第三十六回北日本放射線腫瘍学研究会 主題「IMRT」,16-17

2) IMRTをはじめるにあたって

 

札幌医科大学医学部・放射線医学講座
   中 田 健 生・大 内   敦
   永 倉 久 泰・坂 田 耕 一
   晴 山 雅 人
札幌医科大学医学部付属病院・放射線部
   舘 岡 邦 彦・和 歌 正 明
   長 瀬 大 輝・才 川 恒 彦
 

 今回我々はIMRTをはじめるにあたりQAを中心に検証した。
 放射線治療・外照射は腫瘍に線量を集中させ,正常組織への照射を軽減させる方法を追求してきた。ビームの門数を増やしたり,重要臓器を外すためビームの角度を振ったり,ビームのウェイトを変化させたりし最適化を行ってきたわけだが,IMRTはこの最適化の一方法である。
 Forward planning ─ 従来の治療計画ではビームパラメーターを設定しその線量分布を描かせ,さらに最適になるようにパラメーターの設定をしなおすという試行錯誤を繰り返し行っていた。
 Inverse planning ─ IMRTにおいては,このパラメーターの設定が非常に煩雑でマニュアルで行うにはトライアンドエラーの時間が膨大にかかる。そのためターゲット・各臓器と目標線量を入力し後の試行錯誤はコンピューターに任せる方法を用いる。
 われわれが用いているFOCUSでのInverse planningのアルゴリズムはSIITP (Simultaneous Iterative Inverse Treatment Planning)が使われている。
 Inverse planningの問題点は,入力したターゲットに対して自動的に線量分布を作成するため,PTV・ターゲットの大きさや形,マージンをどのように設定するかが重要となる。またGD (goal dose)やIW (important weight)の値をいくつにするのかといったことも重要となってくる。
 実際の作業は,CT画像をもとに外輪郭,腫瘍(標的),重要臓器を設定し,腫瘍(標的)に対する目標線量(最小線量),重要臓器に対する目標線量(最大線量)を入力し,さらにそれぞれの目標線量に対しIWを設定する。
 その他,field size, beam number, beam angleを入力し,そしてInverse planningを行いintensity mapを作成する。
 Intensity mapのsegment化にはMLCを用い,Step and shoot法で照射した。
 IMRTでは腫瘍の周囲正常組織への線量を軽減させるため,ターゲットとの境界で線量勾配が急になる。そのため幾何学的な位置のずれがターゲット・周囲組織線量ともに大きく影響してくる。
 QAは治療計画装置と実際に得られる線量との相対比較が行われているのが世界的な現状であるが,IMRTのQAとして確立されたものは現段階では存在しない。いろいろな検証方法で比較検討できれば実証性は向上するが,2つのデータ間での比較では「確からしい」としかいえない。
 現状の治療計画装置での線量も正確に計算しているとはいえない。IMRTでつかわれるconvolution, superpositionといったアルゴリズムもビームのあわせこみにおいて非常に小さい照射野や複雑な不整形照射野で誤差を含んでいる。
 多重散乱を無視した計算では骨や空気で誤差を生じうるし,その他non-divergentなど治療計画装置にも誤差が含まれていることを考慮してQAを検証しなければならない。
 治療装置の問題の一つとしてMLCのつなぎ目,また隣同士のMLC間からの漏れがあり,無視できないと考える。
 実際の測定では,IMRTは複数のsub-fieldを用いて強度変調するため,積算形・積み重ねのできる測定器を用いる必要がある。そのため,beam profileはフィルム法で行うのが一般的である。
 データはフィルム現像の条件にも左右されるため現像処理の必要ないRadiochromicというフィルムや半導体検出器を用いた測定法もあるが今回の検討では用いていない。
 今回我々は上咽頭腫瘍,前立腺腫瘍に対する5ビームのIMRTを仮想プランニングし,フィルムに実際に照射し現像したものをDosimetryというスキャナーでとりこみ,RIT113というソフトで解析しbeam profileを作成した。そして計画装置と実測データとを比較検証した。
 @ ビームプロファイルの検証 ─ 各ビームのガントリー角度を0度にしAPで水固形ファントムに照射し,深さ10 cmにおける中心軸上のプロファイルを治療計画装置とフィルム法とで比較した。ビームプロファイルの形状は大変よく似ていたが,線量の急勾配領域で約8%の相違がみらた。
 A 線量分布の検証 ─ 水固形ファントムに垂直に入射し,深さ10 cmにおける線量分布では,計画装置とフィルムで高線量域の70%位まではよい相関が得られたが,それ以下では相違が大きくなっていた。
 B 人体ファントムを用い実際の治療を想定しての検証 ─ 人体ファントムをCTで取り込み,治療計画装置で線量分布を作成したものと人体ファントムの照射部位にフィルムを挾み実際に照射したものを比較すると,垂直面での検証と同様に高線量領域の70%領域までは非常によい相関が得られた。
 C 治療計画装置内の仮想ファントムとフィルムを水固形ファントムに挾み実際の治療ビームを照射したものの比較 ─ これも同様に70%領域まで非常によい相関が得られた。
 以上の検証から簡便的なこの水固形ファントムをつかったものが,現状では合理的な検証法であると考えた。
 IMRTを開始するにあたって,我々はQAを行い実測データと線量分布との相違・合致を確認した。実際の治療を開始するには,この誤差が許容範囲内であればIMRTを行い,許容範囲を超えていれば従来の治療法を行うこととなるだろう。ここで許容値は現段階ではまったく未知数であり,各装置の精度はもちろん対象症例ごとに変化していくものである。とにかく現状ではあらゆる場面において必ず誤差が生じ得ることを認識し,実際の治療を開始するにあたり,どこまでその誤差が許容できるかということを考えなければならないと考える。