。その理由として全摘出後の術後巣にポケット状に微視的腫瘍細胞の残存している可能性が考えられている。ホルモン療法で縮小した腫瘍のみを摘出したのでは癌細胞が残存してしまうのであれば,原体照射やIMRTなど局所に限定して照射する方法は術前ホルモン療法+手術と同じ結果になってしまう可能性がある。この場合,照射野をホルモン療法前の腫瘍に合わせるべきか,ホルモン療法後の腫瘍に合わせるべきか問題になるかもしれない。


結語
 当院では,ホルモン療法を併用し原体照射を使って70〜74 Gyの照射を行っているが,特に重篤な副作用なく大部分の症例で局所制御が得られている。  ホルモン療法併用時の必要線量や照射野については十分なデータがなく,今後検討が必要と思われる。